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慟哭の時  作者: レクフル
第7章

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頭の切れる男


宿屋の部屋のソファーで、気付くと俺は眠っていたようだ。

ゾランが側にいて、俺の様子を伺っていた。



「リドディルク様、大丈夫でしょうか……?」


「あぁ……すまない、眠ってしまったな……俺はどれ位こうしていた?」


「ほんの二時間程です。私が疲れさせてしまったので……申し訳ございません……」


「いや……それは気にするな。それで、どうだった?」


「はい、交渉に行かせていた者達ですが、やはり術に侵されておりました。幻術と呪術のW攻撃ですよ!何も分からずに接触したなら、こちらにも被害が及んでいたそうです。」


「どう言う術をかけられていたんだ?」


「リンデグレン邸の内部の事を少しでも外部に漏らすと、グレゴール殿同様、爆発するように……吹き飛ぶようにされておりました。それから、内部の事を聞こうとする者がいた場合は、その者を攻撃するように呪いをかけられておりました。」


「やることが酷いな……」


「今はイングヴァルとヴァルデマによって、術は解除されております。ですが、少し様子を見ようと思います。」


「そうか。」


「今日はもう遅いですし、これからの事は明日にしましょう。すぐに食事の用意をします。」


「いや……外食にする。」


「分かりました。すぐに行かれますか?」


「そうだな。ゾランは来なくてもいいぞ?」


「……なぜですか?」


「いや、俺にずっと付きっきりも疲れると思ってな。」


「大丈夫です。私の心配など無用です。」


「俺と一緒だと気を使うだろう?一人でゆっくりする時間も必要ではないか?」


「リドディルク様はお一人がよろしいのですか?」


「俺は……どちらでも構わないが。」


「ではご一緒致します。私がそうしたいんです!」


「物好きだな……では行くか。」



俺とゾランで街を歩く。

夜のラブニルは、昼間と同じ様に活気があった。

街の様子を確認するようにゆっくりと歩く。

人々の感情がひしめき合っている。

この街の人々は安定している。

感情が安定していると言うことは、生活が安定していると言う事と比例する。

昼間に行ったモルディアの街とは大違いだ。

 

暫くそうやって歩いて、『マドロス亭』と言う店に入った。

ここは船乗りがよく来る店の様だ。

血気盛んな男達が、航海中にあった事等を話していた。

それに耳を傾けながら、食事をする。



「リドディルク様はこう言った所にも平気で来られますよね……」


「ゾランは慣れないか?俺は案外好きだぞ?」


「私も嫌いではないです。宮廷の料理も良いですが、たまにこう言う所の雑多な味の物が食べたくなります。」


「そうだな。俺もそう言う時がある。あまり帝城では言えんがな。」



ゾランとそんな事を言いつつ、エールを(あお)り、隣にいた者達と意気投合して飲み合う事になり、この国の事やこの界隈の情報等を聞き出しながらも、楽しみながら酒を酌み交わした。

その会話の中で、最近クラーケンを倒した凄腕の男がいた、との話を聞く。

名前を聞いてもここら辺では聞かない名前だったから、何処の誰かが分からない、と噂になっているらしい。

しかし特徴を聞くと、どうやらそれはエリアスの事のようだ。

いとも簡単にクラーケンを倒したエリアスの事を、皆が英雄と言って称えていた。


ゾランは、流石はエリアスさんだ!と、興奮してその話をワクワクしながら聞いていた。

ゾランは俺より年上なのだが、こんな時は少年の様な瞳をする。

そんな所をミーシャは気に入ったのかも知れないな。


そうやって楽しく食事をして、少し酒に酔ったゾランと店を出て、海風を感じながら宿へとゆっくり歩いて行く。

久々にこんな風に街を楽しみながら外を歩いたな……

旅をしていた頃を思い出して、気持ちが和らいで行くのが感じられる。


宿屋の前まで戻って来たところで、不意に立ち止まる。

俺が宿屋に向かって手を(かざ)しているのを見て、ゾランは不思議そうな顔をする。



「リドディルク様?どうされました?」


「ゾラン……行くぞ。」


「え……?」



宿屋へは戻らずに、ゾランと一緒に空間移動でオルギアン帝国の自室まで戻ってきた。

いきなりの事で、ゾランは訳が分からずに驚いている。



「リドディルク様、なぜいきなり……?!」


「あの宿屋にいる者全て、亡くなっていた……」


「えっ……?!」


「イングヴァル……どう言う事だ……?」


「リドディルク皇帝陛下……申し訳ございません……」



俺の目の前には、霊体となったイングヴァルがいた。

イングヴァルは俺に、申し訳なさそうにずっと頭を下げている。



「謝る必要等ない。何があった?」


「術を解除できたと思っておりました……ですが、解除できていない呪いもあった様なんです。私が交渉に行った者達の所へ行き、ニコラウス様についている幻術師の事を聞き出そうとした時に……」


「どうなった?」


「いきなり薬の様な物を撒いたんです。それが気化して、すぐにその場にいた者達は、私を含めて倒れました……」


「毒を撒いたか……」


「苦しみながら倒れたので、その声を聞いてヴァルデマが来て扉を開けて……毒は外に漏れだし、やがて宿屋全体へとまわっていったのです……」


「そんな……酷い……!」


「さっき結界を張り、浄化させておいた。これで毒の効果は無くなった。が、あのままいれば、俺達が疑われる可能性があるからな……」


「これだけ用意周到に、色んな事を想定して何重にも呪いをかけていたなんて……!リドディルク様、申し訳ございませんっ!」


「ゾランも謝る必要等ない。様子を見ると言って、俺に会わさない様にした事は流石としか言えないしな。俺もここまでやるとは正直思っていなかった。俺の読みも甘かった。宿屋全体が侵されるとは、強力な毒だったんだろう。俺の耐性でも無理だったのかも知れんしな。……来たか。」


「リドディルク皇帝陛下……!申し訳ございませんっ!!」


「ヴァルデマ……そう謝らずとも良い。お前も命を落としたのだ。想定外の事だった。俺の方こそ、申し訳なかった……」


「私に謝る等……!恐れ多いですっ!」


「ヴァルデマが知らない術式だったと言う事だな……しかし、毒を撒き散らすとは……ニコラウスは被害が拡大するのを何とも思っていないのか……?!」


「敵を徹底的に排除する……そう言う意向が伺えますね……しかしこれは酷すぎます……!」


「そうだな、ゾラン。こちら側の情報が漏れている可能性はどうだ?」


「交渉に行かせていた者は、誰からの命令で動いているか分かっていません。ただ、オルギアン帝国だと言うことは分かられているかと……」


「オルギアン帝国だと分かれば、すぐに俺に行き着くだろうな。……ゾラン、明日マルティンに会いに行くぞ。」


「畏まりました。」



ニコラウスは頭の切れる男だ。

しかしそれは、俺の予想を上回っていたな……

もっと慎重に動かなければいけなかった。

これは俺の失態だ。


ただ今は……


宿屋で亡くなってしまった者達の冥福を祈る事にしよう……









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