東へ
立ち寄った街からオルギアン帝国へは北に行けばいいけれど、アシュレイとウルが俺の様子を見て気を使ってくれた。
ダメだな……
もっとしっかりしねぇと……
ある方面とは、ここから東へ行った場所だ。
そこには、俺が生まれた村がある。
そこに俺の父親がいる。
俺は父親から母親を奪ってしまった。
愛する人を奪われるってのは、本当に辛い事なんだ……
俺には会いたくねぇとは思うけど、気になって気になって仕方ねぇんだ。
何か起こってんなら、どうにかしてぇ……
けど、アシュレイやウルを俺の事に巻き込みたくねぇし、アシュレイは今、俺の事をディルクって思っているのに、俺の父親の事で動くのはどうかと思うし、危険があるなら近寄らせたくねぇし……
そんな複雑な思いがずっと頭から離れなくて、それをちゃんと隠す事も出来てなかったみたいだ。
自分の未熟さが情けねぇ……
そんな俺を見て、アシュレイが俺に抱きついてきた。
ビックリして戸惑っていると、アシュレイは俺を見て微笑むんだ……
「ディルク……大丈夫だから。そんな心配そうな顔しないで?」
「アシュレイ……」
「そやで、兄ちゃ!アタシもついてるやん!」
ウルは俺の後ろからしがみついてきた。
心配してんのはアシュレイとウルだろ……
いや、そうさせてんのは俺か……
「ありがとな……大丈夫だ。けど……本当にこのままオルギアン帝国に向かわなくて良いのか?」
「急ぐ旅じゃないって言ってたじゃないか。ディルクの気になる事は私も気になる。だから一緒に行こう?」
「アタシもそうや!ゆっくり旅しよって言ってたやん!ボチボチ行こうや!けど、何かあったら助けてくれるんやろ?」
「それは当然だ!俺の命に変えてもアシュレイとウルは必ず守るっ!」
「そんな事……言うな……」
「姉ちゃ……?」
「そんな事……命に変えてもとか……言うなっ!!……死んじゃ……ダメなんだ……!絶対っ!!死んじゃっダメなんだっ!!」
「アシュレイっ!!」
アシュレイの呼吸が乱れてくる……!
過呼吸になりかけてる……!
すぐに口元に手を当てて背中を擦って、落ち着かすように、何度もごめんって謝る。
アシュレイは目に涙を浮かべながら首を横に振って、自分がこうなっている事を申し訳無さそうにしている。
俺も迂闊だった……
ウルも心配そうにアシュレイの背中を撫でている。
そうしていると、少しずつアシュレイの呼吸は整ってきた……
「ごめ……ディルク……もう平気……」
「アシュレイ、ごめんっ!もう言わないから!」
「うん……ディルク……うん……」
「兄ちゃ……」
アシュレイを抱き締めて、自分の不甲斐なさに苛立って、しばらくそのまま動けなかった……
何やってんだよ、俺は!
「兄ちゃ、大丈夫や。兄ちゃは悪くないから。勿論、姉ちゃも悪くないで。誰もなんも悪ないねんから、二人してそんなに謝りなや。」
「ウル……」
「あぁ……そうだな…ありがとな、ウル。」
「アタシもなかなかエエ事言うやろ?」
「ふふ……本当だ。」
ウルは今、俺とアシュレイの中和剤みてぇになってくれてる。
いや、どちらかと言うと俺に限っての事か……
いてくれて本当に助かってる。
もっと俺がドンって構えてなきゃいけねぇのにな。
「で、兄ちゃ、どっちに行くん?」
「え?あぁ……東の方だ。マルティノア国に近づく感じになるな。」
「マルティノア……」
「姉ちゃ、行ったことあるん?」
「いや……ない……はず……」
「兄ちゃはあるん?」
「……あぁ。」
「なんや二人とも歯切れが悪いなぁ。まぁ、その国までは行けへんみたいやし、ほな行こか!」
「うん。」
「すまねぇな……」
「いちいち謝りな!行くで!」
ウルにそう言われて、俺たちは東へ向かう。
もう言わないとは言ったけど、俺にとっては自分の事よりアシュレイが大事なんだ。
もちろんウルも大事だ。
だから、何があっても必ず守る。
それ以上に大切なもんなんて、今の俺にはねぇからな。
東に向かって歩いて行くと、段々寒く感じるようになってきた。
今はそんな時期でもないし、ここら辺はそう寒くなる事もないと思ってたけど……?
