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机と椅子

タイトル、微修正しました

 今日はベセリン爺に大きな馬車を手配してもらいました。何故なら、私に相応しい机を学校に設置しないといけないからです。自習室に丁度良いものがあって良かったです。


「お嬢様、授業で分からないところは御座いませんか?」


「はい、大丈夫で御座います。王国とは違った考え方もあって毎日新鮮です。勉学は私を磨いてくれますね」


 自分で言っておきながら、勉学ねぇ。すっかり忘れていました。

 でも、実は、私には必要ないと考えております。蛮族でないにしろ後進国のレベルなら、10足す10は20くらいでしょう。それを越えたら指の数が足りなくて、髪の毛を抜いて数えるのではないかと思います。



 さて、学院に着きました。馬車に積んだのは良いけれども、威圧感が有り過ぎて困っていた、でっかい机を下ろします。

 しかし、艶々だし、座るところの両脇に引き棚はあるし背棚も私より高くて、やっぱり、とても豪華です。


 ヨイッショっと!!


 一旦地面に置いた机を、腰に力を溜めて持ち上げます。物書きをする天板のところに椅子も置いてありますが、自習室の物ではなくて、別の特別な椅子を用意しました。

 脚が弧の形になっている安楽椅子です。座って体のバランスを動かすと、ゆらゆら動くのです。とても楽しいです。

 今もゆらゆら揺れていますよ。

 なお、今日のお弁当は最初から引き出しに入れております。



「では、行って参ります」


「お気を付けて。爺はお嬢様の元気な姿が見れて幸せです」


「もうやだなぁ。学校に行くだけなのに。本当に爺は心配性で御座いますね」



 一歩踏み出す。背棚で前が見えません。なので、誰かにぶつかりました。


「あっ、すみません」


「ショーメです。メリナさん……。これはいったい何でしょうか?」


「おはようございます。これは私専用の机です。ショーメ先生も手伝ってくれるのですか?」


「……はい」


 あれ? ショーメ先生なら確実に断ると思っていました。



 しかし、彼女は手は出しませんでした。でも、代わりに、先導役をしてくれるみたいです。他の方に注意とかも促してくれていました。

 正直、そっちの方が助かりましたね。この程度の重さなら私は余裕です。アシュリンを肩車してシャールの街を歩んだ時の方が、あいつが暴れる分、辛かったですよ。


 お陰で、たまに何かにぶつかりながらも、私は教室へと無事運ぶことが出来ました。


 余りに豪華な机だったからでしょう。扉を開ける前には多少の騒々しさを感じていた教室だったのに、私が入ると水を打ったように静まり返りました。

 貴族のご子息でも、この逸品の良さには目を引いてしまうのですね。


 さて、昨日、ゴミが去った跡地に置きます。申し訳なかったのですが、前の席の人にも場所をずれてもらいました。横幅も足りないので、サルヴァの取り巻きが座っていたと思われる机を撤去します。


 ふぅ。

 完璧です。


 全く教壇は見えなくなりましたが、椅子に揺られるのは最高です。引き出しを開け閉めして、そのスムーズさと閉まるときのパッンって音を楽しみます。何回もパンパンと教室中に音を轟かせています。



「メリナさん?」


 あっ、ショーメ先生がまだ横にいました。


「あっ、もう用事は終わったので持ち場に戻って良いですよ?」


「いえ、どうしても伝えたいことが有りますので、こちらに来て頂けますか?」


 む。

 こいつは王国サイドのスパイ。諸国連邦の動静を掴むために忍び込んでいるのです。

 どうやら、このメリナの頭脳を頼りにしたいようですね。困ったものです。やれやれです。


「メリナさん、いつまで顎に手をやって椅子に座っているんですか? 思案顔が妙にムカつきます。私も忙しいので、早くなさって下さいませんか」


 ……お前、私は前聖女なんですよ? お前の元上司に面と向かってムカつくって告げるのはどうかと思いますよ。



 しかし、私はショーメ先生に付いていきます。素直な生徒ですから、先生の言うことにはちゃんと従います。さて、案内されたのは庭の端でした。


「ショーメ先生、手早くでお願いしますね。朝の会が始まりますので」


「はい。私もレジスさんがメリナ様の机に驚く顔を見たいとは思うのですが、その前にメリナ様の驚愕する顔も見たいと思っております」


「私が驚愕……?」


 何だ? アデリーナが動いたのか?

 この私の学生っぷりを確認しに来るとでも言うのかっ!?

