奪い操る
その日はコブラルの、いつも借りていた宿屋で泊まって、翌日シアレパス国まで、空間移動で向かった。
温泉の街、ティティノにエリアスと一緒に移動して、まずは孤児院に行った。
エリアスに、子供達とシスターにあった、エリアスが兵達に連れていかれた時の記憶を私が消した事を伝えて謝ると、そうするのが一番良かった事だから、って言って私の頭を撫でた。
エリアスはそうやっていつも、私のする事を否定しないんだ……
シスターと子供達が庭で洗濯物を干していたので、庭先で挨拶をする事にした。
私を見て、髪と瞳の色が変わっていたから初めは誰か気づかなかった、と、シスターと子供達からビックリされた。
エリアスを紹介して、二人で旅をする事になったから、これからはあまり此処に来れない事を伝えると、シスターは凄く残念そうに、でも私を見て顔が穏やかになったと安心したように言ってくれた。
子供達が集まってきて、また来て!寂しい!って言ってくれて、それが凄く嬉しくて、つい胸に込み上げて来そうになったけれど、エリアスが優しく背中を撫でてくれたから落ち着いて皆と別れる事が出来たんだ。
エリアスになついていた子供達が、誰一人としてエリアスを覚えてなくて、きっとそれには悲しい思いをした筈なんだけど、そんな表情ひとつ見せずに微笑んで私を見て、小さな子供をあやす様に私の頭を撫でた。
次にユリウスに会いに行った。
あんな別れ方をしたから、正直凄く気まずかったんだけど、ずっとユリウスの依頼を受けていたし、何も言わずに姿を消す様な事はしたくなくて、重い足取りで家に向かったんだ。
扉をノックするとユリウスが出てきて、私を見て一瞬躊躇った様になったけど、気を取り直したのか、中へ入るように促した。
エリアスと二人で部屋に入る。
テーブルに座る様に言われて、エリアスの隣に腰をかける。
お茶を出してくれて、ユリウスもテーブルに腰掛けた。
「リュカ……その髪と瞳の色はどうしたんだ?」
「これが本当の自分の姿で、それを元に戻しただけなんだ。」
「そうか……エリアスが現れてから……リュカは変わったんだな。」
「そう言う訳じゃない……!」
「いや、責めている訳じゃないんだ。その……この前は悪かった。」
「あ……ううん……」
「アンタはあのエリアスだったんだな。本当にリュカの知り合いだったんだな……」
「あぁ。そうだ。やっと信じて貰えて良かったよ。」
「リュカが信じたんなら、俺も信じるしかないからな。で?今日は何の用で来たんだ?リュカはあれから俺の依頼を受けに来なくなったから、今日も依頼を受けに来た訳じゃないんだろ?」
「あ、あぁ……そうなんだけど……エリアスとまた旅をする事にしたから、もうこの国にもあまり来なくなると思って……」
「そうか……別れを言いに来たんだな……」
「今まで……ありがとう。この国に来て、どうしたら良いか分からなかった私に親切にして貰えたこと、凄く感謝してるんだ。それだけはちゃんと伝えたくて……」
「いや、俺の方こそ、リュカには色々助けて貰ったからな。ま、お互い様だ。礼なんていらないさ。」
「けど……」
「あ、じゃあ最後に一つだけ、依頼受けてくれないか?」
「え?依頼?」
「あぁ。二軒隣の家に、この剣を届けて欲しいんだ。さっき出来たばっかりでな?すぐに持って行ってやりたかったんだ。」
「そんな事くらい、何でもない!すぐに行って来る!」
「じゃあ、頼んだ。」
「エリアス、すぐ帰って来るから、待ってて!」
「……分かった。気を付けてな。」
「凄く近くなんだ!すぐに行って帰ってくる!」
剣を受け取って、二軒隣の家に走って向かう。
扉をノックして暫く待つと、中からお爺さんが出てきた。
ユリウスから剣を預かって来た、と言ったけど、そんな物は知らない、と言われた。
他の家族の物では?と聞いたけれど、お爺さんは一人で暮らしているとの事で、家を間違えたんじゃないか、と言われた。
そうかも知れない、と思って、両隣の家にも行って聞いてみたんだけど、やっぱりそんな物は頼んでいない、と言われてしまった。
よく分からなくて、ユリウスの家まで戻っている時に、ユリウスの家から大きな音が聞こえた。
なにかあったのかと、急いで部屋の中へ入る!
