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慟哭の時  作者: レクフル
番外編

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それぞれの事情 6


今日もアタシは先生してる。


兄ちゃがくれたニレの木の枝を練習してる人に使わせるようにしてから、コツを掴んで魔力を感じるようになるのが早くなって、その感覚さえ掴めたらあとは早いもんで、あっと言う間に回復魔法を使えるようになっていく。


まぁ、回復魔法を強化させるのには、それからも日々の鍛練が必要になってくるんやけど、回復魔法を発動出来たら一旦卒業、と言うことになる。


卒業した人は、定期的にどれくらい回復魔法を強化出来たか、それを見せに来るねんけど、そうなったらアタシの手には負えん。

だって、アタシもまだまだ強化途中で、自慢できる程のもんやないからや。


毎日誰かが卒業して、毎日誰かが新たに教えを請う為にやって来る。

そんな感じで人の入れ替わりがむっちゃ激しい。


初めて会う人はアタシを見て、まず「なんで子供が?」みたいな顔をする。

で、話し方が変やって、笑われたりもする。

それからエルフって気づくと、変なモノでも見るみたいな顔をする奴や、興味津々で色々聞いてくる奴、あからさまに毛嫌いする奴もいるし、アタシをバイ菌みたいに思てんのか、近づいたら逃げる奴とかもおる。


なんやねん。ホンマ。


面倒やわー。


でもこの仕事はディルクさんからお願いされて、それは必要な事やと思ったから引き受けた。


お母さんは回復魔法を使えるから拐われた。

他の聖女と呼ばれる人達も、殆ど皆がそんな感じで強制的に連れてこられる。

そんな悲しい思いをする人をこれ以上増やさない為に、ディルクさんは私とお母さんに力を貸して欲しいって言うてきてん。


そう言われたら、ほな頑張るか!ってなるやん?

悲しい思いをする人を無くす為に、アタシで力になれるんやったら!って思うやん?

だから今まで頑張ってきたつもりや。


けど、毎日こんな態度されんのとか、ホンマにしんどいわー。


アタシ達エルフは、精霊に近い存在で、誇り高く高潔で……

そんなふうに小さい頃から教えられてきてる。

卑しいとか、穢らわしいとか、そんなん言われる筋合いのない種族な筈やねん。


ホンマ、ここにいるのは何も知らん奴等ばっかりやな。


そんな事を考えながら、昼休みに中庭のベンチで座ってたら、いきなり風がブワッって吹いて、その風に弾き飛ばされたみたいにアタシは転げてしまった。



「な、なんやの?今の?」



ビックリして周りを見ると、少し離れた所に女の子が五人、アタシを見てクスクス笑ってた。



「なんなん?!アンタ等がやったんか?!」


「私達は魔法の練習をしていただけですわ。そんな所にいらっしゃるから巻き込まれたのですね。他所に行かれてはいかがかしら?」


「アンタは……エリ、オ……なんたら……」


「エレオノーラよ!名前くらい覚えなさいよ!」


「知らん。興味ない。」


「本当に無礼だわ!貴女たち!」


「「「はい!」」」



エレオノーラがそう言うと、また風がやって来た。

なんやこれくらい、兄ちゃの足元にも及ばんわ。

そう思ったけどそれを防ぐ手段がなくて、アタシはまた転げてしまう。

急いで起きようとしたときに、上から水が降ってきた。

アタシは頭からそれをかぶってしまって、ずぶ濡れになった。



「何すんねんっ!」


「ふふ……だから魔法の練習と申し上げたでしょう?早く立ち退きなさいな。」



ムカつくけど、貴族の奴らに手を出すとお母さんの立場が悪くなるかも知れへんから、アタシは言われたとおりどっかに行こうとした。

けど、足が動かへんようになってた。

それに……寒い!

よく見ると、足元が氷ついてた。

アタシの濡れた体も水が氷へと徐々に変わっていく。



「な、にすん……ねん……」


「そんな所にいる、貴女が悪いのよ?何度も忠告したのに立ち去らないから仕方がないのよ?ねぇ、みんな?」


「そうですわ!私達は魔法の練習をしてるだけですもの!そこにエルフがいただけですわ!」


「そうよ、邪魔なのよ!」


「ふふふ……汚ならしいエルフがいるからここは使えないわ。行きましょう?」


「そうですわね。」



(あざけ)るように笑いながら、女の子達は去っていった。


アタシはそこから動けずに、立ち尽くすしかなかった。


寒い……


寒いよ……


何でこんなんされなアカンの?

何もしてへんのに……

アタシ、汚くないもん。

毎日ちゃんとお風呂に入ってるし、ちゃんと服も着替えてるし、なんも汚くないもん。


アタシはエルフで、精霊に近い存在で、誇り高くて高潔で……

だから、卑しいとか穢らわしいとか汚ならしいとか、そんな事を言われる筋合いとか全然ないねん。


そんな事を考えてたら、頬が少し温かくなった。

あ、そうか。

目から涙が出てたんか。


いやや……

あんな奴らにされた事で泣いたりすんの、いやや!

