考えてはいけない
「兄ちゃ!!」
「ウル……油断……するな……」
「分かったから!姉ちゃ!!お願いっ!」
「あ、あぁ!分かった!」
すぐに駆け寄って、回復魔法で治癒させる。
するとすぐに傷は治っていった。
それを見た冒険者達は驚いて、なんだ今のは?!って騒ぎ出す。
私は冒険者達に闇魔法で一日分の記憶を無くし、ボロボロだった冒険者達には回復魔法で治癒させておいた。
「兄ちゃ……ごめん……」
「最後までちゃんと見て、完全に倒したか分かってからじゃねぇと安心しちゃダメだな。」
「うん……」
上体を起こして、ウルの頭を撫でている。
私は抱きついて、胸に顔を埋めて思わず涙を流してしまった。
「アシュレイ、俺、無事だから。アシュレイが治してくれたろ?ほら、もう大丈夫だから。」
「ごめん……ごめんなさ……」
「なんで謝るんだよ?」
「ごめ……エリアス……」
「え……」
「今まで……ごめんなさい……」
「アシュレイ……俺が誰か……分かるのか?」
顔を上げて、涙で見えにくくなってる目を拭って、驚いた顔をして私を見ているのを確認して頬を撫でて……
「エリアス……ずっと……ごめん……」
「アシュレイ……!」
エリアスが私を抱き締める。
私、ずっとエリアスをディルクって言って……
それをエリアスは何も言わずに、私の事を考えてそのままでいてくれたんだ……
「マジか?!俺がエリアスだって、本当に分かってるのか?!」
「うん……エリアスだ……また……怪我をして……夜大変なのに……!」
「アシュレイ……!」
「姉ちゃ……良かった!やっと兄ちゃの事が分かって!良かったぁーっ!!」
三人で抱き合って、私たちは三人ともが泣いてるみたいだった。
けど、それからまた少しずつ記憶が蘇ってくる。
私は……ディルクを……
「あ……あ……」
「アシュレイ……?」
「私……ディルクを……やあぁぁぁーーっ!!」
「アシュレイっ!!」
「私っ!ディルクを刺しちゃったんだ!!ディルクをっ!!殺してしまったんだ!!いやだ!いやあぁぁぁーーーっ!!」
「アシュレイっ!落ち着けっ!ディルクは死んでないっ!!」
「……え……?」
「落ち着いて聞いてくれ……ディルクは死んでないんだ……まだ……生きてる……!」
「え……?だって……私……ディルクの胸に……!心臓にっ!あの短剣でっ!!」
「大丈夫だ!大丈夫だから!頼むから落ち着いてくれ!嘘じゃねぇ!!ディルクはまだ死んでねぇんだ!!」
「……なんで……?」
「それは……正直分かんねぇ。けど、あの短剣を胸に刺したまま、ディルクは目覚める事なく眠ったような状態になってる……けど、生きてんだよ……!死んでねぇんだよ!」
「本当に……?良かった……!良かっ……」
ディルクは生きてた……
胸に短剣を刺したまま……
なんで?
どうやって?
でも、生きていた事が嬉しくて……
すごくすごく嬉しくて……
けど、どうなるんだろう?
どうなってるんだろう……?
このままで……良いはずはない……
じゃあ、どうすれば……
「やっと……ちゃんと言えた……ちゃんと伝えられた……」
「エリアス?!」
エリアスがグッタリしてる。
昨日、ドラゴンを倒したばかりだ。
それなのに、私に付き合って旅に出て、まだ体調も戻ってないのに剣で大蜘蛛を倒すのに体力を使って……!
回復魔法を施したとは言っても、またあんな大怪我を負って!
体には凄い負担がかかってる筈だ!
