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慟哭の時  作者: レクフル
番外編

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それぞれの事情 7

「ウル!大丈夫か!しっかりしろ!ウル!」


「ん……えっと……ヴァン……?」



目を開けると、ヴァンがいた。

あれ?アタシ、何しててんやろ?



「どうしたん?ヴァン?」


「痛い所とかないか?!頭は大丈夫か?!」


「なんや、頭可笑しいとか言うてんの?」


「そうじゃな……!はぁー……良かった……いつも通りだ……」


「え?なに?なんなん?……あれ、そうか、そうや!アタシ、木から落ちたんや!」


「ここは執務室から見える場所なんだけど、ちょっと休憩しようと思って窓から外を眺めたら、ウルが木の枝にいるのが見えたんだ。楽しそうだなぁって思って見ていたら、急に浮いた感じになって木から落ちたから、慌ててここまでやって来たんだよ!ビックリしたんだからな!」


「そうやったんや。ごめん……」


「あ、いや、謝る事じゃないよ。けど、どうしたんだ?木から落ちるって、不注意でそうなった感じじゃなさそうだったけど……」


「不注意や。バランス崩しただけや。」


「そうかな……至るところに傷みたいなのもあったよ?回復魔法で治したけど。」


「あ、治してくれたん?!ありがとう!すごいやん!もうちゃんと使えんねんな!」


「ウルが教えてくれたからだよ。けど、本当に何かあったんじゃないのか?もしかして……嫌がらせを受けてるとか、そんなんじゃ……」


「違う!そんなんとちゃうねん!なんでも無いし、ホンマにアタシの不注意や!」


「ウル……けど……」


「あ、アタシもう戻らな!ほなまたな!」



走り出そうとして、けど頭がフラついてよろけてしまった。

さっき変な所でも打ったんかな……



「ウル!」



咄嗟にヴァンが支えてくれた。

後ろから抱えられてる感じで、なんか気恥ずかしい感じになって、すぐに離れる。

けど、そうやってすぐに動いたからか、また頭がフラってなって、ヴァンがまた支えてくれた。



「ウル、僕の回復魔法じゃ完全に治せなかったみたいだ。ごめん!ゆっくり休まないと!」


「あ……うん……そうやな……ちょっと休む……」


「何をしているんですの?!」


「エレオノーラ!」


「ヴェンツェル殿下!(わたくし)というものがありながら、そんな卑しいエルフを抱きかかえるなんてっ!」


「これは仕方がないんだよ!ウルは今頭を打って……!」


「自業自得です!さ、早くお離れになって……」


「まさか……君が……」


「な、何の事ですの?(わたくし)は何もして等いませんわ。勝手にそこのエルフが木から落ちただけでしょう?」


「……なんで木から落ちたって知ってるんだ……?」


「え……それは今、ヴェンツェル殿下がそう言われたからで……」


「僕はウルが頭を打ったとしか言ってないよ!エレオノーラがしたんだな!ウルにこんな事を!」


「わ、(わたくし)がそんな事する訳がないじゃないですか!言い掛かりも甚だしいですわ!」


「どうされましたか!?ヴェンツェル殿下!」


「ゾラン!ウルが頭を打ったんだ!すぐに部屋へ運びたい!」


「承知致しました!……やはり貴女でしたか……エレオノーラ嬢……」


「な、なんですの?!濡れ衣ですわ!公爵令嬢に対して失礼ですよ!使用人上がりの分際で!気分が悪いわ!失礼します!」



クラクラする頭を両手で押さえて、何とかしっかりするようにしようとするけど、さっき自分の傷を自分で治したから魔力が足りなくて全然効かへん……


はぁー……情けないなぁー……

自分でなんとかしようと思ったのに……

こんなん知ったら、またお母さんが心配するやん……



「ヴァン……お母さんには言わんといて……」


「え?けど、エリザベートに治して貰わないと!僕の回復魔法じゃこれ以上治せないよ?!」


「ほな……リサに……」


「ウルリーカさん、分かりました。ではラリサ王妃の元へ急ぎましょう!」



ゾランさんに抱き上げられて、リサの部屋まで来た。

ここにはベルンバルトがおるから、アタシもあんまり来たくなかってんけど……

すぐに隣の別室のソファーに寝かされて、リサが回復魔法をかけてくれた。

優しい光に包まれて、徐々に痛みとクラクラが無くなってくる。



「ウル、大丈夫?どうしたの?こんなに怪我いっぱいで……」


「え?ラリサ王妃、ウルにまだ怪我があったんですか?」


「服に隠れてみえてませんでしたが、至るところにあったようです。かなり魔力を使いました。」


「ウルリーカさん、これはやはりエレオノーラ嬢がされたんですか?」


「いや、それは!その……!」


「この前の事が原因なんだね。」


「この前の事とは何ですか?ヴェンツェル殿下?」


「前にエレオノーラとウルが言い合いになってね。けど、ウルは何も悪くないんだ。エレオノーラがエルフを悪く言うから……」


「そうだったんですね。こちらでも調べていたんです。以前、ウルリーカさんが受けた魔法を使える人や集団を。風で切られたような怪我と、水と氷の魔法……この組み合わせでエルフに反対意見を持つ者で探していました。何組かいたんですが、この中に先程のエレオノーラ嬢と取り巻きも含まれておりまして……」


