友好
ニコラウスはノエリアとも接触を試みていた。
これはなんとしてでも止めなければ……
「現在ノエリアには婚約者がおります。親同士が強引に行った見合いですが、相手はフラヴィオ・エーベルス伯爵。そのエーベルス伯爵の娘、フラヴィオの姉になりますが、私の次男と婚姻を結んでおります。」
「それは……もしや、ノエリアとフラヴィオの婚約はニコラウスの差し金だと……?!」
「その様です……どうやらエーベルス家の親を焚き付けたのは、ニコラウスの様なんです。両家が婚姻に至るのは、何も不思議な事では無かったのです。オルカーニャは爵位こそないが、実質は貴族にも劣らぬ権限を持つ地位にある家柄ですから。なので、この婚約には誰も疑う事なく進んでいた話だったのです。」
「なにか可笑しな事があると気づいたのか?」
「エーベルス伯爵の奥方、つまりフラヴィオの母親ですが、突然「何故オルカーニャと婚約する事になったのか?」と、言い出したのです。一番に乗り気だった母親が、この婚約に関して何も覚えていなかった訳です。」
「術が解けたか……元々耐性があったのかもな。」
「エーベルス家は元々奥方の家系で、それは爵位を気にする家柄でして、権限を持つとは言え、爵位のないオルカーニャ家と婚姻を結ぶのはあり得ない、と言い出したそうです。当の本人のフラヴィオは、この数日姿が見えず、この事は分かってはいないそうだが……」
「そうか……エーベルス家とオルカーニャ家が婚姻を結んだ場合、何かニコラウスにとって利益はあるのか?」
「現在フラヴィオは、この首都で働いておりましてね。次男と言うことで家督を継ぐこともなく、息子の嫁の弟と言うのもあったが、フラヴィオは勉学に長けていたので私の仕事を手伝って貰っているのです。」
「なにっ?!ではフラヴィオは……!」
「只今フラヴィオは休暇を取っています。それが功を奏したのか、現在此方にはその事による被害は何もありませんが……」
「そうか……良かった……恐らくフラヴィオを操って、ノエリアとここ、クレメンツ家も操ろうとしていたのかも知れないな……」
「この事を知ったのはつい昨日の事です。被害が出る前で良かったです……」
「ニコラウスは俺が動き出している事を既に知っている可能性が高い。それを踏まえて、俺に対応する策を打って出るかも知れない。のんびりしている場合ではないな……」
「リドディルク皇帝陛下……どうされますか……?」
「……ニコラウスと同盟を結んだ貴族に会いたい。取り次いで貰う事は可能か?」
「それは勿論……ですが、大丈夫でしょうか?呪いによりリドディルク皇帝陛下に被害が及ぶ等と言うことは……」
「領主となる貴族には呪術は施していないだろう。貴族を罪人にしてしまえば公になったときに困るのはこの国だ。領主は幻術で操られているのみだと推測できる。管理する者がいなくなればその後が大変だからな。それより生かして言うことを聞かせる方が何かと便利だ。俺ならそうする。ただ、従者の者には注意が必要だな……」
「護衛をつけます!屈強な者を選出して……」
「ムスティス殿、それはあまり意味がない。呪いは耐性があるかどうかの方が重要だ。案ずる必要はない。此方に何も対策がない訳ではないのでな。」
「しかし……」
「なるべく此方に被害を出したくない。ムスティス殿は取り次いで貰えるだけで良い。それと……」
「それと……?」
「俺と友好を築いて欲しい。」
「それは!勿論です!こちらからお願いしたい位です!よろしくお願い致します!」
「俺も、貴方とリカルド殿の様に国の事について楽しく語り合いたいものだ。落ち着いたらそうして貰えるか?」
「願っても無い事です!ありがとうございます!」
「礼など必要ない。友好を築くのだ。これからは友人として接して欲しい。」
「恐れ多い……ですが、是非その様に……!」
ムスティスと話を済ませて、部屋を出ようとして、防音の結界を解いた。
「リドディルク皇帝陛下、では早速向かいますか?」
そうムスティスが言ったところで、知らせがあった。
「ムスティス殿……何があってもそこから動かないで貰えるか……」
「え?……はい。」
ムスティスとゾランに結界を張り、俺には個別で結界を張った。
ゆっくりと扉を開けると、そこには執事がいていきなり俺に襲いかかって来た。
