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慟哭の時  作者: レクフル
第8章

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一つだった


扉がノックされて、ハッとして我に帰る。



「失礼します!お茶をお持ち致しました!」



やって来たのは赤髪のメイドさんだった。

この人は確か……



「ミーシャ……?」


「あ!アシュリーさん、覚えてて下さったんですね!ありがとうございます!お久しぶりですね!」


「あぁ。久しぶりだね。」


「そちらの可愛らしい方は?」


「彼女はウルリーカって言ってね。私の母に会いに来たんだ。」


「そうなんですね!よろしくお願い致します!

私はミーシャと申します!あの、良かったら私が作ったケーキ、いかがですか?」


「えっ!ケーキ?!むっちゃ食べたいっ!」


「まぁ!凄く可愛らしい話し方をされるんですね!あ、じゃあケーキお持ちしますね!」



ミーシャは元気よく出て行った。

入れ替わる様にエリアスとゾランが入ってくる。



「じゃあ行きましょうか。まずリドディルク様の元へ案内致します。あ、ウルリーカさんはここで待ってて貰えるかな?」


「え?アタシ、行ったら……ダメなんですか?」


「またすぐにミーシャが来るから、話し相手になって貰えないかな。あまり外に出ない子でね。ウルリーカさんのいた島の話をしてあげてほしいんだ。」


「はい……分かりました……」


「ウル、ごめんな。ちょっと待っててくれな。」


「分かった。姉ちゃ、気、しっかり持ってな!」


「うん……ありがとう、ウル。」



私とエリアスはゾランに連れられて、ディルクがいる場所まで歩いて行く。

上層階にある部屋から、更に上がっていって、いくつも鍵の付いた扉を通って、それからまた階段を下ったりして、ゾランに案内されないと絶対にたどり着けないだろうと思われる場所まで歩いて、厳重な扉の前で立ち止まった。


分かる。


この先にディルクがいるのが分かる……!


ドキドキして、心臓が煩くなって、足がすくんでしまう……

そんな私を支えるように、エリアスが私の肩に手を置いて、大丈夫だから、と落ち着いた声で言ってくれる。

エリアスを見て頷いて、それを見たゾランが扉を開けていく。


ゆっくり重たそうな扉が開くと、何もない部屋の中央辺りにあるベッドに、ディルクはいた。


胸に短剣を根元まで食い込ませて、ディルクは眠っているようだった。



「ディルク……!」



恐る恐る近寄って行く……


会いたかった……


やっと会えた……


こんな状態なのに、ディルクに会えた事が嬉しくて、体中がディルクを求めているのが分かってしまう。


涙が出て……

ただ涙が溢れて……


立ち止まってしまう私を、後ろからエリアスは私の肩を支えながら、ゆっくりと一緒に前に進んでくれる……


ディルクのそばまで来て……


眠っているディルクを見ると何も言えなくて、ただ涙が溢れて……


胸にある短剣を見て、なぜそのままにいしているだろう?って思ってゾランを見ると、それを察したのか、医師達が何度その短剣を抜こうとしても、なにをしてもディルクの胸から抜けなかったと教えてくれた。


そう聞いて、もう一度短剣を見てみると、短剣には全ての石が埋まっているのが分かった。

黒の石も白の石も……

黒の石であるテネブレは私が、白の石はディルクが体に取り込んでしまって、その存在はどこにあるのか分からなかったのに……



「白の石は……セームルグ……」



そう呟いた時ディルクの体が光り輝いて、ディルクの中からセームルグの姿が現れた。

驚いて戸惑っている私とエリアスを見て、セームルグが微笑んだ。



「やっと来て下さいましたね。お待ちししておりましたよ。」


「セームルグ……あの……ディルクは一体どうなっているんだ?」


「短剣が心臓を貫いております。普通であれば、即死の状態です。しかし、この方の体内には多くの生気がありました。だから朽ちる事なく、この姿のままでいられたんです。」


「でも生きてるのはなぜ……?!」


「私は、生と死を司る精霊です。彼の死をとどめておくことが出来るのです。そして私を宿す彼は、望んだ人の生死をどうにでもする事が出来るのです。」


「そんな力があったのか?!」


「はい。肉体が健在であれば、死した者を蘇らせる事は可能です。その逆も然り。あらゆる者の生命を簡単に奪うことが出来ます。こんな力だからこそ、私は慎重に人を選ぶのです。」


「それが私ではなくディルクだったのか……」


「あの時の貴女ではダメだったんです。まぁ、彼には適正があったのも事実ですが……しかし、私の力がどうであるのかは、彼自身知らなかったと思いますよ。まだ覚醒しておりませんでしたから。」


