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部署の小屋にて

 バシャバシャと冷たい水で顔を洗うと、眠けも幾分か取れた気分です。洗い場から手を振り振りしながら職場に戻ります。


 私の職業は竜の巫女でして、女性なら誰でも憧れるとても高貴なお仕事です。つまり、私に相応しい職です。


 頭からスッポリ被る形の真っ黒い巫女服にも体は馴染んでいますし、ちゃんとパンツも履いているので、強い風が吹いてスカートが捲れても心配無用です。



 私が心身ともに仕えるのは、大昔に魔王から世界を救った偉大な聖竜様。今はもう地上に現れる事はなくても、私達が住む街、シャール中の人から信仰される伝説の存在です。

 でも、伝説と謂えど実在される方でして、実は私も毎朝お話をします。


 しかし、私の職業である「竜の巫女」の竜は勿論、その聖竜スードワット様の事なんですが、巫女って何なんでしょうね。巫女見習いとして神殿に就職してから、もうすぐ10ヶ月です。だけど、巫女は聖竜様のお役に立てているのか疑問に思う所存です。昇格して見習いが取れた今でも答えが出ません。


 シャールの竜神殿に勤める事は一種のステータスです。でも、奇抜な人が多いし、私の部署名なんか、あんまり他人に言いたくない感じの魔物駆除殲滅部でして、その物騒な文字面は可憐な私にも荘厳な聖竜様にも相応しくありません。



「おいっ! メリナ、濡れた手を振り回すな! 書類が汚れるだろ!!」


 木製の事務机に座って、私を怒鳴ったのは同じ部署の先輩のアシュリンさんです。女軍曹みたいで髪の毛を短髪に刈り込んでいるのは、何なんでしょう。彼女も巫女なのですが、完全に職業を間違えていると思うんですよ。実際に元軍人だし。


「貴様! 今日も仕事をしてないのか!?」


 ひゃー。ヤツの目は節穴で御座います。

 私はちゃんと朝から洗濯をして、はたきで埃を落として、それで、もう仕事が終わったから、暇なので腕の毛穴がいくつ有るのか数えていたんです! 


 決してサボってなんていません!

 私はその旨を主張します。


「メリナっ! お前は恥ずかしくないのかっ!? お前の後輩二人は魔物を狩りに森へ入って三日目なんだぞ! 恥ずかしくないのか!」


 恥ずかしくないのかと、念入りに二回も訊かれました。

 返答は知らんがな、ですよ。


 私、そういう野蛮な事は好みじゃ御座いません。そもそも、あいつら、よっぽどの事が無い限り死なないんですから、魔物狩りは適職でしょうに。



「ったく、戦闘以外は使えんな。もう良い。アデリーナが呼んでいた。行ってこい」


 うわ、めんどくさい。


「あいつ、いつまで神殿にいるんですか? 住み処に帰れって思うんですけど」


「いいから、これ持ってダッシュで行ってこい!」


「えー、私、もう新人じゃないから関係ないですよ、あいつ」


 アデリーナ、いえ、アデリーナ様は案外高貴な人なのに、巫女見習いの寮の管理人をしている奇特な人です。総務部の新人係とかいう、ショボい職責です。あと、冷酷で酷薄です。

 出来れば、近寄りたくない人種ですね。



 とはいえ、もうすぐお昼なのはお腹的に理解しておりまして、アデリーナ様からランチのお誘いだとしたら、良いものが食べられるかもと期待して向かうことにしました。


 遠い国の諺にあるみたいに、虎穴に入らずんば虎児を得ずの心境ですね。



 私はアシュリンさんから差し出された封筒を受け取り、元気よく言いました。


「行ってきます!」


「あぁ、次こそは最初から素直に返事をするんだぞ」


「私ほど素直な女性はいませんよ!」


 言い放ちながら私は扉をダンッと開けて、お外へ飛び出しました。今日も快晴で、干していた替えの黒い巫女服が穏やかな風に揺れています。

 そんな気持ちの良い天候の中、私は強く地を蹴って、多少の土煙を上げながら、お昼ご飯が待つ新人寮へと急ぎました。


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