アシュリーの事情
番外編を作成しました。
気楽に読んで頂けると嬉しいです(* ´ ▽ ` *)
今日は久しぶりに、ずっと帝城にいる。
ここにいる時はドレス着用が必須となる。
それは仕方がないんだけど、やっぱり動きづらいな……
「なぁ、姉ちゃ、聞いてーや!もう腹立つねん!アイツ!」
「そんな怒ってどうしたの?」
「偉そうなヤツがおんねん!今、回復魔法を教えてんねんけどな、上手く出来へんのをアタシのせいにしよんねん!」
「そうなんだ……困ったね。」
「ホンマに!アタシと同じ位の年の男やけどな、いっつも上から目線やねんで!貴族かなんか知らんけど、アタシにはそんなん通用せぇへんねんからな!」
「ふふ……そうだね。ウルは身分とか気にしないもんね。そこが良いところだよね。でも、その子も上手く出来なくて悔しいのかも。」
「そうかも知れんけど!」
そうやってウルがプリプリ怒ってる。
私とウルとエリザベートは帝城の中庭でティータイムを楽しんでいた。
ディルクがインタラス国のパーティーに招待されているから私も一緒に行くことになって、ドレスを着たりヘアメイクしたりが必要だったので、コブラルへ帰らずに帝城に残る事になったんだ。
たまには他の貴族達にも姿を見せといた方が良いってウルも言ってたから、今日は体調が良いって事にして、こうやってアフタヌーンティーを三人で楽しむ事にしたんだ。
一人でいると、貴族の令嬢達が私の元までひっきりなしにやって来る。
ウル曰く、色んな派閥があって、仲良くして自分達の派閥に取り込もうとしているんだそうだ。
だからアタシ達と一緒にいようってなって、現在に至るんだ。
ウルが貴族社会に詳しくなってきている。
頼もしい限りだ。
「あー、もう休憩も終わるわー。またアイツの相手しなアカンー。ヤル気出ぇへんわー。」
「そんな事を言うたらアカンよ?これが私達の仕事やねんからね。」
「そうやけど……」
愚痴るウルを、少しふっくらしてきたエリザベートが窘める。
やっぱりエリザベートもウルみたいな話し方なんだな。
時間がきて、ウルとエリザベートはまた指導をする為に去って行った。
エリアスも私と一緒に帝城に来ていて、騎士達に剣術の指導をしている。
そこにはゾランもいて、すっごくしごかれていた。
「アシュリー様、お茶のおかわりはいりませんか?」
「ありがとうミーシャ。お願いするよ。けど、大丈夫なの?そんな風に働いて……」
「えぇ、これくらいどうって事ないです!動いてた方が良いって言いますし!」
「それなら良いけど……いつ産まれるんだっけ?」
「今七ヶ月なので、あと三ヶ月ない位です!よく動くんですよ!」
「元気なんだね。早く会いたいな。」
「私もです!ゾラン様も、いつもお腹を撫でながらそう言うんですよー。赤ちゃんが出来るの諦めてたから、凄く嬉しかったみたいで……勿論私もですけど!これもアシュリー様のお陰です!」
「私は少し回復させただけだよ。それよりも、ミーシャって貴族になったんだよね?なのに、なんでまだメイドをしてるの?」
「この仕事が好きなんです!それに、貴族のご婦人達って昼は何をしてるんですか?する事が無くて暇じゃないんですかねぇ?」
「こうやってお茶会するとか?それも大切なんだって、メイド頭さんに聞いたことがあるよ。」
「マドリーネさんですね。確かにそうかも知れません。じゃあ、私もそうするべきでしょうか?」
「それなら、私と一緒にお茶してくれない?そうだと嬉しいんだけど。」
「良いんですか?!それは是非!」
そうして暫くの間、ミーシャとお茶を楽しんだ。
幸せそうで良かった。
ミーシャはまた仕事に戻ります、と言ってお茶を片付けて行った。
ウルの様子でも見に行こうとして向かっている途中で、向こうからウルが走って来た。
よく見ると、ウルは泣いてるようだった。
「ウル、どうしたの?!大丈夫?!」
「姉ちゃ……!腹立つ……!アイツ、許さへんーっ!」
そう言って大声で泣いて、私にしがみついた。
向こうから同じように走ってきたのは、ウルに回復魔法を教えて貰ってるらしい男の子……
この姿を見て、ウルは私から離れてまた走り去って行った。
「あ、アシュリー王妃!」
「ご機嫌よう。」
私を見た男の子は、きちんと礼をした。
前にディルクに紹介された事がある。
彼は……
「ヴェンツェル殿下、どうされたんです?ウルが凄く泣いていました。」
「あ……はい……その……少し喧嘩をしてしまいまして……」
「何があったの?」
「ウルリーカさんは悪くないとは思うんですが、上手く出来なくてイライラしてしまって……追い討ちをかけるようにキツく言ってくるので、つい言い返してしまったんです……」
