それぞれの事情 2
俺とアシュリーに子供が出来た!
すっげぇ嬉しい!
マジで嬉しいっ!!
俺、父親になるんだな!
もっとしっかりしねぇとな!
うん、もっと頑張って働いて、立派にならなきゃいけねぇな!
だって俺、父親だし!
けど、アシュリーの様子がなんか変だ。
やたらと子供を守るって事を主張する。
守るのは当然だ。
それが親の役目だ。
俺たちは普通とはちょっと違う。
異能と呼ばれる能力の持ち主だ。
銀髪の部族であった母親とそうでない人との間に子供ができた場合、大きすぎる魔力に体が耐えられず、生まれる前に亡くなるか、生まれてすぐに亡くなるか……
自分の力が勝手に暴走して亡くなってしまう事もあるし、俺はそれで母親を殺してしまったし……
そんな普通じゃない力を持つ俺たちの子供はどうなるんだ?って思っていたけど、アシュリーは大丈夫だって言う。
この子の生命力が強いから、このままちゃんと産まれてくるんだと言う。
けれど、アシュリーの体力と魔力を奪うんだ。
それは、自分を守る為だって。
この子を守ってね!約束だからね!
そう言って、アシュリーは眠るように意識を失った。
嫌な予感がする……
こんな時の俺の予感は外れねぇ……
本当に大丈夫なのか?
ちょっと体力と魔力を奪うだけだから、少し休めば問題ない筈だからって言ったアシュリーは、そのまま二十日間目を覚まさなかった。
日に日に痩せていく。
こんなに魔力と体力を奪い続けるのか?!
これじゃアシュリーが持たねぇよ!
けど、眠り続けるアシュリーの顔は幸せそうなんだ。
前に見つけたニレの木の枝をアシュリーの手に持たせるようにしてみる。
すると、少し顔に赤みが戻った。
急いでベリナリス国のニレの木の元まで行って、枝をいっぱい切ってすぐに帰ってきた。
その枝をアシュリーに握らせると、アシュリーの魔力が戻っていくようで、悪かった顔色が少しずつ回復していった。
けど、まだ目を覚まさねぇ。
魔力だけじゃなくて、体力も奪っていくからだ。
それにはディルクが動いてくれた。
ディルクの能力、生気を与えるという力を使って貰うことになる。
ただ、それには生気を取り込む必要がある。
「こんな事はしたくなかったんだがな」と言って、ディルクは罪人の生気を奪ってきた。
一日休めば元に戻る分位の生気を何人分か奪ってきたようで、その生気をアシュリーに与える。
二人で魔力と体力を毎日補っていって、やっとアシュリーは目を覚ましたんだ。
けど、食べ物を受け付けねぇ。
無理して食べようとしてたけど、それを全部吐き出してしまった。
どうすりゃ良いんだ……
このままじゃ先にアシュリーがまいっちまう!
また眠ったアシュリーを見ながら、ただ手を握りしめて祈る事しかできねぇ……
約束だから、とアシュリーは言った。
必ず子供を守ってって……
もしもの時は、私より子供を守ってって、アシュリーは言っていた。
分かる。
俺も守りてぇ……
絶対に守りてぇ……!
けど……!
