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慟哭の時  作者: レクフル
番外編

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それぞれの事情 8


何かを忘れている気がする。


しかし、それは思い出してはいけない事のようにも感じている。


もしかしたら、記憶が消されたか?

そう思ったのは、俺の部屋にエリアスとラリサ王妃がいた時だ。


ベッドではアシュリーが眠っている。

その姿は痩せ細っていて、儚げな感じがする。

そうだ、アシュリーはずっと眠っていた……

それは何故だ?

なにが原因だった?

ラリサ王妃は、眠り続けるアシュリーが心配で見舞いに来た、と言っていた。

けれど、ラリサ王妃自身がその事を覚えていなかった。

これは、意図的に自身の記憶を消した、と言うことだろう。


それは何故か。


俺に感情を読まれたくなったからか?


エリアスを見る。

その感情を読み取る。

エリアスは笑っている。

なんだ?何か違和感を感じる。

しかし、これ以上読み取ってはいけない気がする。

だから、俺はエリアスから目を背けた。


エリアスが一番に考えるのはアシュリーの事だ。

と言う事は、もし俺とラリサ王妃の記憶が消えたのだとすれば、それはアシュリーの為だ。

俺とアシュリーが一つになれば、互いの情報は共有される。

そうされると困る事がある、と言う事なんだろう。


ここはエリアスを信じる事にする。

アイツがアシュリーや俺の不利益になるような事をする事はない。

俺はそう信じている。


ラリサ王妃とエリアスが部屋から出ていって、俺は眠っているアシュリーと一つになった。


アシュリーの弱った体と一つになって初めて、その体の負担がどれ程だったのかが分かる。

俺の体にあった体力と魔力が一気に無くなった感じがする。

こんな状態で今までアシュリーはいたのか?!

何が原因だ?!

なぜこうなった……?!


いや……

これは追及してはいけない。

その筈だ。


深く考えない様にして、思想の中で眠るアシュリーを抱きしめる。

優しく労るように、嫌な事等何もないんだと、アシュリーを慰めるように抱き包む。


きっとエリアスはアシュリーを守ってくれている。

だから俺もその意を汲もう。



朝、ゾランがやって来て目が覚めた。


こんなに長く眠ったのは久しぶりだ。

いつも、先にアシュリーが目覚める。

それに合わせるように俺も目覚める。

いつもはアシュリーはエリアスの元へすぐに帰ろうとするから、目覚めたらすぐに二人になるのだが、今の状態のアシュリーと分かれるのは心配だ。

けれどそれでも、とアシュリーが俺に訴える。

そんなアシュリーの意識に負けて、俺たちは二人に分かれた。



「リドディルク様、おはようございます。今日はゆっくりなんですね。」


「あぁ。そうだな。」


「リドディルク様……どうされましたか?!凄く痩せられました!」


「え?」



自分の体を確認すると、腕や足が細くなっていた。

アシュリーを見ると、昨日よりもふっくらしている。

それでも前よりも痩せてはいるが。

一つになって、それから分かれたから、二人で平等に分け与えた感じか?

なんとも不思議な感覚だ。



「まぁ、問題ない。大丈夫だ。」


「それなら良いのですが……」


「ディルク、私、帰るね?」


「アシュリー、まだ体力も戻っていないだろう?今日はここでゆっくりしてはどうだ?」


「うん……でも、皆と会いたいんだ。何日も子供達に会えてないし……」


「ずっと眠っていたんだ。歩くことも難しいかも知れないぞ?」


「え……そうなの?」



アシュリーがゆっくり起き上がって、ゆっくりベッドから出ようとする。

立ち上がろうとして、ストンと崩れ落ちるようにベッドに座る。



「あれ……足に力が入んないや……」


「歩き慣れないとな、そんな風になるんだ。」


「そうなの?」


「もしかしたら……」



俺も歩こうとしたが、上手く力が入らない。

アシュリーとこんな事も共有してしまうんだな。



「リドディルク様、歩けないんですか?!ど、どうしましょうか!あ、聖女を……!あ、でもアシュリーさんがいるからそれは大丈夫なのか!あ、でも、アシュリーさんも歩けてないし、どうすれば……!」


