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デンジャラスさん、頑張ってみる

 さてと、いつも通りに照明魔法を唱えまして部屋を明るくします。それから、暗闇の中から現れた偉大な聖竜様を確認するのです。

 うん、今日も大きくてご立派ですし、白い体表が輝いても見えます。ガランガドーさんと違って、とても聖って感じです。



「聖竜スードワット様?」


 デンジャラスさんの呟きが聞こえました。

 この人は第三の目が額に出来たので、今も大きな宝石でそこの部分を隠しております。


「はい。そうです」


「どうして、こんなタイミングで?」


「それは今から聖竜様に説明しますからね」


 私は一歩踏み出します。

 聖竜様は眠っておられるのか、首を下げて頭を地面に着けたままの状態です。



 ある程度近付いたところで、目蓋が開かれ、その奥の眼光が鋭く私を射るのでした。



『メリナよ、久しいな』


「はい! お久しぶりです。こちら、献上品で御座います」


 私はポケットから紙に包んだ物を取り出します。


「何であろうか?」


「砂糖です。聖竜様にいつか差し上げたいと思い、肌身離さず持っておりました」


『おぉ! 砂糖か!?』


 目を見開いて喜ぶ聖竜様。それを見て私も嬉しくなります。茶を飲む機会がいつ来ても良いようにと、こっそり忍ばせていたものでして、私は用意の良さに自分を誉めてあげたくなりました。


 ぐいーんと首を回しながら私の傍へと近寄られまして、あんぐり開いた口の中へ私は油紙から砂糖をサラサラと落とします。


『くぅ! あまーいぃ! これは癖になるね!』


 聖竜様は興奮すると、くだけた口調になられます。普段の威厳とのギャップが大変に私の心をくすぐりますね。



『さて、メリナ。今日はどうしたのだ? お主は遠くに留学していたと記憶しているのだが』


 お砂糖を堪能し終えた聖竜様はまた首を持ち上げてから、私に問います。


「すみません。聖竜様にご許可を頂きたく、失礼ながら急な訪問となりました」


『うむ。申してみるが良い』


「故あって、私、シャールに向けて軍隊を送り込むことになりました。聖竜様はシャールの守護神ですので、無断で攻めたら無礼なことにならないかと思いまして、許可を頂きに参りました」


『……ん? ちょっと分からないなぁ。あっ、ごほん。説明をするが良い』


「私が留学していた諸国連邦の人達がデュランを経由して向かっているんです」


『諸国連邦であるか?』


 聖竜様はご存じなかったでしたか。そっか、私がどこに行っているか伝え忘れたかもしれませんね。


「はい。絵本によれば、聖竜様が2000年前に闇の邪神を退治した所です」


『あぁ、マイアの家の近所の?』


 つまりデュランの近くですね。近所と言うには山越えとか大変そうですが、それは聖竜様のスケールが大きいが為にそう感じるのでしょう。流石、聖竜様!


「そうです、そうです。そこの人達がシャールに向かって進軍中なのです」


『しかし、何故にメリナ、お前が送り込んだのだ?』


 …………私がそんな願いを皆に言ったからですが、大元はアデリーナが私を竜の巫女から諸国連邦の王の補佐官なんていうふざけた転職を実行しようとたからです。


 しかし、慎重に言葉を選ぶ必要があります。聖竜様に私が敵意を持ったとか、誤解を受けてはなりませんからね。如何にアデリーナの極悪非道な悪行を表現するかが大切なのです。


 なのに、その隙にデンジャラスがしゃしゃり出てきました。



「メリナさんが皆を煽ったからです。それに聖女イルゼも乗ってしまいました」


 ここで裏切るのか、デンジャラス! 聖竜様の御前で血の海を作る訳にはいかないという私の苦渋の判断がなければ、即殺でしたよ!


『ふむぅ。事情は有るのであろうな。メリナは優しい娘だと思っておる。以前にシャールとタブラナルの戦争を止めておるし、ヤナンカも救ったのであるから』


 おぉ!! 私を庇ってくれるのですか、聖竜様!! ここ最近では初めての事ではないでしょうか!?

 私は思わず感涙を流してしまいますよ。



『ところで、メリナ。そこの怖い人は誰であろうか?』


 ん?