「ちょっと待て、ゾラン!ウルは以前もこんな事をされたのかい?!」


「えぇ……以前は水に濡らされてから氷魔法で凍らされておりました。発見が遅ければ命にも関わる程の影響があったんです!」


「けど、ミーシャが見付けてくれたから、大事には至らんかったやん!今日もヴァンが助けてくれたし……」


「一歩間違えば大変な事になってたじゃないか!これは簡単に済まして良いことではないっ!」


「ヴァン、そうかもやけど……」


「ウルリーカさん。お母さんの事を……エリザベートさんの事を気にしてるんだね?」


「……あ、それは……その……」


「エルフと言うことが原因で苛められていたとなると、エリザベートさんが悲しい思いをする、そう考えていたんじゃないのかな?」


「だって……お母さんは村長の娘で……お母さんは皆から村長の娘として崇められてたし慕われててん!だからお母さんがいなくなっても皆がアタシに優しくしてくれたし、お母さんはすごい人やったって、エルフの誇りやって言われてたから……!せやのにアタシが、エルフが原因でこんな事されてたって分かったら……お母さんが悲しむやんか!」


「ウルが一人で耐えてたって事を知ったら、エリザベートはもっと悲しむんじゃないかしら。母親は子供の事を一番に考えるのよ?誰よりも、自分よりも子供の事を想うのよ?」


「せやけど……!」


「髪も切られたのね……エリザベートみたいに伸ばし続けるって言ってたのに……エルフにとって髪は、精霊の力が宿ると言われて大切にされているのに……」


「それもエレオノーラが?!やり過ぎだろ!」


「怒らんといて!ヴァン!アタシがあの時いらん事言うたからアカンかってん!アタシも悪いねん!」


「悪くないよ!ウルは何も悪くない!あんな言い方されたら、誰だって怒って当然なんだ!」


「ヴェンツェル殿下、確認させて頂けますか?ヴェンツェル殿下はエレオノーラ嬢と婚約を結ばれていらっしゃいますよね?」


「それは……!母上が勝手にっ!」


「ヴェンツェル殿下の意思ではないと?」


「当然だ!僕にも選ぶ権利はあって良い筈だ!」


「では婚約破棄の意思はおありですか?」


「出来ればそうしたい!けど母上に……」


「分かりました。この件はこちらにお任せ頂けますか?それとウルリーカさん。」


「はい……」


「今回の事はウルリーカさんの意向を汲んで、エリザベートさんには何も言わない。それは安心してね。けれど、僕はこのままでは済まさない。貴女はリドディルク様とアシュリー王妃の客人としてこの帝城に招かれているんだ。その大切な客人にこんな事をして、只で済ますと思ったら大間違いだ……!」


「ゾランさん……」


「ゾランが怒ると怖いからな。ではこの件はゾランに任せる。頼んだぞ。」


「畏まりました。ウルリーカさん。リドディルク様が貴女に回復魔法を教える先生の仕事を与えたのは、少しでも人とエルフが接する機会をつくろうと思われたからなんだよ。この国の人々にはまだ偏見があって、人以外の存在には排他的思考を持っているからね。だからエルフ族の方や獣人族・ドワーフ族達にも理解を示そうとしない。これはリドディルク様が正そうとされている事なんだ。だからウルリーカさんが思うより、ウルリーカさんが受けた事は大きな事なんだよ。」


「そうやったんですね……」


「だから、自分の事でって考えなくても良いんだよ。分かったかい?」


「はい……」



ゾランさんはニッコリ微笑むと、礼をしてから踵を返して部屋から出て行った。

やっぱり格好良いなぁ。ゾランさんは。

そう思ってゾランさんを見送ってたら、なんか髪が触られてる感じがあって、なんやろ?って思って横を見ると、ヴァンが悲しそうな顔でアタシの短くなった髪を触っていた。



「え……ヴァン?」


「綺麗な髪だったのに……」


「あ、でも髪はまた伸びるし!それに、アタシ猫っ毛やから、そんな綺麗とかちゃうかったやん?」


「そんな事ないよ。鮮やかな銀色で緩やかなウェーブの髪が綺麗だった。それをこんな風に……許せないよ……!」


「な、何言うてんの……!あ、そうや、アタシ何も言わんとここに来たから、お母さん心配してるかも知れへん!リサが治してくれたから体はもう平気やし、仕事に戻るわ!」


「あ、ウル!」


「ほなな!ありがとう、ヴァン!」



なんか気恥ずかしくなって、すぐにリサの部屋から出て午後の練習に戻った。

お母さんは私が来ないのを心配してたけど、お昼寝してもうて寝過ごした!って言ったら疑惑の目を向けながらも優しく笑って許してくれた。


これ以上心配させたない。


せやからアタシは笑うねん。


笑ったるねん。




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