懐かしくて
「あの……リュカさん、あちらにいる方は……?」
「あぁ……彼の事は気にしなくても……えぇっ?!」
「なんだか……泣いていらっしゃる様なんですが……」
「泣いてねぇよっ!」
「泣いてたよー?」
「本当だー!大人なのにー!」
「なんかあったのー?」
「泣くなよー!男だろー!」
俺の周りにも、子供達が集まりだした。
俺を見て、心配そうだったり、なんだコイツ?みたいな顔をしてたり、ニコニコ笑ってたり、不思議そうな感じで見てたりとか、子供達は様々な表情をしている。
その中で一番小っちぇ男の子を抱き上げて、俺は肩車してやった。
「俺は泣いてねぇって!お前ら、元気だな!」
「わぁ!高いっ!」
「良いなぁ!僕にもして!」
「アタシにもっ!」
「ハハハ、分かった分かった!順番な!」
集まってきた子供達を一人一人順番に肩車して、グルグル回ったり、ジャンプしたりして子供達をキャアキャア言わしてやった。
ひとしきりそうやって遊んで、皆の肩車が終わってふと見ると、アシュレイとシスターが呆然として俺を見ていた。
「あ、悪いっ!つい遊んじまった!」
「あ、いえ、ありがとうございます!私ではそんな事出来なかったので、子供達は凄く楽しかったと思います!」
子供達はまだ俺の周りにいて、俺に抱きついてきたり、よじ登ろうとしていたりした。
力コブを作るようにすると、その腕に何人もぶら下がって来て、ついまたグルグル回しちまった。
「ここの子供達は元気だな!きっとシスターの教育が良いんだな!」
「いえ、そんな……ありがとうございます!」
「ねぇ!お兄ちゃんも一緒にご飯食べようよー!リュカ兄ちゃんの作るご飯、スッゴく美味しいんだよー!」
「あぁ!知ってるぜ!俺はエゾヒツジのクリームスープがお気に入りだな!」
「え……」
「それ、僕も食べたー!初めて食べたんだけど、あれスッゴく美味しいよねー!」
「なんでも上手に作るからな!今日も楽しみだな!」
「うんっ!」
「あ、では中へどうぞ。その……」
「俺はエリアスだ。」
「私は教会でシスターをしております、スザンナと申します。こうして孤児院で、子供達のお世話をさせて頂いております。ではエリアスさん、どうぞ。」
シスターに促されて、俺は中へ入ることにした。
俺の背中には子供がまだぶら下がってて、おんぶするようにして部屋へ入る。
アシュレイは扉の所で立っていて、ただそれをじっと見ていた。
アシュレイの横を通る時に、「アシュレイも今は触っても大丈夫だぜ。」と告げて、頭をポンポンした。
アシュレイは不意に頭を手で押さえて、少し顔を赤くして、俺をバッと見た。
その様子が可愛くて、つい笑っちまう。
もうその反応が、前と全く変わらねぇんだ。
いくら名前と髪色とかが違っても記憶が無くなってても、リュカはやっぱりアシュレイなんだ。
「じゃあ、皆、まず手を洗おう!誰が一番キレイに洗えるか、勝負だっ!」
「アタシが一番!」
「俺が一番だ!」
「待て待て、慌てんな!順番だろ?」
子供達が順番に手を洗って、洗い終わったら皆が俺に見せに来てくれる。
「よし、大丈夫だ!次!」とか言いながら、頭をワシャワシャして、皆が手をキレイに洗い終えてから戻ってくる。
「皆上手に洗えたな!皆が一番だ!」
「えー!ズルいー!」
「やった!僕が一番だ!」
そんなやり取りをしていると、またシスターとアシュレイが俺を見ていた。
「慣れてらっしゃる感じがしますね……」
「え?あぁ、俺も孤児院で育ったからかな。」
「そうなんですね。」
「子供が元気で笑えるってのは、ここでの生活が良いって事だ。良かったぜ。」
「ありがとうございます。」
「アシュレイ、飯作るんだろ?俺も手伝うぜ?」
「え?!……いや……大丈夫だ……」
「子供達も待ってるから、早い方が良いだろ?俺、材料切るからさ。アシュレイは下準備してくれ。」
「あ……あぁ……」
「ここは大きな鍋とかあるから、アシュレイが持ってるでっかいヤツ、出さなくても大丈夫だな!」
「…………っ!」
「あ、そうだ、今日は何作るんだ?」
「その……魚介類があるから……トムトで味付けして……」
「あぁ!あれな!あれは旨かった!たしかあん時は……野菜のアッサリしたスープもあったから……今日もそうすんのか?」
「え……あぁ、そうするつもりだ……」
「子供達は基本的に野菜あんまり好きじゃねぇから、少し牛鴨の肉を入れてやっても良いな。じゃあ、材料切っていくな。」
アシュレイが出した野菜とか肉を素早く切っていく。
アシュレイは小麦粉を練って薄く伸ばして、細く切っていって茹でていた。
前にもこうやって、二人で飯を作ってた事を思い出して、つい胸が熱くなっちまう……
俺達が料理しているのを、子供達が興味津々に見にくる。
可愛いな……
アシュレイが茹で上がった麺をザルにあげる時、子供が面白がって手を出してきた。
「危ねぇっ!」
思わず左手で麺が入った鍋を鷲掴みにしてそれを止めた。
「あちっ!」
熱湯が手にかかったけど、子供とアシュレイには何もなかった。
良かった!
「大丈夫か?!」
「あぁ……問題ねぇ……こら、ここは火を使ってて危ねぇから、向こう行って遊んでろ?もうすぐ出来るから。な?」
「はーい!」
腕をまくって、真っ赤になった手を氷魔法で冷やす。
「……っ!その腕輪……!」
「え?……あぁ。俺にも着いてんだ。これ、外そうと思っても外れねぇだろ?でも、俺の腕輪があれば外せんだぜ?まぁ、アシュレイの異能の力を思えば、外さない方が良いかもな。」
「…………手は大丈夫か?」
「あぁ、これ位はな。」
「私ならすぐに…」
「いい。あまり人前で回復魔法は使わねぇ方がいい。信用してるヤツの前でもだ。」
「………っ!」
「アシュレイは自分の事、どこまで覚えてんだ?」
「それは………」
「……まだ俺が信用できねぇか……ま、ゆっくりでも良いから、俺を分かっていってくれな?」
「…………」
料理が出来上がって、皆で楽しく飯を食った。
皆が美味しいって言ってて、皆が笑顔で、アシュレイも笑顔で……
もうそれを見てるだけでも、俺はすっげぇ満足だったんだ……