このままじゃアシュリーが……
それからまたアシュリーは、何日も目を覚まさなかった。
目覚めた時にアシュリーが飲んだジュースを口に含み、口移しで飲ませる。
少しずつ少しずつ飲み込んでくれた。
良かった……
それから、ニレの木の枝を手に握らせる。
ディルクが罪人から生気を奪って来たと言って戻って来て、アシュリーに右手で触れる。
すると、肌艶が蘇ってきた。
「エリアス……そんなに泣くな。」
「泣いてねぇ……けど……このままじゃ……」
「あぁ。アシュリーの身が危険だ。」
「俺……アシュリーがいなくなんの、耐えらんねぇよ……けど……アシュリーも子供も……俺守るって約束しちまったんだよ……」
「……セームルグ。」
ディルクが光輝いて、セームルグが姿を現した。
「ディルクさん、アシュリーさんはいかがですか?」
「思ったよりもアシュリーの体力と魔力が奪われている。このままずっとこの感じなのか?」
「ここまでとは、私も思いませんでした。このままではアシュリーさんは危険です。今、魔力と体力を他から補っているからこそ、こうしてまだ保っていられるんです。それが無くなれば……」
「母親が亡くなれば子供も生きてはいられない。それでも奪ってゆくものなのか?」
「ある程度成長すれば落ち着くかも知れません。けれど、それまでアシュリーさんが持ちこたえられるかどうか……」
「何とかしてくれよ!セームルグ!お前は生命を司る精霊だろ?!何とかなんねぇのかよ?!」
「貴方たちの能力は特殊なんです。普通ではないんです。通常、こう言うことはありえません。ですので、どうすることが出来るのか、私も困惑しております。」
「俺が代われんならそうしてくれ!俺の魔力でも体力でも……命でも何でも良いから!俺が代わりになるから!頼むよ……セームルグ……!」
「代わること等……アシュリーさんの命を維持させる事は出来ます。しかし、そうやって子を生めたとしても、今までの様にしていられるかどうか……」
「どうなるんだよ?!アシュリーは!」
「眠った状態が続くかも知れません。」
「そんなことになったら……っ!ただ……生きてるだけじゃねぇか……」
「エリアス……」
「子供を見ることも……抱くことも出来ずに……それでも……それでも良いってのか?!」
「エリアス……落ち着け。」
「落ち着いてられっかよ!こんな状態でどうすれば良いかも分かんねぇのに!落ち着ける訳ねぇだろ!!」
「……諦められないか?」
「なに?」
「子供を諦める事は出来ないか?」
「ディルク……?!」
「俺だって出来れば産ませてやりたいと思う。こんなに幸せそうな表情を見れば……その気持ちを汲んでやりたいと思う。しかし、このままでは無理だ。それはエリアスも分かっているだろう?」
「分かってる……!けど……!俺は約束したんだ!守るって……!必ず守るって!」
「エリアスの気持ちは分かる。アシュリーの気持ちもだ。全て分かった上で言っている。こう言えるのは、俺しかいないだろうからな。」
「ディルクっ!俺……!」
「分かっている。エリアスの気持ちは全部俺に届いている。」
「けどっ!!」
「……エリアス……?どうしたの……大きな声を出して……」
アシュリーが目を覚まして俺を見た。
すぐにそばに行って手を握る。
「アシュリー?!目が覚めたか?!体はどうだ?!」
「うん……大丈夫だよ……あのね、夢を見たんだ……私たちの子供がね、話しかけてきてね。何だかね、謝るんだ。私にごめんなさいって。なんで謝るのかな……少し体力と魔力を奪ってるだけなのにね。優しい子だよね?」
「そうだな。すっげぇ良い子だな。さすがは俺たちの子だな。」
「そうだね……あ、ねぇ、名前、なんて付けよう?エリアスも考えて……?まだ早いかな?」
「せっかちだな、アシュリーは。まだ早ぇだろ?けど、考えとくな?アシュリーは思い付いた名前とかあるか?」
「私ね、記憶を無くしてた時に名乗ってた名前、結構気に入ってたんだ。男の子だったらね、リュカって名付けたいかな……」
「そうだな、リュカって良いよな。女の子でも使えるんじゃねぇか?」
「そうかな……じゃあ、候補に入れといてね。まだいっぱい考える時間はあるから……エリアスも考えておいてね……?」
「あぁ。分かったよ。」
「うん…………」
「アシュリー……?」
アシュリーは微笑みながら、また眠りに落ちた。
その顔を見てると、また涙が勝手に流れてくる。
アシュリーの頬を撫でて、両手で手をぎゅっと握って額に当てる……
俺はアシュリーを守りたい。
守りたいんだ……!
「ディルク……俺は……最低の父親だ……」
「エリアス……」
「やっぱアシュリーを無くせねぇんだ……どっちも助けてぇ……けど……!それが出来ねぇなら……俺は……!」
「分かった。辛い決断をさせた。すまない。」
「ディルクは悪くねぇ……言いにくい事を言わせたな……」
「いや……俺だって……」
「分かってるよ……ディルクも楽しみにしてくれてたろ?分かってんだよ……全部……」
ダメだ……また涙が出そうだ……
ただ授かった子を育てたいだけなのに……
それは叶わない事なのか?
アシュリー、ごめん……
俺、守るって言ったのに……
必ず守るって言ったのに……!
俺は嘘つきだ。
約束一つ守れねぇ……
ごめん……
本当にごめん……




