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慟哭の時  作者: レクフル
第8章

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涙の理由


……ちゃ……



……ね……ちゃ……



姉ちゃ!



痺れる頭の中に声が少しずつ入ってきて、ゆっくり目を開ける。

目の前にはウルがいて、私を激しく揺さぶって、私をずっと呼び続けてる。



「え……ウル……?」


「姉ちゃ!やっと目を覚ました!」


「な、に……?あれ……どうなって……」


「姉ちゃ!兄ちゃがっ!!一人で村へ行ったっ!!」


「え……?」



まだハッキリしない頭で、さっきまでの事を思い出す様に考える。


えっと……

私たちは東へ向かっていて……

ディルクが……ダメだって……引き返すって言い出して……

それから私が……でもそうしたら被害がもっと大きくなるって言って……

ディルクが私を抱き締めてから、すまないって言って……

それから……?



「え?!何?!何があった?!ウルっ!!」


「兄ちゃが姉ちゃを気絶させてんっ!それでここまで連れてきて、結界を張って……兄ちゃはすぐに帰って来るから待っててって言って!」


「それで一人で村に行ったのか?!」


「そう!アタシ、止めてんけど、兄ちゃは姉ちゃの側にいてやってくれって言って!一人で行ってもうてんー!!」



そう言いながらウルは大声で泣き出した。

私が目覚めるまで、心配なのと不安なのと、どうすれば良いのか分からずに一人で困っていたんだろう。

ウルを抱き締めて、落ち着くように言う。

それから、自分の体の状態を確認する。

多分雷魔法で感電させられたんだ。

まだ少し痺れてる。



「姉ちゃ!どうしようっ!兄ちゃが!ドラゴンにやられてまうっ!!」


「ウル、落ち着いて。分かってる。すぐに行こう!」


「けど場所が分からへん!どれ位距離があるかも分からへんっ!」


「大丈夫だ。私は思った人の元へも空間移動で行く事が出来る。」


「そうなん!?じゃあ、早く行こうっ!」


「うん!」



体を動かそうとするけど、なかなか思うように動かない。

光魔法で自分の体を浄化させると、やっと体が動かせるようになった。


ウルと手を繋いで、ディルクを思う。

けど、上手くいかない。

空間移動が出来ない……

なんで……?

なんでディルクの側まで行けないんだ?!



「姉ちゃ……どうしたん?!」


「え?……うん……ディルクを思うんだけど……なんか上手くいかなくて……何でだろう?」


「違う……」


「え?」


「ディルクと違うっ!兄ちゃはっ!」


「ウル?」


「兄ちゃは……エリアスや!……ディルクと違う!」


「何言ってるんだ……?ディルクは……ディルクじゃないか!」


「ええから、兄ちゃを思い浮かべて、エリアスって思ってみてっ!お願いやからっ!!」


「けどっ!!」


「姉ちゃ!!……お願いします……!」


「ウル……」



ウルが泣きながら私に頭を下げて訴える。

こんなウルは初めて見た……

ウルの言ってる事がよく分からない。

なんでこんな事を言うのか……

けど、移動できない今、ウルの言う通りにしてみるしかない。

ディルクを思い浮かべながら、エリアスって心の中でつぶやく様に呼んでみる。


目の前が歪みだして暗くなってから、別の景色が歪んで見えて、それが整うようにハッキリしだす。


そこには倒れているディルクに、村人と思われる人達が斧や剣で斬りつけようとしていたところだった……!


すぐに雷魔法で感電させて村人達を気絶させる。

集まってきていた人達は皆、その場にバタバタと倒れていった。


なんでこんな事になってる……?


どうなってこうなってるんだ!?



「兄ちゃ!」



ウルが急いでディルクの元へ走って行く。

ディルクは目を覚まさなくて、グッタリしていた。

口から血を吐き出していて、全身ボロボロになっていて、戦い疲れた状態なのが見てすぐに分かる。

急いで回復魔法をかける。

けど、まだディルクは目覚めない……

魔力切れなのか……?


まだ周りは雪があって、家や建物は凍り付いているけれど、寒さは和らいでいて日の光が暖かく降り注いでいた。

少し離れた場所には、大きな黒い炭の塊があって、もしかしたらこれがドラゴンだったのかも知れない、と思った。


って事は、ディルクはこの大きなドラゴンを一人で倒したって事なのか?

けど、じゃあなんで村人達に殺されそうになってるんだ?!

辺りを見ると、あちこちの家や店と思われる建物が崩壊していた。

きっとドラゴンが暴れたんだろう。

もしかして、これをディルクのせいにしてるのか?!


