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慟哭の時  作者: レクフル
第8章

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父親


ゾランに案内されて、母の元へ三人で向かう。


私に忘却魔法をかけた母。

それは私とディルクが愛し合ったから……

母はそれが許せなかったんだ。

けど、なんで自分にも忘却魔法をかけたんだ?

分からない。

母の考えてることがよく分からない……

なぜ父のもとに戻って来たのか……

なぜその父の世話をしているのか……


ある部屋の前でゾランが立ち止まった。



「こちらにラリサ王妃はいらっしゃいます。よろしいですか?」


「……はい。」



ゾランが私に確認してから、扉前にいる護衛の者と話しをして、それから扉が開いた。


緊張しながら中へと入っていく。


中に入ると、奥の方にあるベッドに上体を起こして座った状態でいる男の人と、その傍にいる母の姿が見えた。


男の人は……私を襲った人……

それは私の父……

その姿はあの時よりも老いていたけれど、私を見たその目があの時の目と同じで、思わずその場で立ち止まって動けなくなってしまった……



「アシュリー、大丈夫か?」


「…………」


「姉ちゃ……」


「アシュリー?」



私の肩を支えるようにして、エリアスが耳元で何度も私のことを確認するように名前を呼んで、大丈夫か?って聞いてくれる。

それでもその言葉が遠くに聞こえる感じで、私の脳裏に浮かぶのは、あの時の父の(しわが)れた声と手の感触と舌の感触と……

何度泣いて嫌だと訴えても、笑いながら私の身体を弄ぶようにしたその姿が思い出されて、その時の恐怖が私を襲ってきた……



「いや……いやだ……やめて……いやだ……!誰か……っ!助けてっ!!」


「アシュリーっ!」



エリアスが私を抱き締めて、何度も、もう大丈夫だからって言って、私を落ち着かせようとする。

震えが止まらない私を、後ろからウルも抱き締めてくれて、なぜかウルは、姉ちゃ、ごめんっ!って謝る。


そんな状態の私たちに、声をかけてきたのは母だった。



「ウル……?」


「え……?」


「ウルね?どうしたの……こんな所まで……」


「リサこそ、何も言わんと勝手に出て行って!ずっと帰ってこんで!アタシ……アタシあの家でずっと……ずっと待ってたんやで!!」


「ウル……ごめんなさい……」


「お母さ……」


「どうしたんですか?具合でも悪いのかしら?」


「私が……分からない……?」



色んな感情がぐちゃぐちゃになる……

まだ恐怖は残っていて、それをエリアスが取り除こうとしてくれている。

母は、ウルの事は分かってるのに、私の事は分からない。

忘れられるって……やっぱり辛くって苦しくなって……なんて虚しいんだろう……

そんな感情が胸を痛めていって、涙が止まらなくてどうしたら良いのかが分からなくなる……


私を見た母は、父の元へ戻った。



「少しお話しして来ますので、ここで待っていて下さいね。すぐに戻って来ますので。」


「分かった……だが……すぐに……」


「ええ、分かっていますよ。だから、大人しく待っていて下さいね?」



母は父に微笑んで、それから隣の別室へと私たちを誘導した。

ソファーに、私を離さないエリアスと一緒に座って、ウルは母の横に腰かけた。

ウルは母の腕をぎゅって抱き締めるようにしている。

ゾランは私たちの後ろで立っていた。


父の姿が見えなくなって、少し落ち着いてきた。

けど、まだあの感触が脳裏に浮かぶ……

震える私の体を、エリアスがずっと撫でていてくれている。



「大丈夫ですか?」



私を気遣うように、心配そうな顔をして聞いてくる。

母は私の前からいなくなってから、その姿は殆ど変わることなく、けれど私に向ける目は他人を見る目だった。



「なぁリサ、覚えてへんの?姉ちゃのこと……」


「姉ちゃ?彼女のこと?」


「そうや。あの人、アシュリーって言う人やで?リサの娘やんか。」


「え……アシュリー……?……アシュリー……」


「ずっと一緒に旅しててんやろ?!自分の産んだ子やで!!なんで忘れるとか、そんなんしたん!!」


「……お母さん……私はアシュリーです。覚えてない?」


「アシュリー……ね……そうね、そうだわ……貴女はアシュリー……」