「何を言ったの?」
「……エルフの癖に、人の気持ちなんか分かるわけがないって……」
「それは……ウルは傷付いたでしょうね……」
「そんな風には思っていなかったんですが……つい……悔しくて言ってしまったんです……」
「そうですか……ヴェンツェル殿下は皇族で、ディルク……リドディルク皇帝陛下に次いで、皇帝となられる方なのだと聞いています。上に立つ者として常に冷静に、偏見なく広い見解で物事を見て頂きたいと、私は思っています。」
「それは勿論そうです!……そう、ですよね……」
「ウルに……謝る事はできるかしら?」
「……はい。」
「ではウルの部屋まで一緒に行きましょう?」
「え?!良いんですか?!」
「仲直りは早い方が良いでしょう?それとも、一人で行きますか?」
「いえっ!あ、はい、仲直りは早い方が良いですし、一緒に行って頂きたいです!」
「ふふ……では行きましょう。」
そうして二人でウルの部屋まで行った。
きっとヴェンツェルは今まで誰かに、ウルみたいに歯に衣を着せぬ言い方をされた事がなかったんだろう。
ウルの部屋の前で取りつぐけれど、なかなかウルが出てこなくって、反省した顔をしているヴェンツェルに、私からも言っておくから今日は戻るようにと告げた。
ヴェンツェルは落ち込んだ様子で、トボトボと戻って行った。
一人だと告げてウルの部屋に入って、ベッドに突っ伏して泣いているウルの横に座って、慰めるように頭を撫でる。
「ウル、大丈夫?」
「……大丈夫ちゃう……」
「ヴェンツェルから聞いたよ。エルフに人の気持ちは分からないって言われたんだって?」
「うん……そんなん言うんやったら、お前もエルフの気持ち分からへんやろってなるやん……」
「うん……そうだね……でも、本当にそう思ってた訳じゃないって言ってたよ?ウルにキツく言われて、つい言ってしまったって。」
「ちょっと言うただけやん……兄ちゃやったら、いつも笑ってツッこんで許してくれたのに……」
「ヴェンツェルは皇子様だから言われ慣れてないんだよ。みんなから、優しい言い方で接してこられてたんだよ。だから、ヴェンツェルも傷付いたんじゃないかな?」
「そうなん……?」
「たぶんね。それにほら、男の子だし。男の子って女の子に誉められたいみたいだから。なんかね、ジソンシンってのを擽るのが良いらしいよ?」
「何なん、それ……面倒くさいなぁ……」
「本当にね。けど、エリアスもそうだから。ちょっと誉めたらすっごく嬉しそうにして、それから何でも頑張ってするんだよ?」
「単純やな……」
「そう。単純。けど、そんな所が可愛いって思っちゃう。」
「そうやな……」
「少しは機嫌、なおった?」
「……ちょっとだけな?」
「良かった。」
「……姉ちゃがいてくれて良かった……」
「そう?またヴェンツェルが来たら、今度はちゃんと仲直りしてあげてね。」
「うん……まだ腹立つけど……謝ってくれるんやったら……」
何とかウルの機嫌も少しは戻ってきたようで良かった。
仲良くしてくれたら良いんだけど。
今日はエリザベートに任せて、ウルはもうふて寝すると言っていた。
ウルの部屋から出て、そろそろディルクの部屋へ戻ろうかと思った所でゾランに会った。
「アシュリー王妃!こちらにおられましたか!」
「どうしたの?ゾラン、もう剣の稽古は終わったの?」
「はい、私は早めに切り上げたんです。インタラス国へ向かう準備とかありますから。」
「でも、空間移動でいくんでしょう?」
「そうですが、何かと必要なんですよ。もうそろそろエリアスさんも稽古を終えられると思います。」
「そうなのね。さっきはエリアスに凄くしごかれてたね。」
「本当に!すっごい厳しいんですよ!明日は絶対筋肉痛になります!」
「そうなったら、エリアスに回復魔法で治して貰って?」
「いや、これは筋肉をつくっていると言うことなんで、敢えてそのままにしておきます!」
「あ、そうなんだ……」
「もうそろそろリドディルク様の公務も一段落されるので、お部屋に戻られてはいかがでしょうか?」
「うん、そうするね。」
ゾランと別れて、ディルクの部屋へ戻る。
ディルクの部屋と言うより、ここはもう二人の部屋になっている。
少し待つけれど、なかなかディルクは帰ってこない。
気になって、執務室に行くことにした。
私が執務室に行くと、みんなが私を見て驚いて、一斉に立ち上がった。
「あ、アシュリー王妃!どうされたんですか?!こんな所まで!」
「あ、ごめんなさい、邪魔しちゃって……」
