別れ
唇と唇が触れそうになった時
「あーーっ!!なにやってんだよっ!」
レクスがやって来て怒りだした。
「ディルク!ダメだぞ!またアッシュが怖がるだろ!」
「レクス……」
恥ずかしくなって、顔を下にする。
木に手をついて、ディルクも下を向く。
「くそっ!レクス!俺は怖がらせていないぞ!」
「俺はアッシュを守るんだ!」
「俺もだ!」
また何やら追いかけっこが始まった。
そんな光景を見ているのが凄く嬉しくて、ただじっと2人を見つめていた。
村に3人で戻ると、村のみんなが集まってきていた。
「村長から話を聞きました。アシュレイさん、ディルクさん、ありがとうございます!」
マリーの父親、ガルフが頭を下げると、皆一斉に頭を下げた。
「本当に、何とお礼を言ったらいいのか……」
オルグがそう言うのを手で遮り
「大丈夫ですよ。私も同族なんです。出来ることなら何でもすると言ったじゃないですか。力になれて、良かったです。」
「アシュレイ様!やっぱりアシュレイ様は凄いです!」
マリーが飛び出して、私に抱きついてきた。
「マリー!何やってるんだ!離れろ!」
そう言ってセルジがマリーと私を引き剥がした。
セルジに、私は少しビクッとしてしまったが、ディルクが庇うように私の前に来てくれた。
「何よ!セルジ!またいきなりそんな事を言い出して!」
「マリー、落ち着いて。」
「はい、アシュレイ様。」
マリーは私の言うことなら、何故かちゃんと聞いてくれる。
「オルグ、まだ見せていない物があった。」
私はナディアから譲り受けた、もう一つの宝を取り出した。
「これは……」
「ナディアがナタリアの魔力が高いことに困って、魔力制御の石を、その時の村長に言って貸し出して貰った物だそうだ。特に目の魔力が強かったからと、頭に巻けるようにベルトを着けたのがそれだ。」
「そうでしたか…魔力制御の石なんてのもあったんですな。それは知りませんでした。」
「ナタリアに渡す前に村が襲われたと。貴方がそれを持つのが良いのではないでしょうか?」
「…いえ、それはアシュレイ殿がお持ちください。貴方こそ魔力制御が必要なのではありませんか?」
「それはそうですが…」
「ナディアがそれを託した、と言うことは、そう言う事だと思います。遠慮なくお使い下され。」
「ありがとうございます。」
そう言うと、私は頭にそれを装着した。
それから魔力の制御をやめてみた。
すると、凄く体が楽になった。
しかし、本当に魔力制御出来ているのだろうか?
自分では分からない……
そう思っていると、ディルクが瞳を覗き込んでくる。
何度か瞳を見られているから、もう慣れてもいい筈なのに、なんでいつまでもドキドキ言うんだろう?
「付与はされてないみたいだな。」
ニッコリ笑ってディルクが言う。
「あ、ありがとう、ディルク。」
これのお陰で、かなり楽になる。
譲り受けはしたものの、私が使って良かったのか気になっていたから収納していたけれど、使わせて貰えて良かった。
「オルグ、これは渡しておきます。」
そう言って、ナディアから譲り受けた腕輪を渡した。
「それは部属の宝では無かったようだが、ナディアの思い出がつまっている。」
そう言って、ナディアが流行らせた御守りの話をした。
それから、なぜヘクセレイを魔法の街に発展的させたのかも。
話を聞きながら、ナディアを知る者以外の人達も、自分達に会える為にしていた事を嬉しくも切なくも思い、涙を浮かばせていた。
「それでは、これは私が受け取らせて頂きます。本当にありがとうございます。」
オルグ達は、深々と頭を下げた。
それから、旅に出るのに必要だからと、食料と水を持たせてくれた。
「あぁー!やっぱりアシュレイ様と一緒に旅に出たいよー!」
「それはダメだぞ!マリー!」
「何でよ!」
マリーとセルジが言い合っている。
良かった……
皆が見送ってくれているのを背に、3人で村を後にした。
因みに、この森には私とディルクは問題なく入れる。
まぁ、それは私達の精霊が施した事だから当然なんだけれど。
色々あったけど、この村に来たから母の情報が聞けた。
ナディアの事も伝えられた。
そして、ディルクにも会えた。
それが一番
嬉しかった……