「思い出したんか?!」


「えぇ……貴女が自分を名乗る事が解除する方法だったわ。そう……ここまで戻って来たのね……」


「お母さん……全部思い出したの?」


「思い出したわ。私、ずっと貴女とリディの事を忘れていたのね……」


「リディって誰やねん?」


「リディはリドディルクの事よ。私の愛しい息子なの。」


「そうなんか……」


「お母さんは何故……私の前から姿を消したの?……いや……それはもう分かってる……なぜまたここに戻って来たの?」


「そうね……その事を話さないといけないのね……その前に……貴方は?」


「え?俺か?俺はエリアスだ。」


「エリアス……その名前は知ってるわ……貴方は……ラビエラの子のエリアス!」


「そうだ。アンタに命を助けられたエリアスだ。」


「ふふ……シモンにそっくりなのね。こんなに大きくなって……そうね、アシュリーもこんなに美しく成長して……貴方たちは恋人同士なの?」


「そうだ。俺はアシュリーと添い遂げる。」


「エリアス……」


「でも……貴方にも異能の力があるんでしょ?そんな貴方がアシュリーとなんて……!」


「なんだよ?!それの何がいけねぇんだよ?!」


「いけないとか……そうではないけれど……貴方は赤ん坊の時から変わらないのね。アシュリーが好きで離れたくなくて……ずっとずっとアシュリーのそばにいて離さなかったのよ?別れる時は泣きじゃくって……」


「その後俺は……」


「ごめんなさい、話が逸れたわね。ベルンバルトは私に男と女の子供が出来たら、その子達の子供を作れば良いって言ってたのよ……そうしたらもっと能力の高い子が産まれるかも知れないからって……」


「はぁ?!なんだよそれっ!父親なのに何考えてんだ?!ベルンバルトはよ!」


「だからなの!私が男女の双子を産んだ事が分かったら、必ずベルンバルトは思うようにするって……!リディとアシュリーの力を良いように使って、それから楽しむように、実験でもするように子供を作らせるつもりだって……!あの人はそういう人なのよ!」


「お母さん……」


「だから逃げたのよ……女の子を置いて行ったら、きっと我が子であろうとベルンバルトは自分のものにするわ……どんな子ができるか試したいって……そうするに決まってるわ……私は恐ろしくて……産まれたばかりの可愛らしい我が子に、そんな酷い未来が待ち受けてるなんて、考えられなかったのよ!」


「だから私を連れて逃げたのか……」


「怖かったわ……私はベルンバルトが怖かったの……リディには申し訳なくて……産まれてすぐに手放してしまって……けれどどうしようもなかった。あの子は今も私を母親とは認めていないわ。けれどそれも仕方のない事だと分かってはいるのよ……」


「じゃあ、なぜ戻って来たんだ?!ウルを置いて何も言わずに!」


「そうや!何も言わんと勝手に!アタシ……待ってる事しか出来ひんかってん……ずっと一人で……!」


「ウル……ごめんなさいね……ちゃんと話すわね……アシュリーが成人してから……私といることでアシュリーの存在が分かってしまう事が怖くなって来て……そんな時、立ち寄った街で、この帝城で働いていた人を見かけたわ。怖くなって、ずっと宿屋で震える事しか出来なくて……アシュリーと離れたくなかった。ずっと一緒にいたかった。けれど、私がいるとアシュリーの存在が分かってしまう事の方が怖くなったのよ。貴女を男の子として育てて……普通の女の子として育ててあげる事すら出来なかったのに、これ以上貴女を危険にさらす事が出来なかったの……」


「だから私を置いて一人で……」


「貴女と離れてから、リディとエリアスに渡した、能力制御の腕輪を作り出そうと考えたの。私は錬金術が使えるから。アシュリーは私以外の人と触れ合う事は出来なかった。私がいなくなれば、誰がアシュリーの事を分かってくれるの?覚えててくれるの?誰からも忘れ去られて……だから触れる事すら出来なくて……そんなアシュリーが可哀想で可哀想で仕方がなくって……それで腕輪を作り出す事にしたのよ。」


「それでリフレイム島に来たんやな……」



ウルがゴクリと息を飲むのが分かった。

なぜ自分を置いて行ったのか、自分は捨てられたのか……

その真相が分かる時だから、ウルの緊張が私にも伝わって来るようだった……






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