敵意
エリアスが拷問を受けて怪我をしてから、私はオルカーニャ邸でエリアスの傍にいて看護をしている。
エリアスに少しずつ回復魔法で治療していってるから、医師やノエリアが驚くほどに回復していった。
流石はSランク冒険者だ!と、ノエリアは絶讚していたが、いくらSランク冒険者とは言え、普通こんなに早くに回復なんかしない。
しかし、ノエリアはエリアスの事を崇拝するかの様な眼差しで見ているので、ある程度の事は何の疑問もなく「だってエリアスさんだもの!」で片付いてしまっていた。
そう思ってくれて本当に助かった。
ノエリアがエリアスに告白して、エリアスがあっさり断ってからも、ノエリアは毎日の様にエリアスに言い寄って来る。
エリアスはそれをいつもバッサリ叩き切るが如く断っていく。
それでもめげずにノエリアはエリアスに言い寄る。
そんな行動一つ一つが私には凄く可愛らしく見えて、つい不安になってしまう……
あれから……
私がエリアスの事を「ディルク」と呼んでしまってから、エリアスは私に少し遠慮している様な感じだ。
それだけ傷付けてしまったんだ……
申し訳なくて、どうしたら良いのか戸惑ってしまう……
エリアスの歩行練習中に、そんな事を思っていたら、エリアスが手を繋いできた。
まだきちんと手を握れないみたいだから、軽く手を合わせる感じで……
「……エリアス?」
「何不安がってんだよ?」
「え……?」
「アシュレイは不安な事があると、俺の肘を掴む癖があんだよ。」
「え?私、肘、掴んでた?」
「まぁな。どうした?」
「あ……ううん……なんでもない……」
「気になる事があれば、何でも言えば良いからな?」
「うん……」
足を引きずって、痛みに耐えながら少しずつ歩いているエリアスと手を繋いで、私もゆっくり歩いて行く。
ここは邸の外にある庭で、天気も良いし、もう部屋の中は飽きた!って言ってたエリアスの意向を聞いて、ゆっくりだけど歩いてここまでやって来たんだ。
庭にあるベンチまで何とか歩いて行って、そこで一休みする。
「あー!疲れた!けど、やっぱり外は良いな!気持ちが良い!」
「うん。そうだな。エリアスが歩ける様になって、良かった。」
「まだまだ全然早く歩けねぇけどな。付き合ってくれてありがとな。」
「ううん……私がエリアスの傍にいたいんだ……」
「アシュレイ……」
「あら!もうこんな所まで歩けるようになったの?!」
ちょうどノエリアが外出先から帰って来て、私達を見つけて微笑みながらやって来た。
「ノエリア、相変わらず元気だな。」
「もちろんよ!エリアスさんを見たら、私も頑張らなきゃって思うもの!ねぇ、ここで一緒にお茶しましょう?」
ノエリアの一声で、すぐにお茶会が始まった。
お菓子や軽食もあって、貴族の優雅なひととき的な感じとなっていた。
暫くノエリアの商談の話とか聞いて、凄いなぁ、とか思いながらお茶を飲んでいたところで、エリアスが不意に言い出した。
「ノエリア、長い間世話になったな。俺も歩ける程に回復してきたし、もうそろそろここから出て行こうと思ってる。」
「えっ?!まだ全然傷も癒えていないし、手もちゃんと動かせないし、歩くのもまだまだ時間がかかるじゃない!そんな状態ですぐに送り出す事なんてできないわ!」
「いや、そろそろオルギアン帝国に帰りたいんだ。報告もしねぇといけないし……」
「オルギアン帝国までどれくらいかかると思ってるのよ!普通でも長旅になるのに、今のエリアスさんじゃ、もっと日がかかっちゃうわ!まだ治療が必要よ!」
「大丈夫だ。オルギアン帝国まで行きゃ、聖女に回復して貰えっからな。それに俺、空間移動の魔道具を持ってんだ。やっとそれも握れる様になってきたから、それで帰ろうと思ってる。」
「え……そうなの……?あ、でも!それでも、そんな傷だらけの状態を見て、なぜそうなったのか追及されちゃうかも知れないわ!」
「これ位なら何とか誤魔化せるぜ?」
「でもっ!」
「世話になりっぱなしで何にも返せてねぇけど、この恩は忘れねぇ。ノエリア、ありがとな。」
「……………」
「ノエリア?」
「いやよ……」
「え?」
「いやよ!エリアスさんがいなくなるなんて、私はいやよ!」
「ノエリア、そう言う訳にはいかないだろ?俺はこの国の人間じゃねぇ。帰る場所があんだよ。」
「分かってるわ!だからこの国にいれるように、私頑張ってるのに!なんですぐに帰ろうとするのよ!」
「いや、だってほら、さっきも言ったけど、オルギアン帝国に報告とかしねぇといけねぇし……俺と連絡も取れなくて、もしかしたら探してるかも知んねぇし……そうなったら困るだろ?」
「そうだけど……っ!」
「泣くなよ……」
「泣かせてるのは誰よ!」
「けどよ……」
「もう!そこは普通なら私を抱き締めて慰めるのよ!」
「え、それはちょっと出来ねぇ……俺にはアシュレイがいるし……」
「エリアス……」
二人のやり取りを見てて、どうすれば良いのか分からずに二人を交互に見ていると、ノエリアがエリアスの元まで来て、いきなり抱きついた!
