ノエリア・オルカーニャ
「はじめまして。私はノエリア・オルカーニャ。ここの主人です。貴方は?」
「私はリュカだ。貴女がノエリア・オルカーニャだったんだな……」
「あら、知ってくれているの?嬉しいわ。」
「この国で貴女を知らない人はいない。そんな貴女が何故エリアスを?」
「彼に助けて貰ったのよ。命の恩人なの。」
「そうなんだ……」
「貴方と彼の関係は?」
「……分からない……」
「え?何?それはどういう事なの?」
「私には記憶が無いんだ……でもエリアスが……私を探していたって……」
「彼も言ってたわ。人を探してるって。アシュレイって人で、紺色に銀が混ざった綺麗な髪色で、綺麗な顔立ちしてるんだって言って……その人を想ってか、初めて会った時はとても悲しそうな顔をしていたわ。でも……貴方とは違う人みたいね……」
「エリアス……」
「記憶が無いなら、なぜエリアスさんを自分と関係のある人だと分かるの?」
「一つだけ思い出した事があって……彼の右胸にある傷痕は、私を庇って出来た傷だった……」
「そうなのね。……彼は逃亡奴隷だったのよね……」
「違う!そうじゃない!」
「え?!何!いきなり大きな声出さないで!」
「あ……すまない……」
「逃亡奴隷じゃないって、どういう事なの?」
「それは……」
「言っておくけど、私は奴隷制度には反対しているのよ。今までも街に売られている奴隷の子供を買い取ってここで働いて貰っているわ。もちろん、奴隷としてじゃなくね。その事は広く知られているのよ。だから、エリアスさんが私の名前を出した途端に解放される事が決まったの。でも、まさかあれだけ痛め付けられているなんて思わなかったけど……拷問した兵達にはそれ相当の報いを受けさせるわ!」
「そうなんだな……」
「だから、安心して言って?彼が誰であろうと、私が敵になることはないわ。だって、命の恩人なんだもの!」
「分かった……」
私は抱えていたエリアスの上着のポケットから、ギルドガードを取り出して見せた。
ノエリアはそれを受け取ってマジマジと見て、驚いた顔をした。
「オルギアン帝国のSランク冒険者!?そうだったのね!どうりで強いはずだわ!しかも他国ならまだしも、オルギアン帝国のSランクってレベルが高くてよっぽどじゃないとなれないのよ!そんな彼が無抵抗であんな拷問を受けたなんて……!何故彼は捕まったの?!」
「それは……私と孤児院にいた所に兵達が逃亡奴隷を匿っていると聞いたと言ってやって来て……エリアスはその子供を守る為に、自分がそうだって言ってわざと捕まったんだ……」
「そうなのね……そのギルドガードを見られない様に、上着を脱いで行ったのね……もしこれがオルギアン帝国に分かったら……戦争になりかねないわ……」
「戦争?!」
「それだけの事をこの国はしてしまったって事なのよ!でも……自分の身元が分からない様にしたんなら、彼はそうならない様にしたかったのね……」
「エリアス……」
「国同士のイザコザを自分のせいで起こしたくない……それと、貴方達を守る為に無抵抗で逆らいもせずにあんなにされて……そんな男がいたなんてね……」
「ノエリア?」
「本当に惜しいわ!彼がアシュレイって人を想ってなかったら、私が欲しいくらいだわ!男なんて口ばっかりでプライドが高くって、女を見下しててバカばっかりだと思ってたけど!そんな男だけじゃなかったって彼は気づかせてくれたわ!感謝しなきゃ!」
「…………」
「あ、貴方をバカにした訳でもないのよ。ごめんなさいね。でも……どうにかして彼を手に入れられないかしら……?」
「え……手に入れる?」
「エリアスさんの事が気に入っちゃったのよ!……オルギアン帝国……強国よね……どうしようかしら……」
「え……あの、何言って……?」
扉がノックされて、医師がやって来た。
「只今、治療が終わりました。しかし……酷い傷ばかりです。特に掌や足に打ち込まれた杭の痕が……神経もズタズタにしています。このままでは手を動かす事も、歩く事も出来なくなります。至るところに何かを打ち込まれたような痕もあって、致命傷にはなっていませんが、かなり出血しております。このまま回復するかどうかは、彼の生命力にかけるしかありません……」
「そんな……」
「分かったわ。ありがとう。……あぁ……聖女がいれば……」
「……え?」
「あ、そうね、普通は知らない事よね……聖女と言ってね。回復させる魔法を使える人が極希にいるのよ。その力は女性にしか使えないから、聖女と呼ばれるんだけどね。今はこの国には聖女がいないの。前にいた聖女が高齢でね。老衰で亡くなっちゃったのよ。それから探しているんだけど、なかなかね……」
「その……聖女が見つかったらどうなるんだ?」
「勿論、国が確保するわ!ほぼ強制的にそうなってしまうのは心苦しいんだけど、そうでもしないと確保できないから仕方がないのよ。どこの国でもそうしているのよ?どのレベルの聖女をその国が抱えているかで、戦力にも大きく差が出るの。聖女はその国の守り神みたいなモノなのよ。」
「そうだったんだな……」
そうか……
だからエリアスは私に、人前では回復魔法を使うなって言ったんだ……
やっぱりエリアスの言葉はいつも……
私を守る為の言葉だった……!
「エリアスさんの様子を見に行きましょう?」
「あ、うんっ!」
ノエリアと一緒に、エリアスの元まで行く。
部屋へ入って、エリアスが寝かされているベッドまで行くと、全身包帯で巻かれている様な感じでエリアスが眠っていた。
「酷い……こんなにされるなんて……!」
「アイツ等っ!同じ目に合わせてやるわ!」
側に行って、ベッド脇にある椅子に腰掛ける。
エリアスの顔は青褪めていて、息も絶え絶えな状態だった……
「エリアス……エリアス……!」
涙が溢れてきた……
ノエリアも同じ様に泣いていた。
「エリアスっ!」
「……ア…シュ……」
「え……」
「……泣く……な……」
「エリアス?」
「だ……れか……アシュ……レイ…を……」
「大丈夫よ!エリアスさん!アシュレイさんはきっと大丈夫よっ!」
涙が出てどうしようもなかった……
あんな姿になっているのに……!
エリアスは私を気遣ってるなんて……!
思わず部屋から飛び出した。
部屋の外でうずくまって、声を出さないようにするけれど、それでも漏れ出てしまう泣き声をエリアスに聞かれない様に……
もうこれ以上エリアスを心配させない様に、私はただ一人その場で泣き崩れていたんだ……
それから三日間、エリアスは目を覚まさなかった。
けれど、時々うわ言の様に私の名前を口にする。
それを聞く度に涙が出て仕方がなかった。
エリアスと二人きりの時に、少しだけ回復魔法を使った。
そうしたら出血が止まったと言って、医師達が喜んでいた。
エリアスが私に回復魔法を使うなって言ったけど、このまま何もしなかったらエリアスはずっと目を覚まさないかも知れない……
それが怖くって、でもエリアスの忠告をなるべく守る様にして、少しずつ回復魔法を使ったんだ。
医師達は、驚異の回復力だと驚いていた。
バレてない様で良かった……
もし私が回復魔法を使えるのが分かったら、私はこの国の聖女になってしまうだろう。
それも強制的に。
そうなったら、やっと会えたエリアスと、また離れ離れになってしまう……
私もそれは嫌だし、きっとエリアスもそう思ってくれていると思う。
だからエリアスの言う通りにした。
エリアス……
早く目を覚まして……