ナイフを手に持ち、無表情で向かってくるのを容易く手でいなし、左手で腕を掴んだ。
生気を奪う様にして、呪術に侵された部分の波動を感じる様に左手に集中する……
執事は老いる事なく、徐々に正気に戻っていき、それからガックリと膝を着いた。
術式だけを奪うのは、まだコントロールが難しいな……
幻術と呪術を学んだ事から術式が分かり、術に侵された者の体内にある呪いや幻を左手で奪う事が出来るようになった。
「ガロンっ!何をっ!!」
「ムスティス殿、執事は操られていたのだ。しかし、それを今解除した。もう大丈夫な筈だ。」
「何をされたのですか……?」
「体内にある呪い等の類いの術式を奪ったのだ。俺には特殊な能力があってな。奪ったモノは俺に生気となって体内に宿る。俺にはなんの害もないから安心して貰って大丈夫だ。」
「それはどういう……」
「ハハハ……そうだな、信じられないのも無理はない。とにかく執事は正気に戻った、と言うことだ。」
「はぁ……いや、しかしこれは由々しき事態です!」
「そうだな。やはりここまでニコラウスの手が及んでいたとはな……イングヴァル、ヴァルデマ、他に術に侵されている者を特定して貰えるか?」
「「畏まりました。」」
「え……あの、リドディルク皇帝陛下……?」
「あぁ、先の事件で亡くなった幻術師と呪術師がそこにいてな。さっき扉の前に術に侵された者がいると教えてくれたんだ。だから殺気がなくても対応できた。」
「すみません……よく分からないのですが……」
「そうだな。普通はそうだ。気にしないでくれ。それより……執事の様子が可笑しいと感じた事はなかったか?」
「そう感じた事は……ありませんでした……ただ……」
「ただ?」
「私に客人が来ると分かると、執拗にその者の事を聞いてきておりました……」
「俺を警戒していたのか……?」
「そうなんでしょうか……しかしいつ……?!」
「ここは来客は多い方か?」
「そうですね……商談や会談等、ここですることが多いので、人の出入りは多いです。」
「そうか。それは仕方の無かった事だな。今、術に侵されている者を探しだしているところだ。暫くは客の出入りは警戒した方が良いだろう。」
「そう……ですね……」
イングヴァルとヴァルデマによって、術に侵された者が分かり、それをムスティスに告げてここに呼んで貰う。
先程と同様に結界を張りながら、一人一人左手で触れて、生気を奪う様に体に入り込んだ術式を奪っていく。
五人の者達が術に侵されていた。
最後辺りは奪う事に慣れて、術式のみを取り出す事が出来た。
術式とは言え、奪ったモノは生気として変換されるので、俺の調子は頗る良くなった。
その様子を見ていたムスティスは、驚きと困惑と怒りが入り交じったような感情で、ただ何も気付かずいて、何も出来ない自分にも苛立っていたようだった。
「ムスティス殿……気持ちは分かる。けれど今は冷静になって対処しよう。未然に防げた事だけでも良しとしないか?」
「……そう……ですね……分かりました……」
「今日は他に来客がいないのであれば、俺がこの邸に結界を張る。不在時にどうにかされるのを防ぐ事は出来る。それ以降は自身で対処して貰わねばならないが……」
「……充分でございます……しかし……貴方は凄い力の持ち主だったのですね……その力を使えば、ご自分の思うように事を進める事くらい容易いでしょう……それをせずに友好的に事を進めて行くとは……貴方の寛大さに脱帽致します……」
「力でねじ伏せたモノ等、一瞬の夢の如く儚いものだ。そんな事では長く国を支える事など出来ないからな。」
「出来れば……」
「ん?」
「シアレパス国と友好を結べれば良いのですが……」
「それは願っても無いことだ……!」
「貴方がオルギアン帝国を繁栄させてられている理由が分かり、それに肖りたい思いです。この国を纏めるべく、私が尽力致します。その暁には……!」
「是非そうさせて頂こう!……しかし、それを実現する為には……」
「ニコラウスの排除ですね……」
「悪い膿は取り除かなくてはな。では案内して貰えるか?」
「はい……!」
そうして俺はニコラウスと同盟を結んだ貴族の元へと行く。
被害がこれ以上拡大しない為に。
シアレパス国をこれ以上、ニコラウスに侵させない為に。




