人々の目
リフレイム島の港町ソリフィエから、アクシタス国の港町トルニカへ、私たち三人は船で向かっている。
エリアスへの誤解もなんとか解けたようで、ウルはやっと船旅を楽しめてきたようだった。
「あ!ウルっ!ほら、あそこ!大きな魚がジャンプしたっ!見て見て!ウル!!」
「どこ?!姉ちゃ!見えへん!」
甲板で海を指差しながらウルに教えるけど、ウルは船のへりよりは目線が低くて、向こう側が見えなくて一生懸命ジャンプして、私の指差す方向を見ようと試みていた。
「ほらよ。」
「うぁっ!」
エリアスがウルを後ろから抱き上げて、見えるようにしてあげた。
「な、何すんねん、急に!ビックリするやんか!」
「これで見えるだろ?」
「子供扱いすなって言うてるやろ!」
「じゃあ降ろすか?」
「……ちょっとだけこうさせといたるわ……」
なんやかんや言いながらも、二人は仲良くしてる感じだ。
ウルとエリアスは気が合うのかも知れない。
そんな二人のやり取りを、思わず微笑んで見てしまう。
ウルを左腕で抱き上げたエリアスが、私の隣に来て右手で私の腰を引き寄せる。
エリアスを見ると、私を見て微笑んでいた。
エリアスの胸に頭を寄せて、微笑みながら三人で海を眺めていた。
こんな時間が、すごく心地いい。
いつまでもこうやって、ずっと旅をしていられるのなら、もうそれだけで良いのかも知れない……
その後ウルは、船内にある商店でお土産を見たり、食堂で甘味を食べたりして、それから船内を探索するって言って、私とエリアスをあちこちへ連れ回した。
今まで見たこともない、体験したこともない場所やモノを感じて、ウルはすごく嬉しそうにはしゃいでいた。
私達を見た人達は、口々に、昨日はありがとう!とか、凄かったな!等と言って、食事を奢ってくれたり、お土産を渡してくれたりする。
私はこんなことには慣れてないからつい戸惑ってしまうけれど、そんな時はいつもエリアスが対応してくれる。
そうやってついエリアスに甘えてしまう。
その事を言うと、こういうのは俺の得意分野だから任せろ、と言って微笑む。
エリアスは本当にいつも私に甘い。
そんな感じで、ウルは船を満喫できたようで、港町に着いた時は、まだ降りたくないって少し駄々をこねていた。
エリアスが、置いていくぞって言って歩き出すと、慌てた様にして走ってついてくる。
港町トルニカに降り立って、ウルはキョロキョロして辺りを見ていた。
「すごいなぁ……」
「ん?何が?」
「建物がみんな大きい!人がいっぱいおる!」
「ハハハ、ウルはお上りさんだな。」
「ん?エリアス、何?おのぼりさんって?」
「今はあんまり言わねぇかな。」
「よう分からんけど、なんやからかわれてる様でムカつく……!」
ウルがエリアスを足蹴にする。
いてっ!とか言いながらも、エリアスは楽しそうに笑ってた。
それから三人で、ウルを真ん中にして手を繋いで街を歩いた。
「なぁなぁ……お願いがあるんやけど……」
「ん?どうしたんだ?ウル?」
「えっと……あんな……?その……歩きながら二人で手をぐいってして、アタシを持ち上げてみてくれへんかな……」
「え?こう?」
エリアスと私で、手を繋いだウルをぐいって持ち上げる。
「うん、それから、ブランって振って欲しいねん。」
「うん。」
言われた通りに、ぐいってウルを持ち上げて、軽く手を振ると、ウルが浮き上がって大きく揺れる。
「わぁっ!すごいっ!アハハハっ!」
「え?これがしたかったのか?」
「うん!一回して欲しかってん!」
「そうなのか?」
「なんか、ちっちゃい子が両親にそうされてるのいつも見てて、どんなんか一回してみて欲しいって思っててん!」
