伝えたい
エリアスが帰ってこない。
ちゃんと話したいのに……
けれど、空間移動でエリアスの元に行くのは、今は止めておいた方が良いのかも知れない。
部屋でウルと話をしていた。
ウルは納得してくれたみたいだ。
「兄ちゃ、よっぽどショックやったんやろなぁ。今頃泣いてるかも知れへん……いや、泣いてるはずや!」
「ちゃんと話したいんだ……どうしよう……」
「帰って来るの、待っとくしかないんちゃう?今は誰にも会いたくないかも知れへんしな。落ち着くまで待ってあげたら?」
「それはそうなんだろうけど……」
「それで、いつなん?婚礼の儀ってやつするの。」
「ディルクはなるべく早くにって言ってた。また聞いてみるけど。」
「なんでそんなに急ぐん?」
「ゾランが言ってたんだけど、ディルクには影武者がいるんだ。ディルクが眠っている間、彼が公の場ではディルクのように立ち振る舞っていたんだけど、その……」
「ん?どうしたん?」
「ディルクはまだ未婚で、凄い数の縁談の話があるみたいで、ディルクと婚姻関係を結びたい女性も多いらしいんだ……」
「そうやろな。ディルクさん、格好いいし優しそうやし、地位的にもモテるの分かるわー!」
「あ、うん……それで、その影武者のディルクに言い寄ってきた貴族の女性がいてたみたいで、その女性と良い感じになりそうだったらしいんだ。」
「えっ?!影武者が勝手に女に手を出したんか?!」
「あ、出してるまではいってないと思う!ゾランが慌てて止めたらしくって!でも、それからその女性がすっかりその気になっていて、親も勿論乗り気で、これをどうにか回避したいって言ってたんだ。」
「それは災難やなぁ。何をしよんねん。」
「若くて手腕もある皇帝が独身だと言うことが問題みたいなんだ。前皇帝は十人の妃がいたらしいし……」
「そんなにおったん?!凄いなぁー……」
「まぁ、その一人が母だった訳だけど。」
「そうかー。だから姉ちゃを妃にしたいんやなー。」
「それと、ディルクがシアレパスで刺されて亡くなっている、と言う噂が蔓延っているらしいんだ……」
「え?!なんでなん?!影武者おるやん。問題あるヤツやったけど。」
「あ、うん、そうなんだけど、影武者かも、との噂もあるみたいなんだ。ニコラウスが裁判の時に公の場で、ディルクは刺されて殺されたと言ったみたいなんだ。それはすぐに訂正されて箝口令が敷かれたんだけど、徐々に噂は広がっていって……それを払拭させる為にも、この婚礼は意味があるって考えてるみたいなんだ。」
「そうなんか……確かに、皇帝の婚礼ともなれば、色んな国から王様とかいっぱい来るんやもんなぁ?そこで元気な姿を見せる事は、必要な事かも知れへんな。」
「うん……ディルクがいない、皇帝が不在だと思われれば、他国が不穏な動きをする可能性が高くなる、と言ってたから……だから必要なんだって。」
「それって、婚礼の儀をするって事は姉ちゃの為やなくて、国の為って事なん?!」
「それもあると思う。けど国の為の事は、私の為にもなるから。私もそうすることが最善だと思う。」
「そうなんや……姉ちゃが良いんやったら、それで良いけどな。」
「この事もエリアスに言いたかったんだけどな……」
「けど、結局ディルクさんと結婚するのは変わらへんやん。」
「まぁ……そうなんだけど……」
私とディルクが婚礼の儀をする事には意味がある。
この事も踏まえて、エリアスには話したい事があるんだ。
どこに行ったのかな……
もしかして、インタラス国の王都にいるのかも知れない。
けどウルが言うように、今はそっとしておいた方が良いのかな……
しかしその日、エリアスは帰って来なかった。
ディルクには、エリアスが帰って来るまでエリアスといた部屋で待つことにする、と言って承諾を得た。
ウルはエリザベートの部屋へ行き、一緒に寝るんだそうだ。
一人ベッドで眠りにつく。
ベッドが広く感じる。
昨日エリアスと眠った時は、こんなに広いとは感じなかった。
最近はウルと一緒に寝てたし、一人で眠る事がなかったから何だか落ち着かない。
慣れって怖いな……
エリアスはどうしてるんだろう……
夜になって、また傷が痛くなってるんじゃ……
あ、そうか、ディルクが奴隷紋を消したから、もう夜は平気になったんだ。
そうか。
もう私が夜いなくても良いんだ。
そうか……
けど、それでもやっぱり気になる。
エリアス……
今どこにいるの?
何をしてるの?
もう寝てる?
本当に痛みは無くなってる?
エリアス……
そんな事を思いながら眠りについた。
朝、心地良い眠りからゆっくり目を覚ます。
温かい……
「え……」
私は一人で眠ったはずなのに、一人で寝ていなかった。
誰かにしっかり抱き締められている……
え?なんで?
そう思って顔を上げる。
それはエリアスだった。
「え?!なんで?!あれ……?!」
「ん……」
「エリアス……?」
「あぁ、アシュリー……」
「エリアス、いつの間に帰って来てたんだ?」
「え……?いや……俺は戻ってねぇ……」
「え……じゃあなんで……」
「……アシュリーが俺の所にきたんだろ?」
「私……!また勝手にっ?!」
「俺の事考えてくれてたのか?」
「え……それは……うん……」
「夜ベッドで寝ようとして横になってたら、アシュリーがいきなり俺の横に現れたんだ。すっげぇビックリした。しかもアシュリーは眠ったまんまだし。」
「ごめん……」
「そうされて、俺が怒る訳ねぇだろ?それよか、良いのか?俺の所に来てて。ディルクが怒るんじゃねぇのか?」
「あ、そうだ!私結局なにもエリアスに話せてない!言わなくちゃいけない事があるんだ!」
「言わなくちゃいけない事?」
「うん。あのね、私……」
言おうとした途端、エリアスに唇を塞がれる。
激しく口付けされて、何も言えないようにされている。
「エリ、アス……ん……聞い……て……」
「嫌だ……」
「ちょっ……ん……!」
「聞きたく……ねぇ……」
「……エリア……スっ!」
思わずエリアスの頬を両手でバチンっ!て叩いた。
「いてぇっ!」
「聞いてって言ってるじゃないか!」
「あ、はい……」
「そこに座って!」
「はい……」
エリアスはベッドの上で正座をした。
私も起き上がって、エリアスの向かいに座る。
「人の話は聞かないとダメだろ?!」
「……そう……ですね……」
「ちゃんと話すって言ったのに!」
「はい、すみません……」
「じゃあ今から言うから!ちゃんと聞いて!」
「えっ!いや、それはあんまり聞きたくないと言うか、その、何と言うか……」
「なに?!」
「あ、いえ……聞きます。」
やっとエリアスに言う事が出来る。
私たちの思いがきちんと伝われば良いんだけど……




