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慟哭の時  作者: レクフル
第7章

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勘違い


ノエリアの後を、付かず離れず、ある程度距離を取って尾行しているフラヴィオ。

その側には護衛と思われる男もいた。

ノエリアは付き人と思われる人と一緒に、アクシタス国方面の乗船場へ行こうと歩いている。


私達は少しずつフラヴィオと距離を縮め、何をしようとしているのか様子を伺っていると、フラヴィオが小さく呟く声が、私の耳にまで届いてきた。



「仕方ないんだ……僕のモノなのに……アイツの所に行こうとするなんて……アイツは逃亡奴隷なのに……だから僕がアイツを成敗してやるんだ!それに……僕を裏切ったノエリアも許せない……!目にモノを見せてやる……!」



自分を鼓舞する様なそんな声が聞こえてきて、それは普通じゃない感情が入り交じった声で、ただ事では無いことがこれで分かった。



「エリアス……!フラヴィオは……エリアスとノエリアに危害を与えようとしているのかも知れない……!」


「え?!なんでだ?!」


「逃亡奴隷を成敗してやるって……それに、ノエリアが裏切ったって聞こえた…………」


「逃亡奴隷って……俺が原因か!」


「とにかく、止めないと!」


「そうだな……!」



二人で走って、フラヴィオの前に立ち塞った。

フラヴィオは突然私達が現れたから、凄く驚いた顔をした。

護衛の男がフラヴィオの前に出る。



「お前ら!やっぱりそうだったんだな!!」


「フラヴィオ、落ち着け!何をするつもりだったんだ?!」


「煩いっ!お前が現れてから!ノエリアは僕に見向きもしなくなったっ!僕はノエリアを愛しているのにっ!!」


「待て!俺とノエリアは何にもねぇんだ!ノエリアは恩義を感じて、傷を負った俺の世話をしてくれていただけなんだ!」


「黙れ!!僕は騙されないぞ!お前は僕からノエリアを奪おうとしてたんだろ?!じゃなきゃ、ついこの間行ったアクシタス国へ、また行こうとするなんて可笑しいじゃないか!当分は用が無いって言ってたのに!今お前が現れたってことは、ここで一緒に落ち合うつもりだったんだろ!!」


「ちげーよ!!俺はノエリアの事、好きでもなんでもねぇよ!!」


「お前の言うことなんか信じられるか!逃亡奴隷の癖にっ!!おい、お前!アイツは逃亡奴隷だ!殺してしまっても問題はない!やってしまえ!!」


「こんな公の場で、そんな事をしたら問題になるんじゃねぇのか?!止めておけ!」


「お前にそんな事を言う権利なんてない!」



護衛の男がエリアスに向かってくる……と同時に、その場に倒れた。

きっとエリアスが雷魔法で倒したんだ。

公の場で、貴族の護衛に手を出す訳にはいかない。

けれど今の感じだと、誰が何をしたのかは分からない筈……!



「な……なんだよ……っ!なんでいきなり倒れるんだよ!?お前っ!何かしたのか?!」


「何もしてねぇよ。なぁフラヴィオ、ちょっと落ち着いて話をしようぜ?!」


「僕が奴隷と話しなんかするものか!(けが)らわしい!」



フラヴィオが短剣を取り出して、滅茶苦茶な振り方でエリアスに向かってくる。



「おい、止めろ!ここには色んな奴がいる!こんな所を見られたら、フラヴィオの立場が悪くなんじゃねぇのかよ!!」


「煩い!煩い!煩い!!僕は逃亡奴隷に天罰を下すだけなんだっ!」



このやり取りを見て、少しずつ遠巻きに人が集まってきた。

フラヴィオは大振りで剣を振り回し、エリアスを切りつけようとする。

エリアスはそれを上手く躱わしながら、人が集まって来た事もあって、自分から手を出す訳にもいかない状態で困っていた。


フラヴィオが思い余った様に、エリアスの少し後ろにいた私に切りかかってきた。

それを見てエリアスが思わず、右手でフラヴィオの腕を掴んだ。


急に大人しくなったフラヴィオ……


エリアスは、しまった!って顔をしたけれど、兎に角ひとまず落ち着いた状態になったので、フラヴィオに自分について来るように言ってその場を離れた。

私は倒れている護衛の男に、闇魔法で一日分の記憶を消しておいた。


周りにいた人達は、今まで聞く耳も持たずに暴れまわっていた男が、急に大人しくなったのを不思議そうな顔をして見送っていた。


公園まで来て、ベンチにフラヴィオを座らせる。

エリアスが短剣を収める様に言うと、フラヴィオは素直に従った。



「……俺とノエリアをどうしようとしたんだ?」


「奴隷なのにノエリアに手を出した貴方を許せなかったので、貴方とノエリアが一緒にいるところを確認してから、護衛につかせていた殺し屋に殺させようとしました。」


「……ったく……なんなんだよ!お前もユリウスも!すぐに人を殺そうって思うんじゃねぇよ!」


「はい。もうそんな風には思いません。」


「俺とノエリアは何もねぇ。だから、変な勘違いすんな。」


「はい。分かりました。」


「ノエリアは……夢見がちな女だ。物語に出てくるような恋愛に憧れてるみてぇなんだ。だから、お前がそうやってノエリアが満足に思う様な恋愛をさせてやってくれ。今後、ノエリアがフラヴィオ以外を好きになったとしても、絶対に相手やノエリアを殺そうとか思わないようにな。」


「はい、分かりました。」


「それと、これからは奴隷だからと言って酷い扱いをしねぇでくれ。」


「はい。分かりました。」


「……俺の事は忘れて、いつものフラヴィオに戻って、ノエリアと……ちゃんとノエリアを幸せにしてやって欲しい。」


「はい。分かりました。」



少しして、フラヴィオは辺りを見渡して、それから私達の横を何事も無かったかの様に走り去って行った。

その後ろ姿を見送る様に、ただ黙ってフラヴィオの姿が見えなくなるまで、その場に二人で立ち竦んでいた。


それからエリアスはベンチにドカッて座って、大きなため息をついて、下を向いた。



「エリアス……大丈夫……?」


「……あぁ……」


「無理しなくて良いから……」



エリアスの横に座って、膝に置いてあった右手を両手で包み込んだ。

その手を見て、ゆっくり顔を上げて私を見て、エリアスは悲しそうに微笑んだ……

その表情に胸が苦しくなって、思わずエリアスを抱き締めたんだ……



「アシュレイ……大丈夫だ……心配すんな。左手で触らなくて良かったぜ。しかし、人に触らねぇっての、なかなか難しいな。アシュレイは今までこんなんでよくやってこれたよな。すげぇな。」


「エリアス……ごめ……」


「謝んなって!アシュレイが悪い訳じゃねぇだろ?俺の問題なんだ。考えたらさ、何でも俺の思い通りにできんだぜ?!俺、すげぇよな!気に入らねぇ奴、片っ端しから右手で触っていって、奴隷みてぇにこき使ってやろうか?!ハハハ……」


「エリアス……」


「ハ、ハ……そんな事が平気で出来るようになったら……それはもう俺じゃねぇよ……なんだよ…この力……いらねぇよ……こんなの……」



そう言うエリアスに何も言えなくて……


ただ傍にいる事しか出来なくて……


寄り添うように、ただ傍にいる事しか出来なくて……









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