そして腕輪は
ノエリアにここを出ることを告げた翌日、出ていく準備をして、もう一度ノエリアに会いに行く。
勝手に出ていく訳にはいかないし、彼女には本当にお世話になったから、ちゃんとお礼を言って出ていきたい。
エリアスもそう思っているから、二人でノエリアの部屋の前まで、足を引きずる様に歩くエリアスを支える様に、腕を掴んで一緒にやって来たんだ。
ノックをして、返事があったので中へ入る。
ノエリアは机で業務をしていたようで、私達を見てソファーへ座るように促した。
けれど、エリアスは立ったままで、ノエリアに話をしだす。
「ノエリア、ありがとな。ここまで回復出来たのはノエリアのお陰だ。この恩は忘れねぇ。ノエリアに何かあって俺の助けが必要になったら、俺はノエリアを必ず助ける。覚えておいてくれ。」
「今が助けて欲しい時だとしたら?」
「え……それはどう言う……」
「エリアスさんがここを出て行く事に困ってて、それが助けて欲しい事だと言ったら?」
「それは……」
「ふふ……冗談よ。私の方こそ、エリアスさんとリュカさんと会えて、私の日常になかった事をいっぱい体験できて楽しかったわ!ありがとう!」
「そんな体験とか……あったかな……?」
「良いのよ!私の中ではもう完結しているから!本当に充実した日々だったわ。ありがとね!でも、エリアスさんを好きな気持ちはまだ完結してないから、その気になったら教えてね!いつでも女の子の良いとこ、教えてあげるから!」
「ハハ……なんか、敵わねぇなぁ。流石はノエリア・オルカーニャだ。」
「それは褒めているのかしら?」
「ったりめぇだ。アンタ、良い女だ。」
「今頃気づかないでよ。そう思っても出ていくくせに。」
「そうだな。けど、また遊びに来るぜ!もてなしてくれんだろ?」
「えぇ!勿論!楽しみに待ってるわ!」
一時はノエリアとどうなるのかと気になったけれど、彼女はとても潔い性格なのか、私達が出ていく事をアッサリ認めてくれた。
ノエリアが商人として大成しているのが納得できる。
エリアスも恩を感じていたけれど、私が助ける事が出来なかったエリアスを助けてくれたノエリアに、私も恩を感じているんだ。
エリアスと同じ様に、ノエリアに何かあれば、私で出来る事をするつもりだ。
ノエリアや医師達、使用人達に見送られて、ノエリアの邸を出る。
ノエリア達はずっと私達を見送っていた。
本当に有難い人達だった。
エリアスを支えて、ゆっくりゆっくり歩いていく。
「エリアス……大丈夫?無理して歩いてるんじゃないのか?」
「大丈夫だ。これくらい、どうって事ねぇよ。」
「すぐに回復させたいんだけど……」
「外じゃ誰に見られてるか分かんねぇからな。宿でもとって、その部屋で回復してくれたら助かるんだけどな。」
「そうだな……」
「インタラス国の王都の部屋、覚えてねぇよな……?」
「え……?」
「俺と旅をしてた時、いつでも帰って来れる様に、ずっと借りっぱなしにしてたんだ。今もそうしてんだ。アシュレイがいつでも帰って来れる様に……」
「王都の……部屋……?」
「あぁ。まぁ、無理に思い出そうとしなくても良いけどな。」
「王都……コブラルの……」
「アシュレイ……?」
目の前が歪みだして暗闇に包まれてから、また明るくなって景色が変わった。
気づくとそこは部屋の中だった。
「あれ……ここは……?」
「アシュレイ!思い出したのか?!」
「何だろう……頭にこの部屋が見えて……勝手に移動した感じで……ごめん……」
「いや、いい!ありがとな!アシュレイ!ありがとう!」
そう言いながらエリアスが私を抱き寄せた。
「お礼なんて良いのに……回復させて……いい?」
「あぁ。頼む。」
エリアスと抱き合ったまま、回復魔法を施した。
淡い緑の光に包まれて、エリアスの傷が癒えていく……
「痛いの、無くなった?」
「あぁ、無くなった。ありがとな。」
「良かった……」
「アシュレイ……」
エリアスが私を見つめて……
それからゆっくり唇を重ねてきた……
二人抱き合って、優しく何度も口付けを繰り返す……
エリアスが私を抱き抱えて、ベッドに連れて行って、ベッドに腰かける感じになって……
私の頭を支える様にしようとした時……
「……いつっ…!」
「エリアス?どうしたの?」
エリアスが自分の左手を見る。
まだ包帯が巻かれていた状態だったその手から、血が滲み出していた。
「え……なんで……」
エリアスが包帯を取って左手を確認すると、杭で打たれた傷痕から、血が出ていた。
私はすぐに回復魔法をかける。
エリアスは手を握ったり開いたりして、その感覚を確認していたけれど、また血が滲み出してきた。
あまりちゃんと動かすのも難しいみたいだ……
「え……?完治しない……?なんで……!」
「アシュレイ、記憶が無くなってから、誰かに回復魔法を使った事はあるか?」
「……孤児院にいる子が高熱を出した時に一度だけ……」
「その時は大丈夫だったか?」
「うん……すぐに熱はひいて、そのまま眠った感じで……」
「そっか……」
「なんでだろう?!エリアスの怪我が完治しないの、なんでかな?!」
「もしかしたら……その腕輪のせいかも知んねぇな。」
「え……?」
「能力抑制の腕輪に、魔力抑制の石も着けてっからな。色んなモンが抑えられてても仕方ねぇな。」
「でもそうしたら、エリアスの傷がそのままで治らないじゃないか!」
「まぁ、それは仕方ねぇよ。こうやってここまで治してくれただけでも、有難てぇ事だからな。それに、放っときゃそのうち治るだろうしな。」
「けど!」
「気にすんな。大丈夫だから。」
「腕輪……外したら、ちゃんと治せる……」
「そうかも知んねぇけど……」
「エリアスの腕輪があるなら、私のも外せるんだろ?じゃあ、それで外せばいい!」
「いや、もし腕輪が壊れでもしたらどうすんだよ?!また誰にも触れなくなんだぞ?!」
「けどエリアスがこのままだったら、冒険者としてやっていけないじゃないか!」
「俺の事より自分の事も考えろよ!」
「私はエリアスに触れたらそれで良いっ!」
「…………マジか……」
「……マ、マジ……だ……」
エリアスが私をギュッて抱き締める。
「俺もアシュレイに触れんならそれで良い……」
「うん……エリアス……」
エリアスはそう言ってから、自分の左手首にある腕輪を見せた。
私も左手首にある腕輪を袖をまくって出して、エリアスの腕輪と合わせる。
腕輪と腕輪が合わさって、それが光を放ち、私の手首とエリアスの手首から、腕輪が抜け落ちて……
落ちた二つの腕輪が共鳴し合うように重なって金属音が響いたかと思うと、二つの腕輪が一つになって、それからいきなりくだけ散った。
「え……?!」
「なんだ?!なんで壊れんだよ?!」
身体中に力が漲ってきて、抑えられていたものが溢れてくる感じがした。
私とエリアスは二人して、呆然としたまま暫く動けないでいたんだ……