「それはなぜ……?」


「彼はまだ一人となっておりません。」


「え?なに?言ってる事がよく……」


「貴女と彼は、一つの命なんです。」


「え……?」


「なんだ?どういう事なんだよ?!」


「元は一つの命なんです。母親の体内で育つ過程で、魔力が大きくなり過ぎて、その命が危うくなりそうだったのでしょう。自分自身を守る為に、貴方たちは二人に分かれたのです。」


「私たちは……一つの命……」


「貴方たちの特殊な状況も加わってます。希にX染色体を多く持って生まれて来る人がいるのですが、貴方たちがそうだったのです。なので二人になる事が出来たんでしょう。」


「そんなの……」


「信じられませんか?貴方たちは本来、離れて生きているのが不思議な位なんです。だから求めてしまう。常に共にありたいと願ってしまう。違いますか?」


「だからなのかよ……だからアシュリーはディルクを求めちまうのかよ?!」


「そうです。魂が呼び合うのです。仕方の無いことです。奇しくも貴方たちは男と女となって、性別が分かれてしまいました。互いを求めるのに、それが愛情となっていくのは自然な事だったのかも知れません。」


「でも……!じゃあ……じゃあどうすれば……!」


「一つの命に戻りますか?」


「……え?」


「元々そうであったように、一つの命となりますか?そうすればもう求める事はありません。それは、貴女が完全に一人の人となれるからです。」


「待てよ、もし一つの命になった場合、どうなるんだよ?ディルクは?アシュリーはどうなるんだよ?!」


「どのようになるのかは……分かりません。アシュリーさんが主体となるのか、リドディルクさんが主体となるのか、又は全く別の人物になるのか……」


「ダメだ!そんな事絶対ダメだ!アシュリーがいなくなるとか、そんな事はっ!!」


「エリアス……」


「私は一つの命になる事をお進めします。それが本来の姿がなんですから。」


「でも……もう二度とディルクには会えなくなる……!」


「離れている時の寂しさは無くなりますよ?きっと今まで、異常に寂しさを感じていたのではありませんか?」


「それは……!私は人と関わって生きて来られなかったから……」


「それもあるんでしょうが、それだけではありません。貴女の半分がいない状態だったんです。自分自身を律する事も難しかったのではありませんか?」


「でもそれも!……私が弱いからで……!」


「常に心細く、自己を律する事も難しい状態で、貴女は凄く頑張られていたと思いますよ。今、彼がこの状況だからこそ、一つの魂へと導く事が出来るのですが、また貴方たちが個別となった場合は一つとなるのは難しいでしょう。」


「じゃあ……私が決めないといけないのか……」


「……どうされるかは、貴女が決める事です。私は生と死を司る精霊。貴女の決定を受け入れ、お力添えをさせて頂きますよ。」


「……アシュリー……」


「私はここでお待ちしています。考えて答えが出たら、またここに来て下さい。しかし、そんなに待てそうにありません。生気が少なくなってきております。このままの状態では長くは持ちません。」


「え……それはいつまで……?!」


「三日が限度です。それからは、彼の体は徐々に朽ちていくでょう……時間はあまりありませんが、よく考えて後悔のないように答えを出して下さいね。」


「答えは決まってる!アシュリーがいなくなる可能性があるなんて事は、絶対あっちゃダメなんだよ!」


「エリアス……」



そんな私たちを見て、セームルグは優しく笑ってディルクの中に消えていった。

ディルクのそばに行って、ディルクの頬に触れる。

ディルクは私で……私はディルクで……

だからこんなに求めてしまうの?

今こうやって近くにいて触れているだけで、体が、心が喜んでいるのが分かる。

こうしているのが嬉しくて、満たされてる感じがしてそこから動けない。



「アシュリー……大丈夫か?一旦戻ろう?」


「あ……うん……」



エリアスに言われて、その場を後にする。

ディルクと離れるのが嫌で、引き裂かれる思いがして、それをエリアスが支えるようにして私と部屋から出ていく。


そのままエリアスに支えられながら、さっきの部屋まで戻ってきた。


どうすればいいのか……


会えば会うほど、離れがたくなる。

私の身も心も、ディルクを欲しているのがより分かってしまう。

ディルクと一つになったら、もうこんな寂しい思いはしなくていいんだろうか?

常に満たされた状態でいられるんだろうか?


まだセームルグに言われた事がうまく飲み込めなくて、私はただ一人ディルクを思う事しか出来なかったんだ……








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