「エリアス!どうしたんだ?!」
「アシュレイ……っ!」
見ると、エリアスの頭から大量の血が流れ出てていた。
テーブルと椅子が倒れていて、さっきの大きな音はそれが倒れた音だったと分かった。
その横でユリウスは膝と両手を床につけて、何も言わずにそのままの状態でいた。
「何があったんだ?!エリアスっ!」
フラフラしているエリアスを抱き締めて、回復魔法で傷を治す。
すぐに血は止まった様だけど、額から流れた血が顔を覆っていたので、浄化させて血を無くした。
「助かった……ありがとな……」
「どうなってるんだ?!ユリウスはどうしたんだ?!」
「ユリウスに……いきなり後ろから頭を殴られてよ……抵抗しようとして、俺……両手でユリウスを触っちまったんだ……そしたら、あのまま動かなくなって……」
「なんでそんな事に……」
ユリウスの側まで行って、屈んで、そっとユリウスに聞いてみる。
「ユリウス……?どうしたんだ?」
しかし、ユリウスは動こうともせず、黙ってそのままの状態でいた。
「ユリウス、大丈夫か?立てるか?」
心配そうにエリアスが言うと、顔を上げて立ち上がり「大丈夫です。」と答えた。
それには私もそうだけど、エリアスも戸惑った。
「ハ、ハ……俺……ユリウスを操ってんだな……目が虚ろでどこ見てんのかも分かんねぇ……ユリウスの光も奪っちまったんだ……」
「エリアス……」
自分の両手を見て、悔しそうな、怒っているような顔をして、エリアスは何も言えずに、ただ立ち尽くしていた。
思わずエリアスを抱き締めて、慰める様に背中を撫でた。
エリアスも私を抱き締めて、暫く何も言わずにただそうしていた。
きっと心を落ち着かせていたんだろう……
「すまねぇ……アシュレイ……」
「謝る必要なんかない……初めてそうしてしまったんだ。戸惑うのは仕方のない事なんだ。」
「俺……情けねぇな……」
「エリアス、そんな事ない。大丈夫だから。私がユリウスの目を治す。エリアス、気にしなくて良いから。大丈夫だから……」
エリアスの頬を両手で包み込む様に触れて、そっと微笑んだ。
エリアスから離れて倒れたテーブルと椅子を元に戻して、ユリウスの元へ行く。
ユリウスは立ったまま、何も言わずに、一歩も動かずにそこにいた。
回復魔法をユリウスにかける。
でも、何も言わなくて動かないから、ちゃんと効いてるのか分からない……
「エリアス、ユリウスに見える様になったか、聞いてみてくれないか?」
「……あぁ。ユリウス、目は見えるか?」
「はい。見える様になりました。」
「さっきは見えなかったんだな?」
「はい。突然見えなくなりました。」
「……何で俺を襲って来たんだよ……」
「貴方がリュカを自分から取り上げたからです。ずっと好きだったのに、リュカは俺の元から去って行こうとしたからです。貴方さえいなければ、と思って、殺そうと思いました。」
「……ユリウス……」
「そっか……もう俺達の事は忘れてくんねぇかな……?」
「分かりました。忘れます。」
「元のユリウスに戻ってくれ……」
エリアスがそう言うと、少ししてユリウスが私達を見て、驚いた顔をした。
「え?!なんだ?!あ、客か?すまなかったな、ボーッとしてた様だ。何か注文でもしに来たか?」
「え……」
「いや、もう大丈夫だ。そこら辺に置いてる武器とか見せて貰ってただけだ。じゃあ帰るな。」
エリアスが私の手を掴んで、ユリウスの家を出た。
暫くそうやって足早に歩いて、木が生い茂っている場所まで来てやっと立ち止まって、私の手を離した。
木に手をついて、エリアスは暫く動けない様だった……
自分の力を目の当たりにして、それに戸惑ってしまうのは仕方のない事だ。
そうしたくてした訳じゃないから、それは余計にそうなんだろう……
「エリアス……」
「……すまねぇ……ちょっと自分でもビックリしてよ……」
「うん……仕方ないよ……」
「俺の言うこと……アイツ何でも聞いてくれんだな……」
「………………」
「ユリウスの光、奪ったらな……俺の目に力が宿ったんだ……」
「え?それはどう言うこと……?」
「……使える力が一つ増えたみてぇなんだ……もしかして俺の魔眼は……赤ん坊の頃に誰かを触って、光を奪って得た力だったのか……?」
「エリアス……」
「ハハ……俺、バケモンかよ……」
「エリアスっ!」
思わず後ろからエリアスに抱きついた。
エリアスは強くて誰と戦っても負けはしないだろうけど、きっと人が好きで、自分のせいで人が傷ついてしまう事が許せないんだと思う……
私が……腕輪を外すって言ったから……!
エリアスが人に触れられなくなって、自分の力に戸惑って……!
「ごめん……エリアス……」
「……アシュレイが謝る必要なんてねぇから……腕輪の事、気にしてんだろ?それは俺も合意したんだ。気にしなくていいから。……大丈夫だ。落ち着いてきた。心配させて悪かったな。」
「ううん……」
エリアスが振り向いて、私を見て微笑んだ。
それから頭をポンポンして、じゃあ、次は何処に行くんだ?って、今までの事を何も無かった事の様に振る舞う。
私と一緒にいると、エリアスに嫌な事ばかりが起こる……
……え……?
前もエリアスにとって嫌な事が起きたんだろうか……
なんだかふとそう言う考えが頭に過る。
私……エリアスと一緒に旅をしても良いのかな……?