「いってぇっ!そんな強く抱きつくなよっ!」
「だって!我慢出来ないんだものっ!」
「何言って……!」
「え?」
突然ノエリアがエリアスにキスをした……!
「ダメだっ!」
気付いたら私がノエリアを突き飛ばしていた。
自分がした事なのに、そうしてしまった自分自身に凄く驚いてしまった……
ノエリアは私を見て、それから呆然としたエリアスを見て、思い余った様に泣きながら走って行った。
「ノエリアっ!」
「アシュレイ!いい!追いかけるな!」
「でも!」
「俺はアイツの気持ちに答えるつもりはねぇ。中途半端な優しさは、返ってノエリアを傷付けるだけだ。だからこのままでいい。」
「分かってるけど……ノエリア、大丈夫かな……?」
「それはどうしようもねぇ。ってか、俺がどうにかしちゃいけねぇ事だ。まぁ、俺がいなくなれば、そのうち収まるだろ。」
「そうだ!エリアス、さっき言ってたけど、オルギアン帝国に帰るって……!」
「あぁ、俺も動ける様になってきたし、いつまでもこのままって訳にはいかねぇだろ?」
「私も一緒に……?」
「そのつもりだけど、行くのは嫌か?」
「嫌とかじゃない……けど……」
「どうした?なんか不安とかあるのか?」
「なんだろう……自分の事を知りたいって気持ちと、知るのが怖いって気持ちがあって……なんか変な感じなんだ……」
「そっか……無理に連れて行きたくはねぇけど……俺、もうアシュレイと離れたくねぇし……それにアシュレイを見つけた事、知らせないといけねぇし……」
「知らせるって……ディルクって人に?」
「そうだ。俺自身が探してたのもあるけど、ディルクからも探す様に言われてたからな。」
「なんでディルクは私を探してくれなかったのかな……」
「アイツは忙しいからな。なかなか自由に動けねぇんだ。」
「……そう……なんだ……」
「あ、でも、本当なら俺自身が探したい位だって、ここに来る前会った時に言ってたぜ?けど、アイツはやる事が多くてさ……」
「その……ディルクと私は……どう言う関係だったのかな……その……恋人だったり…したのかな……?」
「それは……」
「誰だ?!」
鋭い視線を感じた。
誰かに敵意を持って見られてる!
辺りを見渡すと、男が木の間からこちらを伺うように見ていて、私達と目が合うとハッとして走り去っていくのが見えた。
「あれは……フラヴィオ?」
「フラヴィオって……ノエリアの婚約者の?」
「だな……俺とノエリアのやり取り、見てたかも知んねぇな……そりゃ、敵意を向けられても仕方ねぇか……」
「大丈夫かな……」
「まぁ俺達が出て行きゃ、また上手くやんだろ。やっぱ、俺はここにいねぇ方が良いんだ。」
「そう……かな……」
遠くなっていくフラヴィオの姿を見ながら、なんだか少し胸騒ぎを覚えたんだ……