「ゾラン、落ち着け。少し動いたら慣れる筈だ。まずは……そうだな、朝食を頼む。」


「あ、そ、そうですよね、手配致します!」


「あ、ゾラン、私は飲み物だけで……!」


「畏まりました!あと果物も用意させます!」



急いでゾランが出て行った。



「ふふ……なんだかミーシャみたいだった。」


「そういうところがあるんだ、ゾランは。俺の事や親しい人の事になると我を忘れる時がある。」


「そうなんだ。なんだか、可愛いね。」


「そうだな。俺もそう思う時がある。」



そう言い合って微笑んで、アシュリーとベッドに座って手と手を取り合って、二人でゆっくりと立ち上がる。

足が震える。

すぐにまたベッドに座る事になって、二人で顔を見合わせて笑った。

俺たちは生まれたての小鹿か!等と言いながら、歩き続けるって大切な事なんだなって妙に納得した。


アシュリーに、やっぱり今日はここでゆっくりしてはどうかと言ったんだが、どうしても帰りたい、と言って聞かない。

こう言うところは強情なんだな。


食事の用意がされるまで、何度もベッドから立ち上がろうとして座り、それから一歩、二歩と歩いてはまた座り、二人で手を繋いで一緒に歩行の練習をした。

なんとかテーブルまで支え合うようにして歩き、椅子に座る事が出来た。

こんな些細な事だけど、そうできた時は二人で良かった!って笑い合ったんだ。


アシュリーが絞りたてのジュースを飲んでからすぐに着替えを済まし、「じゃあ帰るね!」と言って空間移動で消えた。

あんな状態で大丈夫なのか?と思ったが、エリアスがいれば無理は絶対させない筈だから問題ないだろう。



「リドディルク様、今日はお休みされた方がいいですね。ゆっくりなさって下さい。」


「大丈夫だ。ここ数日間はアシュリーの看病であまり仕事が出来なかったからな。座って仕事する位わけない事だ。それより、報告があったんじゃないのか?」


「はい、仕事の事は後程……実はウルリーカさんについてご相談したい事があります。」


「ウルリーカに何かあったのか?」


「はい。苛めと言いますか……一部の者から嫌がらせを受けております。」


「多かれ少なかれ、こう言う事が起こるかも知れないとは思ってはいたが……何があった?」


「昨日は木から落とされていました。」


「木から?!ウルリーカは大丈夫なのか?!」


「あ、はい、それは問題ありませんでした。ヴェンツェル殿下が落ちた所を見てまして、すぐに助けに行かれて回復させたようなので、大事に至りませんでした。」


「ヴェンツェルはもうそんな風に回復させられるのか?!」


「あ、いえ、完全には治せなかった様なので、その後ラリサ王妃に治癒をお願い致しました。」


「そうか。それでも、少しは出来るようになったんだな。それで、ウルリーカにそんな事をしたのは誰なんだ?」


「エレオノーラ嬢です。セレロールス公爵の一人娘です。」


「セレロールス公爵か……確か野望の塊のような奴だったな。」


「はい。その野望の為には手段を選びません。現在、その一人娘のエレオノーラ嬢とヴェンツェル殿下は婚約状態にあります。」


「そうなのか?」


「しかし、ヴェンツェル殿下はその事に納得していません。」


「そうか……まぁ、政治的によくある事だからな。では、親同士が勝手に決めた、と言うことなんだな?」


「そうです。一部の者にはヴェンツェル殿下が次期皇帝となる事が知られています。ですので今のうちに手を打っておきたいのでしょう。」


「それはそうだろうな。それにしても、なぜヴェンツェルの母親……ヴァレンティナ王妃はセレロールス家との婚約を承諾したんだ?」


「ヴァレンティナ王妃はグリオルド国の出身です。旧姓はヴァレンティナ・ガルディアーノと言います。」


「ガルディアーノ……そうか、アシュリーを聖女として捕らえ、エリアスを拷問した、あのガルディアーノ伯爵か!」


「そうです。フェルナンド・ガルディアーノ伯爵の妹君です。」


「そうだったのか……フェルナンドは闇の力を持ったアシュリーに生気を奪われて老化したと聞いたが……その後はどうなった?」


「オルギアン帝国の聖女を捕らえ、護衛のSランク冒険者を拷問したとして、ナルーラの街の領主としての座を奪われ、今はグリオルド国最北端の辺境の地へと飛ばされたそうです。これによってガルディアーノの名は地に落ちました。」


「それは……ヴァレンティナ王妃は何とかしたいと思っても仕方がないだろうな。」


「えぇ……アシュリーさんを捕らえ、エリアスさんを拷問した事は、グリオルド国の王都に捕らえられた聖女アシュリーさんを取り返す為の交渉材料とされましたが、その事もあってシルヴィオ王はただでは済ませなかったんでしょうね……」


「そうか……しかし、確かガルディアーノ伯爵には借りがあったな?」


「覚えておいででしたか。インタラス国の王都コブラルで行われた闇オークションに潜り込む為にお借りした名前が、ガルディアーノの名でございました。」


「そうだな。ところで、セレロールス公爵は、どう交渉してヴェンツェルとエレオノーラの婚約を漕ぎ着けたんだ?」


「セレロールス公爵の奥方、エジェリー公爵夫人は、グリオルド国出身です。旧姓はランズベリーと言いまして、現在ナルーラの街の領主を任されております。」


「そう言うことか……」


「いかがなさいますか?」


「俺の考えている事は、もう分かっているのだろう?」


「恐縮です。」


「ゾランの思うようにして構わない。ウルリーカの件はゾランに任せる。それは全て俺の指示だとして行動して問題はない。」


「ありがとうございます!」


「そうか……ウルリーカは……危うく死にかけたか……」


「はい。子供同士のイタズラでは済ませられない事態になっています。氷魔法で低体温症になったんですよ?!ミーシャが見つけなければ、どうなっていたのか本当に分かりません!」


「そうだな。罪もない人に向かって氷魔法を放つとは……これは教育を徹底させなければいけないな。」


「私もそう思います。では、迅速に対応させて頂きます!」


「あぁ。頼んだ。」



すぐにゾランは部屋から出て行った。

俺がアシュリーにかかりきりになっている間、ウルリーカにそんな事が起こっていたんだな。


アシュリーとエリアスが知ったらどうなるか……

今はアシュリーに余計な心配はかけたくはない。

体調が戻るまで、自宅でゆっくりさせてやりたいからな。


ウルリーカの事はゾランに任せるとするか。







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