 急にお腹が痛くなって参りました!!



「昨日、メリナ様が保健室を去られてから、大変な事件が発生しました」


「アデリーナが空間を切り裂いて出現してきたのですか!?」


「どんな魔王で御座いますか……。違います。アデリーナ様の件では御座いません」


 なーんだ。じゃあ、何でも良いです。安心しました。



「あの後、サルヴァはメリナ様のご命令通りにサンドラ副学長に例の言葉を吐きました」


 うーん。

 あんまり聞きたくないですね。


「その告白の結果、副学長も受入れられ、昨晩よりお付き合いを始めておられます」


 …………は?

 サルヴァと副学長が? 生徒と副学長がお付き合い? 副学長は老人ではないですが、結構なお歳ですよ。皺も目立っていました。


「密偵より、お熱い夜だったと報告が有りました故、急ぎメリナ様にお伝えしました」


 ショーメ先生は言い終えて、にっこりされました。私は唐突な出来事に唖然としたままです。


「私一人では事態の珍妙さを抱えきれなかったので吐き出させて貰いました。聞いて頂き感謝致します、メリナ様」


 にっこりじゃないな、ニヤついてやがる。

 彼女はそのまま私を置いて去っていきました。マジでお前、その件だけを伝えに来たのかと、それにも驚愕致しました。知りたくない事を聞かされたこっちの身になって下さい。



 でも、ヤッベー。私のせいですかね。二人の人生を狂わせてしまった罪悪感みたいなものが心に湧いてきます。

 しかも、もう一線は越えてしまったようです。お熱い夜とはそういう意味でしか使われないと思います。

 愛の伝道師メリナ。新たな称号が刻まれた気がしないでもないですが、これ、ヤッベーな。いや、でも、お二人が満足なら全然問題無しですよね。うん、お互いに我に返るなと叫びたいです。



 恐る恐ると教室の扉を開き、片目で中を覗きます。うん、サルヴァはいない!

 私は少し気を楽にして、自分の席に座ります。

 しかし、その直後にヤツも教室にやってきたのです。



「おす! 諸君、おはよう!」


 ひどく爽やかな笑顔です。クラスメイトも何事かと驚いています。

 そのまま私の方へと歩んできました。


「巫女よ、俺は遂に愛を知った!」


 キャーー! 全く聞きたくない! 聞きたくない!


「礼を言おう。感謝する」


「え、えぇ。お幸せに」


「……もう知っているのか。さすがだな。……憑き物が落ちたように、俺の心は晴れ渡った。フッ、これまでの失態を挽回せねばならぬな。生まれてくる子供の為にも」


 いやー、気付いていないかもしれませんが、他の何か悪いものに憑かれたんだと思いますよ。怖いです。



 私の鼓動が収まらない内に、レジス教官が入ってきて朝の会が始まります。何かを喋っていますが、机に邪魔されて見えません。

 サルヴァは私の横の方で床に胡座をして瞑想していまして、そちらの方が気になります。



「皆、大事な話がある。聞いてくれ。と言いたかったんだが、メリナ、いるのか!? いるなら返事をしろ!」


「はーい、います」


 私は机の影からひょこっと顔を出しました。安楽椅子が前に傾き過ぎて転げそうになったので、すぐに戻ります。引き戻される時に、お腹がキューってなって面白いです。


「お前! 何のつもりだ!? そのバカでかい机、何を考えているんだっ!」


「私に相応しいものを用意致しました。大丈夫です。気にしないで下さい。見てください、揺れる椅子まで持ってきたんです! ランチにはなんと生肉です! もちろん、魔法で焼きますよ。あと、人肉じゃないですからご安心を」


 私はウインクしてオチャメ風に決めてみましたが、皆からは私の姿は見えませんね。残念です。


「それから、サルヴァ! お前、着席しろ! 床に座るな!」


「レジス教官、俺は愛を感じている。分かるか。この床の振動を通じて伝わるサンドラの心音が」


「サンドラって副学長か? 分かる訳ないだろ……」


 完全に同意です、レジス教官。

 私の安楽椅子の振動ですよね、それ。


「何だよ、この状況は……。お前らな、俺、すっごく辛いんだぜ。分かってくれよ……」


 レジス教官が泣き顔になっているのを机の影から覗いて確認しました。それから、また、安楽椅子が引き戻って、お腹がキューンとなりました。

 楽しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] マイナス+マイナス=プラス とかは数式上でよく有るけど、 現実では絶対ならないよなぁww
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