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慟哭の時  作者: レクフル
第7章

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アクシタス国へ


翌日、俺は条約を結ぶべく、馬車に乗りアクシタス国へ向かった。

国と国との交渉だから、各部署の者達を引き連れて移動する。

なぜこんなに人が必要なのか分からない、と愚痴っぽく呟くと、国同士が契約する事なのだから仕方がないとゾランに諭された。

言われなくても分かっているが、愚痴くらいは言わせて欲しいものだ。


しかし、本当にこの行程は面倒だ。

アクシタス国の王都までは10日程かかる。

この時間が勿体なくて仕方がない。

俺は空間移動が使える。

行きたい場所があれば頭の中で思い描くだけで、その場所まで行く事が出来るんだ。

まぁ、その場所を知っていなければ移動する事は出来ないが……

しかし、それが出来る者はほぼいない。

と言うか、自分を含めて使える者は三人しか知らない。

これは聖女と同じく、希少な力なんだろうな。

とは言え、俺の場合は精霊の力のお陰なんだが。

アシュリーも紫の石で空間移動が出来るようになったから、純粋に自分の力で空間移動が出来るのはエリアスだけか……

そう考えると、やはりエリアスの能力は凄いと言わざるを得ない。


アクシタス国までの道程、馬車の中でそんな事を考えながら、今出来る仕事をする。

書類を確認し、必要な事を書き残して行く。

揺れるからなかなか難しいけれど、分かる範囲で記入しておくことにする。

何もしないでいるよりは時間は有効に使えるし、退屈しない。


時々カルレスに持たせているピンクの石を握って連絡を取る。

このピンクの石は魔道具だが本当に便利だ。

対になっているから、持っている者をちゃんと思って握らないと石は光らないし、頭の中で会話が出来るから、他の者に聞かれる事もない。

元々は一つ分しか無かったが、ゾランに各地で出回っていないか探す様に言って、何とか二つ分入手出来た。

もう一つはエリアスとの連絡手段として持たせている。


アシュリーに渡しているピンクの石の首飾りはいつも身に付けているが、この2年間それが光る事はなかった。

俺は毎日寝る前には必ず石を握るが、何も頭に響かない。

アシュリーが俺を忘れているのなら、もしアシュリーが光った石を握っても、俺を思って握っていなければ意思疎通が出来る事はない。

分かってはいるんだが、それでも石を握る事をやめられない夜が続く……

あとどれくらいこんな日が続くのだろうか……


アクシタス国へ向かう途中にある、グルオルド国の王城で一泊させて貰う事になっている。

グルオルド国へは、アシュリーを救出しに行って以来だ。

また俺を出迎えるのに金を使っていなければいいのだが。


五日と半日程経って、漸くグルオルド国王都ウェルヴァラにある王城へとたどり着いた。


今回も多くの者達に出迎えられる。

皆他に仕事があるのに、大変だな……


それからすぐにシルヴィオに会いに行く。

王室へ通されると、シルヴィオはにこやかに俺の元まで来て握手を求めた。

以前会った時とは違って、その行動と思考が合っていて、俺も思わず握手しそうになった。

けれど、今俺は迂闊に人には触れられない。

しかし前回とは違い、心から握手を求めているシルヴィオを無下には出来なくて、右手で握手をした。


握手が終わると、シルヴィオは不思議そうな顔をする。



「どうした?シルヴィオ陛下?」


「あ、いえ、ずっとあった腰の痛みが急に無くなった感じがしまして……」


「そうか、まぁ、良かったじゃないか。」


「えぇ、そうですが……」



お陰で俺の体力が奪われたけどな。


俺は左手で人に触れると、触れた人の生気を奪い、右手で人に触れると、触れた人に生気を与える事ができる。

しかし、右手で触れるだけになってしまうと、俺の体力が持って行かれるのだ。

以前は触れると、その人の弱っている部分を体に取り入れて、それが痛みとなって自分に返ってきていたが、今はそう言う事はなくただ体力を奪われるだけに止まっている。


左手で生気を奪っていれば、俺の体に補充されている事になっているから、右手で触れても補充された分が流れて行くだけになるんだが、そう簡単に人から生気を奪う事等出来はしない。


父上から生気を奪った時……

あの時は俺も正気では無かったから、あそこまでの生気を奪ってしまっていたのだが、生気を奪うのも調整する事は可能だ。

少し奪う位であれば、老化してしまう何て事にはならない。

軽く生気を奪えば、奪った者は一日寝込む位で元に戻る。

奪った分俺の体調は良くなるし、体力も漲ってくる。


人以外からも奪う事はできる。

動物や魔物、物においても奪うが出来る。

物の場合はしっかり取り込む事をイメージしなければ取り込めないが、生き物でないので生気は多くないし、触れた物は劣化した感じになって、少し生気が体に取り込める位の事になる。


しかし、迂闊にそんな事は出来る筈もない。


以前の様に、他の者に触れても倒れる事は無くなったが、体力が奪われたからと言って、他の者から生気を奪う事等出来ない。

全てを知るゾランは、俺が疲れていると自分の生気を奪う様に言ってくれるが、簡単にそんな事をしたくもない。


人には触れられない……


それは思ったよりも簡単ではなく、常に周りにいる人達の事を考えながら、行動しなくてはならない。


それに、ただ触れるだけだと言う事が、どんなに心を落ち着かせていたのか、こうなってから初めて気付いたんだ。


時々、人に触れたくてどうしようもない時がある。

人の温かさに触れたくて、けれどそれを迂闊にする事が出来なくて……

それは今まで感じたことのない感情で、思ったよりもストレスとなって返ってくる。


これを生まれてからずっと経験してきたアシュリーは、どんなに寂しい思いをしてきたんだろうか……

俺はまだこうなって2年程だが、それでも今の自分の状態を辛く感じる事がある。

それでもアシュリーに腕輪を渡した事を、俺は後悔等していない。


しかし、それでアシュリーの状況は良くなったんだろうか?


それを確認出来ないのがもどかしい。

頼みの綱はエリアスだけだ。

そのエリアスと連絡が取れない。

ジルドに調査するように言ってから、まだ報告がない。

シアレパス国は遠いから、時間がかかるのも仕方がないのは分かっているけれど……


何事も無ければ良いんだが……


自由に動けない、と言う事が本当にもどかしく感じる。

こんな事なら、エリアスが嫌だと言っても無理に奴隷紋を消しておけば良かった。


アシュリーに続いて、エリアスまで俺の元を離れて行くのか……


気のおける者が側からいなくなるのが、こんなに心に動揺を与えるとはな……

そして、エリアスの存在がこれほど大きかった事に、俺自身が驚いている。


シアレパス国……


奴隷制度が色濃く残る国。


この国を、もっと注視しなければいけないな……









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