街並み
私はサルヴァの先を歩きます。生意気にも横に並ぼうとしたので強い目付きで牽制致しました。
同類だと思われては堪らないからです。
幾つもの建屋を通り過ぎ、私の担当教官であるレジスが待つ部屋へと急ぎます。なお、あの部屋は教室と言います。サルヴァがそんな事を言ったからで、私は学習しましたよ。
今から私は教室で学び、非凡さを蛮族の皆に知らしめ、喝采を浴びるのです。楽しみです。そして、お昼ご飯を見せ付けながら堪能するのです。もう少しで幸せが待っています。
そんな私の思いを踏み躙る声が前方からしました。
「こっちです! 第三体育室の後ろ! あっ、いました!」
股間が真っ赤なヤツと、服にべったり血糊が付いたヤツが教官と思われる人間を先導して、こちらに向かって来ていました。
「サルヴァ様! ご無事でしたか!」
私は振り向いて、呼ばれた男の顔を見る。まさかの裏切り。チクリとは下等な手段を取ったものですね。
「……ち、違う。これはあいつらが勝手にしたことだ」
「ほう。では、次に会うまでに私を入学させておきなさい。また明日来ます」
私は足に魔力を溜め、一気にジャンプします。昔、アシュリンさんがよく使っていて羨ましいと思ったものですが、天才である私に掛かれば、何てことのない技でした。
「なんて軽業だ!」
「逃げたぞ! 追えっ!」
あなた方が私を捕らえることは無理です。諦めください。一方的な蹂躙を避けてあげたのですよ。中身の入ったランチボックスに感謝なさい。女中さんの想いが篭った大切な料理ですから、暴れてグチャグチャにしてはいけません。
校舎の屋上へ華麗に降り立ち、それから、更に建屋間を次々に跳び移って、学園の外に出ます。その間、手に持ったランチボックスが激しく上下しないように神経を使いました。
さて、今日の通学も無事に終えた訳で御座いますが、ベセリン爺はいない模様ですね。昨日と違って今日は昼御飯が必要なくらいには帰りが遅くなるのだと、今更ながらに私は気付きました。
と言うことは、爺が迎えに来るまで私はフリーなのですね。
久々のフリーダムです。神殿ではアシュリンの目があって中々、寛ぐ事が出来ませんでした。
何をしようか迷いますね。
私は街を散策します。うん、人々の姿格好はシャールと変わらないか、若干、薄汚いくらいでしょうか。蛮族にしては頑張っているなと思いました。
建物の高さはそんなになくて、二階建ては珍しい感じですね。でも、遠くにはお城っぽい尖った感じの屋根が見えました。偉い人は高いところに登りたがります。見下ろすのがそんなに気持ち良いのかと疑問は有ります。
街中は賑わっていて、大通りの両脇には簡易の日除けを設けての屋台が並んでいます。神殿があるシャールでは少し貧しい地区に多い形式です。ちゃんと建物に構えている店も有りますが、少ないですね。
あと、冒険者ギルドも有りました。これはどこの街でもあるのですが、看板も王国と共通の鳥のマークなのは驚きました。皆が喋る言葉もそうですが、王国の影響を大きく受けているのかもしれません。
蛮族の国だと思っていましたが、王都の貧民より良い暮らしをしています。いや、私は貴族学院に通っています。ということは、この辺りはこの国でも一等地なのかもしれません。
でも、山とかも近くてそんなに大きい街ではないのかもしれない。シャールや王都みたいに街をぐるりと囲む高い壁もないしなぁ。
んー、街全体が見たい。
この辺りで一番高い所はどこでしょうかと、私は見回します。
お城が一番良さそうですが、ちょっと遠い。やはり、あそこでしょうかね。
山です。
見た感じ、歩いても麓まで一刻くらいでしょう。そこから登って、更に一刻。お昼には丁度良い気がします。
てくてくと私は歩きます。
楽しいです。
さて、お腹の具合いからして私の見込み通りの時間で着きました。登山道まで整備されていて、もしかしたら蛮族どもの憩いの場になっている山なのかもしれません。私がいる頂上付近は木が伐られて、芝生まで敷かれています。小さな子供のいる家族なんてのも来ています。
街はやはり小さくて、シャールの街の一区画もしくは二区画分くらいです。でも、貧民街は見当たらず、均質的な街並みでした。
ちょっと感心しまして、私、この諸国連邦を見直しました。
住民は蛮族じゃないかもしれない。
王国では、弱い者はあらゆる物を強い者に奪われ、なのに、残酷に生かされます。特に獣人の扱いは酷くて、王都では無条件で虐げられていました。
この諸国連邦にも獣人がいるはずですが、貧民街がないということは普通の人間と同じ暮らしをしているのかもしれません。
王都ではガリガリに痩せた獣人の子供とかもいて、私は心を痛めたものです。あの子達、ちゃんと生きているかな。アデリーナ様に善処をお願いしましたが、あいつ、妙な拘りがあって冷酷な判断をすることがあるからなぁ。
山から街を見下ろして、全体的な魔力も俯瞰します。
皆、魔力が少ないですね。思い返してみれば、レジスもそうでしたが、教官と呼ばれる職業の方々も魔力の所持量が王国の村人程度でした。
土地的なものかもしれませんね。
あっ、そうか。だから、王国の影響を受けやすいというか、ほぼ属国みたいな扱いになっているのか。
王国の人よりも魔力が少ないという事は魔法を使える人間も少ないのです。これでは戦争にならないでしょう。一方的に遠距離攻撃を喰らって死傷者を出すのみです。
アデリーナ様は弱小国家の集まりと言っていましたが、うん、もしかしたら、竜の神殿の巫女さん達だけでも、これらの国を支配できるかもしれません。
足下にボールが跳ねてきました。
私はヒョイと拾い、追い掛けてきた小さな女の子に手渡します。
「お姉ちゃん、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
子供は可愛い。
この子を蛮族とか蔑みはしない。してはいけない。
「お姉ちゃん、何してるの?」
「景色を見ていました。きれいな国です」
「そうなんだ。うん、私も好きだよ、ここ」
……ちょっとアレかな。
私、調子に乗っていたかもしれません。反省しましょう。
昼食を終え、心地よい穏やかな風を受けながら、私は青々とした芝生に寝転がり空を見ます。少しの雲は有りますが、快晴。
一眠りしますかね。
メリナの日報
今日の私はシャイニング。
あいつの股間はハプニング。
真っ赤に染まったチンチング。