「ウル、ここにテントを張ろう。エリアスを休ませたい!」
「うん、分かった!姉ちゃ!」
その場所にテントを張って、エリアスを寝かせる。
エリアスは私を見て、嬉しそうにずっと笑ってる。
それからずっと私の手を握る。
私がどこにも行かないようにしているみたいに。
ずっと……エリアスは辛かった筈だ……
私を想ってくれているエリアス……
なのに……私はずっとエリアスを忘れたままで……
そうだ。
私は母に愛する人を忘れるように、忘却魔法をかけられたんだ。
ディルクと私は双子の兄妹だったから……
そしてディルクとエリアスの事を忘れた。
それから自分自身の事も忘れた。
私はあの時……ディルクに抱かれて……初めて自分自身を愛する事ができたんだ……
だから自分の事も分からなくなってしまった……
そんな私をエリアスが探しだしてくれた。
私は……エリアスが好きだ。
今も凄く大切だ。
そばにいると安心する。
一緒に旅をするのは凄く楽しい。
離れたくない。
ずっと一緒にいたい。
その想いは今も変わらない。
けど……ディルクは……私の一部のような感じなんだ。
離れちゃいけないような気がする。
なんで離れているのかも分からないくらい、求めてしまうんだ。
そんな事を考えていると、不意にエリアスが私を抱き寄せた。
横になっているエリアスの胸に飛び込む感じになって、エリアスが私の頬を上げる。
エリアスの腕の中で目と目が合って……
エリアスの唇が私の唇に優しく触れた。
嫌……じゃない……
エリアスの優しい唇は、私の頭の中を全てエリアスで埋めるような感じで……
今までのエリアスとの思い出が駆け巡って……
私を想ってくれるエリアスが愛おしくて……
すごく……すごく愛おしくて……
「姉ちゃー!お弁当どうす……何してるん……?」
「え?!あ、なんでも!すぐに行く!」
すぐにエリアスから離れて行こうとするけど、エリアスは私の手を離さない。
絡ませた指に口づけをして、やっと手を離してくれた。
テントの中でお弁当を食べようってなって、皆で食べてからエリアスを寝かせた。
少しして目覚めた冒険者達は、なんでここで寝てたんだろうって不思議そうにしながら去っていった。
それからウルが、今日はバーベキューにする事になっててんって言うので、その用意を一緒にした。
野菜を切ったりしながら、ウルが聞いてくる。
「姉ちゃは……ディルクと兄ちゃと、どっちが好きなん?」
「えっ!?……それは……」
「兄ちゃはずっと、姉ちゃの事助けてたで?姉ちゃが兄ちゃの事ずっとディルクって言うてても、姉ちゃが元気やったらそれで良いって。兄ちゃに悲しい事があっても、兄ちゃ泣かんと笑っててんで?あんなに泣き虫やのに……」
「もしかして……昨日亡くなってた男の人って……」
「うん……兄ちゃのお父さんやったみたい。そっくりやったから、見てすぐに分かってん。助けたかったやろな……」
「そうか……私がエリアスをディルクって思ってたから、自分の生まれた村を……父親を助けたいって言えなかったんだ……私……エリアスになんて事を……」
「それは……もう済んだ事やから……兄ちゃは……禍やから殺されそうになってたって……」
「そうだエリアスはあの村で……禍の子って、そう言われてた……」
「アタシ……兄ちゃが可哀想って思ってしまうねん。兄ちゃは何も悪くないのに、なんでいつも兄ちゃに酷い事が起こるん?それを救えるんは、姉ちゃだけやで?」
「ウル……」
「ディルクってどんな奴か知らんけど、アタシは姉ちゃと兄ちゃには幸せになって貰いたいねん!」
「……うん……」
「……けどそれは姉ちゃが決める事やから……好きな気持ちはどうにもならへんのやろ?」
「…………」
「ごめ……姉ちゃ、泣かんといて!ごめん!」
「ううん……ウルが言ってる事は最もな事だから……分かってるんだ……」
分かってるんだ……
私とディルクは双子で兄妹で……
普通で考えれば、兄妹が愛し合うなんて事はいけない事で……
だから兄妹として、本来あるべき姿で接する方が良いんだ。
ディルクを兄として……
皇帝リドディルクとして……
一緒に旅しようなんて考えてはいけないんだ……
考えてはいけないんだ……
あけましておめでとうございます
本年もよろしくお願い申し上げます
この小説を書きはじてから半年間、毎日更新を続けてきた自分を誉めてあげたいです!
いつも読んで下さる方、本当にありがとうございます。
これからも頑張って書いていきますので、どうぞよろしくお願い致します!<(_ _*)>