「いえっ!邪魔だなんてそんな事はっ!」
「そうか、もうそんな時間だったんだな。すまない、待たせたな。」
「ううん、大丈夫。こうしてディルクが仕事をしている姿を見られて嬉しい。」
「では後、カルレス、頼めるか。これからインタラス国へ行くのでな。」
「あ、はいっ!勿論大丈夫です!あ、あの、アシュリー王妃!お会いできて光栄です!」
「私もカルレスに会えて良かったです。」
「あ、僕も嬉しいです!」
「私も!すっごく嬉しいです!!」
「ふふ……ありがとう。私も皆さんのお顔が見れて、本当に嬉しいです。」
「アシュリー王妃……」
「アシュリー、行くか。」
「あ、はい。」
呆然とした状態のみんなに一礼して、執務室を出た。
ディルクの部屋まで、二人で歩いていく。
「魅了が無くても……なんだよな……」
「ん?何?」
「アシュリーの笑顔はダメだな。一度見たが最後、あとは中毒になっていく。」
「え?!何それ!私、何にもしてないよ!勿論魅了を制御してるし!あ、でもドレスの時は頭に魔力制御の石は付けられないから、ネックレスにしてるけど……だからかな……」
「魅了が無くてもと言っただろう?そのままでも、皆がアシュリーの虜になる。困ったものだ。」
「執務室に行かない方が良かった?」
「そんな事はない。皆が喜んでいたしな。」
「なら良いんだけど……」
「だが、帝城では俺の事を想って欲しい。アシュリーは俺の妃だし、な。」
「うん、勿論だよ。」
ディルクに笑ってそう言うと肩を寄せられて、それからディルクの顔が近づいてきた。
唇と唇が触れそうになった時……
「あーっ!何してんだよっ!ディルクっ!」
「あ、エリアス。」
「……邪魔をするな。」
「いやいや、邪魔するだろ!ダメだかんな!」
「ここは帝城だ。お前の出る幕ではない。」
「そうだけど!ちょっ……アシュリーも何とか言ってやってくれよ!」
「エリアス、声が大きい。」
「あ、はい。……いや、そうじゃなくて!」
「エリアスはもう用意は良いの?もうすぐインタラス国へ行くよ?」
「え?あぁ、俺はもう大丈夫だぜ?」
「まだ着替えてないじゃないか。今日はSランク冒険者の正装でと言った筈だが。」
「あ、そうだった!着替えてくる!」
「もう……だから言ったのに。」
「すぐだから!あ、ディルク!アシュリーに余計な事すんなよ!分かったな!」
そう言って走って自室へと戻って行った。
どこで誰が見てるか分からないから、帝城では基本的には空間移動を使わない様に心掛けている。
それもあって、エリアスは急いで走って行った。
けど、ディルクと口づけしてもそれは自分自身にしたような感覚だから、そんなに言われる事でもないと思うんだけどな。
毎夜ディルクと一つになっているから、段々感覚がそうなってきた。
ディルクもそうだと思うんだけど。
「あ、ディルク、今日からは一つになるのを少しの間、止めとこうと思うんだけど……」
「そうだな……どうなるか分からないからな。」
「うん。ありがとう。」
「礼など必要ないだろう?アシュリーは俺なんだから。」
「うん……」
そう言うと、頬にキスをしてきた。
ディルクが私を見て微笑んで、かるく唇にキスをして、それから私を抱き寄せて、もう一度ゆっくり唇が近づいてきて……
「ちょっと待てっ!ディルクっ!」
「エリアス……邪魔だと言っている。」
凄い勢いで走ってきたエリアスに、ディルクが舌打ちをしながら言う。
「エリアス、全然ちゃんと着れてない。ボタンもかけ間違えてるし、着方間違ってる。」
「え?!あ、あれ?そうか?」
「もう……」
エリアスの服装を正すのを手伝う。
髪も乱れてるし、全体的にグダグダな状態だった。
「エリアスは子供みたい。ちゃんと正装して、私を守ってくれるSランク冒険者のリーダーとして、しっかり側にいてくれないといけないでしょう?」
「はい……そうです。すみません……」
「自分の立場をもっとしっかり自覚しないとな。」
「いや、これはディルクが焦らしたからだろ!?」
「エリアス、じっとして!」
「あ、はい。」
エリアスの服装を正して、髪を軽く整える。
それからゾランや他の従者も合流して、空間移動でインタラス国の王都コブラルにある王城まで移動する。
調整が終わって、インタラス国がオルギアン帝国の属国となる事が決まった。
その条約を結ぶのは一ヶ月後だけれど、それまでにお目通りも含めて、インタラス国王の生誕パーティーに出席する事になったんだ。
そして、これは王妃としての初めての公務。
ディルクの妃として、しっかり立ち振舞わないと。