けど手が動かへんから、涙を拭う事も出来へん……


なんやねん、アイツ等。

一人じゃ何にも出来へんくせに。

恥ずかしないんか。

何人もで一人相手に。


寒い……

それになんか、眠くなってきた。

けどこれ、いつ解けるん?

寒いよ……


お母さん


姉ちゃ


兄ちゃ


ヴァン


誰か来て……



「ウルちゃん!」


「……ミー……シャ……」



ミーシャが遠くから走って来るのが見えた。

アカンやん。お腹大きいのに走ったら。

けど、ミーシャが来てくれたから安心したのか、アタシはそのまま寝てしまってん。





温かくて、気持ち良くって目が覚めた。


あれ?

ここどこやろ?

あ、アタシの部屋か。



「ウル?大丈夫?」


「ん……お母さん……」


「ウルリーカさん、大丈夫ですか?」


「……ゾランさん……」


「良かった!ウルちゃん!良かったー!」


「ミーシャ?……あ、そうか、ミーシャが助けてくれたんや……」


「ウルちゃん、カチカチに凍らされてましたよ!酷い事をするもんですね!」


「ウルリーカさん、誰にこんな事をされたの?」


「そんなん……いちいち言ってられないです……それに、これはアタシの問題やから……」


「ウル、アンタ低体温症になって大変やってんよ?!ミーシャちゃんが見つけてくれへんかったら、危ないところやってんから!」


「そうなん?」


「ウルリーカさん、もしかしてエルフだからと言って何かされたのかい?」


「……どうかな……アタシがこんなんやから嫌われたんちゃうかなって……そう思うんですけど……」


「ウルちゃんは何でもハッキリ言うけど、そんな事で嫌いになんかならないですよ!だってウルちゃんは良い子だもんっ!」


「ミーシャ……」



なんか涙が出てきた……

アタシ……良い子なんかな……?

いっつも思った事をすぐ言うてもうて、それで嫌な思いする人もいてる筈やのに……


お母さんがアタシの頭を撫でてくれてる。

泣いてるのを見られたくなかったから、布団で顔を隠した。



「ゾラン様、この事はまた後にしませんか?ウルちゃん、何か温かい物を持ってきますね。」


「あぁ、そうだね……」


「ミーシャちゃん、ゾランさん、ありがとうね……」



ゾランさんとミーシャが部屋から出て行った。

お母さんはアタシの頭を優しくずっと撫でてくれてた。


お母さんがいてる前で、エルフやから苛められたとか、あんまり言いたくなかってん。

だってお母さんは村長の娘で、その能力は高いらしくって、ずっと皆から崇められてたような人で……

だからお母さんがいなくなってアタシが一人になった時も皆が良くしてくれたし、お母さんは誇り高いエルフなんやでってずっと教えられてきたから、エルフって理由だけでこんな事されたって言いたくなかってん……



「ウル、ホンマにエルフやからって苛められたん?」


「ううん……ちゃう。そんなんとちゃうねん。前にちょっと言い合いみたいになった子がおって、その子の友達か取り巻きとかが魔法の練習するからって……」


「そうなん?ホンマに?」


「うん。ホンマや。アタシがすぐに何でも言うてまうからアカンねん。」


「そう……けど、それにしてもやり過ぎや。お母さん、許されへんわ!」


「そんな怒らんといて?!もう大丈夫やし!あ、お腹すいた!ミーシャまだかな?!温かいもん持ってきてくれるって言うてたから、それ食べたらまたちょっと寝るわ!」


「ウル……」


「そんな顔しなや!アタシはもう平気やし!な!」


「分かったけど……」



お母さんはずっと悲しそうな顔してた。

アカンな、心配かけたら。

アタシはもっと言動に気をつけなアカン。

心配してくれる人がいてるから……

今までは自分一人やったから、何を言っても全部自分が対処すれば良かってんけど、今はそうと違う。


だから、これからはもっと考えて行動しなアカンな。

アタシのせいで、色んな人に迷惑かけたくない!


けど、それからも度々嫌がらせみたいな事が続いた。


水をかけられるのは日常茶飯事で、護衛犬が集団で襲いかかってくる事もあった。

風魔法で服も切られるし、髪も切られた。

生傷も絶えへんけど、自分に回復魔法を使って、かすり傷は治すようにしてる。

思わぬ所で回復魔法の練習が出来て、それは良かった事やな。


ホンマ、貴族の女は面倒やな。

ネチネチネチネチ、気持ち悪いわ!

一人じゃなにも出来ひんくせに。

ホンマ、腹立つわー!


中庭におったらすぐに見つけられて何かされるから、城の裏手にある木に登って太い枝に座ってた。

ここやったら大丈夫かな。

けど逃げてる訳と違う。

アイツ等の相手すんのが面倒なだけや。

ホンマ、面倒くさい。

しょうもない事ばっかりして。

性格悪いなぁ。

悪すぎるやん。

だから、あんなしょうもない奴等に泣かされたりせぇへん。

絶対泣いたりせぇへん!


そうやって木の上にいてたら、また急に風が吹いてきて、アタシは飛ばされて木から落とされた。


そこから記憶が途絶えた。





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