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慟哭の時  作者: レクフル
第8章

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一つに


ゾランに連れられて、エリアスと手を繋いでディルクのいる部屋まで歩いて行く。


さっきからエリアスは何だか真剣な表情になっていて、私よりエリアスの方が緊張してるみたいな感じだ。

その様子がなんだか可笑しくて、目を合わせると思わず笑ってしまった。

でも、エリアスは私が笑うのを見て、少し安心したみたいだ。


部屋の前まできて、この先は一人で行かせて欲しいってお願いをする。

目覚めたディルクと二人きりになりたかったんだ……

それにはエリアスが困った顔をしてたけど、大丈夫だから、と言って一人で部屋に入った。


ベッドで眠っているディルクのそばまで歩いて行って、膝を折ってディルクの手を両手で握りしめる。



「セームルグ。」



ディルクの体が光輝いて、それからセームルグが姿を現した。

セームルグはニッコリ優しそうに微笑んで、心地良い声と話し方で、柔らかく話しかけてくる。



「アシュリーさん。よく来て下さいました。お気持ちは決まりましたか?」


「あぁ。決まった。私はディルクを無くす事は出来ない。私を無くすことも出来ない。だから……お願い。ディルクを眠りから覚めさせて欲しい。」


「それが貴女たちが出した答えなんですね。分かりました。では、アシュリーさんとディルクさんとで、その短剣を手にして下さい。」


「……分かった。」



ディルクの胸に突き刺さったままになっている短剣の柄に、ディルクの手をとって添えて、私の両手でディルクの手を包むようにして握りしめる。

そうしたら、セームルグが私に重なるようになって、短剣が刺さった胸元から光が発光しているみたいに辺りが凄く眩しくなって、それを直視できなくて思わず目を閉じた。


その光が少しずつ弱くなっていく感じがしたから、ゆっくりと目を開ける。

すると、そこにディルクはいなかった。

どこに行ったのか分からなくて、辺りを見渡すけれど自分以外誰もいなくて、どうなっているのか思わず混乱しそうになる……!



「セームルグっ!どこ?!ディルクはどこにっ?!」


そう言っているつもりだった。

けれど、私の口からは音として発していなくて、ただそこには静かな暗闇の空間があるだけだった。



「え……何……なんで……?どういう事……?」



一人焦る私の頭の中に響くように声がする。

その声は……



「ディルク……?」



気づけばそこにはディルクがいた。

ディルクも何だか戸惑っているような感じがする。


近づいて行って、手と手を取り合って、お互いを確認し合うように見つめ合ってから、抱き締め合う。


すると、目の前にセームルグが姿を現した。



「セームルグ!なんか変だけど、これ、どうなってるんだ?!」


「すみません、先にきちんと説明すべきでしたね。今、貴方たちは一つになったんです。」


「え……でも……ここにディルクはいる……」


「セームルグ、分かるように話してくれないか。」


「これは失礼しました。ディルクさんの魂を体に戻すのに、まずその魂を一つにする必要があったのです。元々不完全な状態の魂ですから、長い間短剣を胸に刺したままの、負担がかかっているその体に不完全な魂を戻すと、その体に魂が馴染まずに朽ちてしまう可能性があったのです。ですから、一度魂を一つにする必要がありました。」


「え……じゃあ、私たちって今は……」


「貴方たちは、今意識の中にいるんです。心を通わすように、同じことを思うようにしてみてください。」


「同じことって……」


「胸にある短剣をご自身で抜こうと思って下さい。」


「え……?」


自分の胸には短剣はない。

ディルクにも今はない。

どういう事なのか、いまいちよく把握できなくて、でもディルクと見つめ合って、それから二人で目を閉じた……


ディルクは私を後ろから抱き締めるような感じで重なって、私の手を取って、胸に両手を持っていく。

すると、手には短剣の感触が……


目を開けると、自分が短剣の柄を握っている状態が確認できた。


胸にある短剣を両手で持っているのは自分で、でもその手は自分の手じゃないみたいな感じがする。

なんとも慣れない感じがする。

目の前にはセームルグが立っていた。



「さすがですね。飲み込みが早くて助かります。」


「どう……なっている……」



そう発した言葉も自分の声じゃくて、思った事全部を言えてないような、もどかしい感じがする。



「さっきまでは私は、貴方たちの意識の中に話しかけてたんです。私が貴方の体に入って、話しをしておりました。今は体から出てきています。ここはディルクさんが先程まで眠っていた部屋ですよ。」



見渡すと、そこはセームルグが言っていたとおり、ディルクが眠っていた部屋だった。

そうか……私は……私とディルクは一つになったんだ……


その感覚は、ディルクが私を後ろから抱き締めてくれてるような感じで、凄く安心できて心が安定してるのが分かって、何だか自信も力もフツフツと湧いてくる感じがする。

これが一人であるって事なのか……



「では短剣を抜いて下さい。」



セームルグにそう言われて、短剣の柄をしっかり握る。

少し怖いけど、ディルクがついてくれてて、私と一緒にそうしてくれるから、不安はないんだ。

うん、分かる。

今、ディルクは笑ってる。

話せてないけど、大丈夫だって言って、微笑んでくれてるのが分かる。


胸にある短剣を、力強く抜いていく。

ゆっくり短剣の刃が少しずつ見えてきて、胸にあった筈なのに綺麗な状態な刃は光輝いていて……

全て抜ききって、でも胸は痛くなくて、傷痕とかも何もない感じがして、なんだか不思議な感覚だった。



「短剣が抜けましたね。魂の状態も問題なさそうです。定着させるまで、暫くそのままでいて貰えませんか?」


「どうしたら……元に戻れる……?」


「今、意識の中で貴方たちはそばにいる状態ですよね。お互いが離れて、その存在が確認出来なくなる程までに遠ざかって行けば、またアシュリーさんとディルクさんに戻れますよ。」


「分かった……」



それから暫くは、私たちは一つになった状態でいた。

話さなくても、ディルクの存在が分かる。

凄く安心できて、凄く心地良くて、ずっとこのままでいたい、とも思ってしまう。


うん、ディルクもそう思ったんだよね?


ほら、今寂しくないよ?


寂しくないね。


一緒にいるのって、すごく安心するね。


ディルクもそう思ってるんだね。



心が温かくなっていく。

こんなに満たされた状態でいられるんだな……



ディルク、私ね、私、伝えたい事があるんだ。


分かってるかな?


分かってるよね。


うん、ディルクの事も、全部分かる。


分かってるよ。


ディルク……


ディルク……


愛してる……







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