「そっか。体験できて良かったな。」
「姉ちゃ、ありがと!兄ちゃ、ありがとな!」
「ん?兄ちゃ?」
「え……その……色々誤解とかしてたみたいやし……お詫びにこれから、エリアスの事を兄ちゃって呼んだるわ。」
「ハハハ、そっか。俺、兄ちゃんか。」
エリアスが微笑んでウルを見ると、ウルは照れた様にそっぽを向いた。
良かった。
これから三人で仲良く旅ができそうだ。
「あ!あれなんやろ?!」
ウルが突然手を離して、露店で売っている物を指差して走り出した。
それしか見えていない感じで勢いよく走って行ったから、向こうから数人で歩いて来た男達とぶつかって、弾き返されるようにウルが尻餅をついてしまった。
「痛ってぇな!てめぇ!どこ見てんだよっ!!」
男は体格が良く、冒険者なのか傭兵なのか、ウルを威嚇するように睨み付け、それから胸ぐらを掴み寄せる。
その時、ウルの被っていたマントのフードが脱げた。
「お?!コイツ、エルフだぞ!おい、見てみろよ!」
「うわ!マジだ!エルフだ!すげぇ!これ、売れるんじゃねぇか?!」
「な、なんや!離せっ!」
「見せ物にしたら稼げるかもな!」
「すげ!初めて見た!本当に耳が尖ってるんだな!」
「痛いっ!耳引っ張るな!触るなっ!離せっ!」
「こんな珍しいモン、離せる訳ねぇだろ?ハハハハ……」
急に男は掴んでいたウルを離し、みるみるうちに恐怖に顔を歪めていく。
その場にいた数人の男達も、恐ろしいモノでも見たかの様に、恐怖に怯えた表情で悲鳴をあげて、慌ててその場を逃げるようにして走り去った。
エリアスが男達に魔眼を発動させたのだ。
ウルは何が起こったのか分からない様子で、でもすぐにフードを被りなおして、私の元まできて抱きついてきた。
「ウル……大丈夫?」
「姉ちゃ……」
私もウルを抱き締める。
今のやり取りを見ていた周りの人達が、ウルを見て、エルフだ、すごい、初めて見た、俺にも見せろ、等と口々に言い出して、少しずつ歩み寄ろうとする。
ウルがその様子を恐る恐る見る……
右を見ても左を見ても、ウルを見る人々の目は好奇に満ちていた。
「ね、姉ちゃ……」
「ウル、大丈夫だ。」
エリアスがウルを抱き上げて、ウルを見ていた人達を威嚇する様に睨む。
睨まれた人々は後ずさっていく。
それからエリアスは威圧を纏いながら、颯爽と歩いて行く。
私もエリアスの肘を掴んで、一緒にその場を去った。
ウルはエリアスに抱きついて顔を埋めて震えていた。
そのままエリアスは人気のない路地に入っていく。
「アシュレイ……コブラルまで……」
「うん。」
エリアスとウルと三人で、インタラス国の王都コブラルにある宿屋まで空間移動でやって来た。
エリアスがベッドに腰かけて、私もその横に座る。
それから、まだ震えてエリアスにしがみついてるウルを、私もそっと抱き締める。
「ウル、もう大丈夫だから……今ここには私達しかいないから……」
「え……?」
やっと顔を上げて周りを見て、ウルは不思議そうな顔をした。
「あれ?ここ……どこなん……?」
「うん、ここはインタラス国の王都にある宿屋だよ。空間移動でやって来たんだ。もう誰もいないから、安心して?」
「ウル、大丈夫か?怖かったな……」
「兄ちゃ……」
男達に、売る、とか見せ物にする、とか言われた事と、初めてあんな風に沢山の人達から好奇の目を向けられて、ウルはすごく怖かったんだ。
安心したのか、それからウルは大声で泣き出した。
私とエリアスはウルを挟むようにして、ウルが落ち着くまで、優しく優しく抱き締め続けたんだ……