……分からない……


そうなのかどうか分からないけど、今この情報量で考えられるのはここまでだった。

私は魔素を集めて、回復魔法と闇魔法を広範囲にかける。

すると、崩れた家や店等の建物が復元されていき、村人達の一日分の記憶は消えていった。


ウルはディルクにしがみついて、ずっと泣き続けていた。

何度も「兄ちゃ!」って呼んで、胸に顔を埋めて泣いていた。


私もディルクの側に行って、倒れたままの状態のディルクの様子を見て、それから手を握る。

なんで助けたのに、殺されそうになってるんだ……?

あり得ない……!

ディルクはこんなになるまで戦ったのにっ!!



「ウル、ここを離れよう。さっきいた場所まで戻るから、私に掴まって。」


「うん……あ、ちょっと待って!兄ちゃの剣が向こうに落ちてるっ!」



そう言いながらウルがディルクの剣を取りに行った。

その場所には一人の男の人が倒れていて、その人は既に亡くなっているようだった。

体から大量の血液が流れ出ていて、ドラゴンに殺られた痕のような、腹部に大きな怪我をしていて、それが原因なんだろうと思われる。

ウルは暫くその人を見つめて、それから剣を持って私たちの元まで走って帰ってきた。



「じゃあ行くよ。」


「うん……」



空間移動で、さっき私が目覚めた場所まで帰ってきた。

すぐにテントを用意して、そこに風魔法で軽くしたディルクを運んで寝かせる。

回復魔法では魔力は補えない。

使いすぎた体力も戻せない。

今は暫く休ませるしかない……


ウルはずっと泣きながらディルクの側を離れなくて、私も一緒に側で様子を見守っていた。

けど、さっきウルは可笑しなことを言っていた。


ディルクじゃないって……

エリアスだって……

そのエリアスって……

なんだか知っている様な気もする……

けど、違う。

そうじゃない。

だって、目の前にいるのはディルクで、私がそう呼ぶと微笑んでくれて……

きっとウルは気が動転していたんだな……

うん、そうだ。

きっとそうなんだ。

だって、ここにいるのは、やっぱりディルクなんだから……



「ウル、ディルクの側にいててくれる?私は消化の良いものを作ってくる。ディルクが目覚めた時にすぐに食べられる様に……」


「うん、分かった。姉ちゃ、ありがと……」


「なんでウルがお礼を言うの?」


「……何でもない……けど、なんか言いたくなってん……」


「そう……」



ウルとエリアスをテントに残して、食事の用意をする。

野菜をじっくり煮込んで、優しい味付けにして、小麦粉を練って細くきった麺を別で茹でておいて、食べるときに一緒に煮込めるように用意する。

そうやって料理をしていると……なんだか涙が溢れてきた……

何でだろう?

なんで私は泣いてるんだろう……?

涙が出てくる意味が分からずに、でもそれを止めることも出来なくて……



「姉ちゃ……」


「え……あ、ウル、どうしたんだ?ディルクの様子は……?」


「どうしたん?なんで泣いてるん?」


「……分からない……けど……なんだか勝手に涙が出てきて……」


「姉ちゃも心配やったからやろ?兄ちゃが目を覚ましたから、会ってきて?アタシここでスープ見とくから。」


「うん……ありがとう、ウル……」



すぐに走ってテントに向かう。

そこに横たわったままのディルクが、私を見て微笑んだ。

思わずその胸に飛び込むようにして抱きついてしまう……



「ディルクっ!」


「アシュレイが助けてくれたんだってな……ありがとな……」


「一人でっ!私を置いて一人で勝手に行ってっ!もうこんな事しないで……!絶対にしないで!」


「あぁ……ごめん……アシュレイ……ごめんな……」


「無事で良かった……」


「うん……良かった……またアシュレイに会えた……」


「ディルク……もう私から離れていかないで……」


「あぁ……分かった……」



安心したように笑って、ディルクはまたゆっくり目を閉じた。

まだ魔力も体力も回復していないから凄く疲れてるんだろうな……


眠ったディルクにそっと口付けをする……


名残惜しくディルクを抱き締めて、それからそっとテントから出てウルの元へ行った。

ウルが鍋をグルグルかき混ぜていて、見るとウルも泣いていた。



「ウル、なんで泣いてるんだ?」


「姉ちゃ……なんか……泣いてしまうねん……でもなんでか分からへんー!」


「うん……分かる……ウル、分かるよ……!」



そう言ってウルと抱き合って、二人で泣いてしまった。


怖かった……


ディルクがいなくなって、一人でドラゴンと戦いに行って……

それだけでも心配で、このままいなくなったらどうしようって考えたら怖くなって、村に行ったら村人達に殺されそうになってて、なんでこんな理不尽な事になってるんだって思ったら我慢できなくて……


ディルクを思ったら、勝手に涙が溢れてくるんだ……


抱き合ったまま、暫くウルと二人で慰めるようにして、私たちは泣き続けてしまったんだ……








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