外套をしっかり着て、首元をおさえて寒さを回避しようとする二人と手を繋ぐ。
繋いだ手から、火魔法で血管を少し温めると、青白くなっていた唇や頬に赤みが戻ってくる。
アシュレイもウルも俺を見て驚いて、それから嬉しそうに微笑んだ。
こんな微妙な温度にも対応できるようになった。
腕輪が無くなったのは、悪い事ばかりじゃなかったな。
しばらく歩いて、日が暮れて来たからテントを張った。
東へ進む度に、段々と寒さが増してくる。
なんだ?
なんでこんなに気温が下がってるんだ?
俺は体温調節で寒さを回避できっけど、アシュレイとウルの手を離すと、二人はすぐにブルブル震え出す。
結界を張ってその中の温度を上げて、寒さを緩和させると二人はすっげぇ喜んだ。
「凄いな!ディルクは凄い!こんなに暖かくできるなんて!」
「ホンマや!流石やな!」
「得意魔法を使ってるだけだから、そんな誉める程でもねぇよ。けど、火を使ったらたまに換気させるからな?」
「分かったー!」
それからアシュレイとウルは二人で料理をしていた。
バターを熱してエゾヒツジと野菜で炒めた物を混ぜたところに小麦を入れる。それからミルクを足してトロトロにして味付けさせた所に、小麦で練って細く短く切って茹でた物を入れて、それを人数分の器に分けてからチーズを上にかけて火魔法で炙っていた。
そこにアッサリしたトムトのスープをつけて、温かい食事を用意してくれた。
三人でテーブルについて、飯を食う。
話しをしながら笑いあって、旨い飯食って……
大好きな人と一緒で笑顔を見れて……
これって、幸せなんだろうな。
俺は今、幸せなんだよな……?
焚き火をしてるから、時々結界を解除して換気させる。
外はすっげぇ寒い。
夜になったら、更に冷え込んで来ていた。
また結界を張って暖めるけど、それにアシュレイが心配してきた。
「ディルク、こんな長い時間暖かくさせてたら、魔力が尽きるんじゃないか?今は広範囲にさせてるし、外との気温差が結構あるから、温度をかなり上げてると思うし……」
「ホンマや。あ、じゃあ、今日は三人で寝ぇへん?そしたら、テント一つ分だけの魔力でいけるやん。」
「え?いや、流石にそれはまずいだろ?大丈夫だ。魔力貯めた魔道具もあるし、何とかなる。」
「私は……その……一緒に寝るのは……良いんだけど……」
「そうや、明日も兄ちゃに暖めて貰いたいし、魔力残しといた方が良いやん。一緒に寝ようや!」
「いや、けど……!」
「なんや、一緒に寝るん、嫌なんか?それとも、姉ちゃになんかする気か?」
「しねぇよ!」
「ちょっと!ウル……!」
「あ、寝言凄いって言うの、気にしてるんか?アタシは気にせぇへんで?どんな寝言かは気になるけどな。」
「え?ディルク、寝言凄いのか?」
「え、いや、あ、そう……かな……」
「ふふ……そうなんだ……」
「じゃあ、一緒に寝るの、決まりな!」
「けど、狭いだろ?!それに……!」
「一人用のベッドに三人で寝たこともあるやん。大丈夫や!」
「そんな事してたの……か……」
「あ、そうか、姉ちゃ覚えてないねんな……まぁ、そう言うことになったから、寝る準備終わったら兄ちゃ呼びに行くからな。」
「…………」
ウルはアシュレイの手をとって、テントへ向かった。
さて、どうしようか……
まだ夜に傷跡が疼くから、出来るだけ一人でいたいんだけどな……