「今の名前はデンジャラスさんですが、クリスラさんですよ。聖竜様も何度かお会いしています」


『えぇ! 雰囲気、変わったね! 何があったの!?』


「ご無沙汰しております、聖竜スードワット様。聖女を辞め、今は好きに生きようかと昔は出来なかった姿を楽しんでおります。遅れた青春でしょうか」


『う、うーん。そういう青春もあるのかなぁ……』


 その聖竜様の感想、よく理解できますよ。場末の酒場にもいないくらいのアバズレ姿になっていますからね。片耳ピアスも鶏冠頭もそうですし、金鎖がジャラジャラの黒皮服もガラが悪いです。しかも、今日は進化なされていて、遂に下唇を貫通する謎のリングが装着され、剃り込んだ頭の目立つ所に牙を剥いた獣、たぶんリンシャルっぽい狐の入れ墨が入っているのです。


「スードワット様。戦を止めてはくれぬのですか?」


 デンジャラスさんの言葉に聖竜様は暫く黙ります。それから、考え抜いたと予想される答えを言います。


『人が戦をするのは理由があろう。その理由を解消しなければ止められぬ。解消しても次の問題が発生する。世は複雑で動き出したものを遅らせることはできても、止めることはできぬ』


「戦士は良いでしょう。自らの選択で命を賭けているのですから。しかし、幼い子供達は抵抗も出来ずに惨めに朽ちるのです。止められるのなら止めるべきです」


『そなたの訴えは理解する』


「メリナさんにご命じ下さい。スードワット様のご命令なら、この天賦の才に恵まれた娘は全力をもってお応えします。何より、彼女が戯れで放った言葉が暴走しているのです。責任も取らせるべきです」


『それも理解する。しかし、人間同士の戦争は世界を潰さない。我にとっては小さなことである』


「このままでは多くの死者が出ます! あなたの巫女であるメリナさんに、その切っ掛けとなった汚名を被せるのですか!?」


 いやー、デンジャラスさんは相変わらず熱い想いを持たれていますねぇ。でも、それの裏にある本意はデュランの街を守ることなんだと思います。本格的な戦争が始まる前に何とかしたいという考えでしょうね。弱気です。



『クリスラよ。……我はそなたが言及する人間の戦よりも懸念していることがあるのだ』


 ふむ、それは大変ですね。


「聖竜様、仰ってください。その懸念、忠実なる僕であるメリナが排除致します」


『その腕輪、マイアが魔法回路を操作してここには飛べぬようにしていたと記憶しているのだが』


 あっ、そうでしたね。そんなことを言ってました。確か、私が巫女見習いの頃です。腕輪を使って、ここに来た時でしたね。


「でも普通に来れました」


『では。メリナよ、填めている転移の腕輪をクリスラに渡すが良い』


「はい!」


 仰る通り、私は即座に腕輪を外してデンジャラスさんにお渡ししました。デンジャラスさんも素直に腕に装着します。

 瞬間、聖竜様が安心なされたように溜め息を付かれました。


「それがご懸念ですか、スードワット様?」


 デンジャラスさんが静かに訊きました。


『ここに来れたのは不可思議であるが、マイアの操作ミスかもしれぬ。しかし、それは個人的な懸念。それよりもメリナが何度も繰り返しそれを使うことを、我は世界のために懸念しておる』


「聖女に伝わる宝具です。邪悪な物では御座いません。何より、それは聖竜様が大昔の聖女にお渡ししたものです。なのに、メリナさんが使い続けた先に何があると言うのです?」


 聖竜様はデンジャラスさんの問いに答えず、私の目を見て言います。


『メリナよ。それで良い。二度とそれを填めてはならぬぞ。厳命である』


 理由は仰いませんでしたが、聖竜様のお言葉ですので、私は従いましょう。そう言えば、マイアさんにも注意された事が有りましたね。何故だったかなぁ。



「スードワット様。デュランにあなたの社を整えます。ですので、何卒お力添えを頂きたいのです」


 デンジャラスさんは、だから戦争を止めて欲しいと話を戻しました。


『うーん……。クリスラよ、熱意は分かる。しかし、我はこの地で大魔王が復活しないか監視しており、また、復活しないように守護しておる。それが我の役目であって、人間の営みに干渉することは余り行っておらぬ』


「そうであっても!」


『マイアに相談するが良い。後で転送しよう』


 聖竜様に断言されて、デンジャラスさんも食い下がることを諦めました。



『他にはないか?』


 ふむ、詰まらぬ話は終わりましたね。それでは私の出番です。


「はい! 有ります! 雄化は順調ですか?」


『う、うーん。そこそこ、そこそこかな』


「邪神の肉を喰らいましょう。そうすれば願いが叶って、雄になれると思うんです!」


 でも、私が竜になれていないのはおかしいですね。願いの量が足りていないはずは無いし。

 そんな矛盾を聖竜様もお悟りになられ、私の言葉を信じられなかったのかもしれません。


『はい。では、転送します。お砂糖、ありがとう』


 と、あっさりとマイアさん一家が住む場所へと移動させられたのでした。



 すぐにデンジャラスさんはマイアさんに近付き、深く頭を下げます。


「マイア様、ご助力をお願いしたく参上致しました」


「そうですか……」


 マイアさんがチラッと私を確認します。


「何なりと申して下さい。尽力致します」


 頼もしい答えにデンジャラスさんはホッとされました。

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