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慟哭の時  作者: レクフル
第6章

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閑話  ミーシャの事情 7


執務室を出て、休憩室へと向かう。


今日は休みにして貰えたけれど、その事は皆がゾラン様には内緒にしてくれている。

皆の気持ちが嬉しくて、少しでも何か手伝えないかとここにやって来た。

リディ様の胸で泣いてしまって、少しスッキリしたものの、やっぱりゾラン様の事を考えると、思うように動く事が出来なくなってしまう。

何か手伝おうと思ってここに来たのに、気づくと私はまた、部屋の隅で膝を抱えてうずくまっていた。


暫くそうしていると、ゾラン様が帰ってきた。


アンジェリカ様と一緒に行かれた、スイーツの店からチョコレートを買って来たと、皆に渡していた。

それを見たら、また涙が出そうになってくる……


ゾラン様が一緒にチョコレートを食べようって言ってきた。

食べながら、何かあったのか聞かれたけれど、何も言えることはなくて、涙を堪えるしか出来なかった。



翌日、昨日臨時に休んだ分、頑張って働こうとして朝早くから起きて休憩室の掃除をして、それから食堂の掃除をした。

その後にリディ様のお部屋の掃除をして、ベランダにあるお花達に水をやる。


昨日はリディ様が慰めて下さったから、少しは元気になった感じだ。

リディ様は優しくて温かくて大きくて、私を包み込む様に見守っていて下さる……


これって、お父さんみたいな感じなのかな……


お父さんがどんなのか、分からないけれど。


リディ様は、何だかそんな感じがする……


でも、リディ様に言ったらきっと、「俺はそんな年じゃない!」って怒るんだろうな。

だから、勝手に心でそう思っておこう……


掃除が終わって、食堂に行って朝食終わりの後片付けを手伝った。


そうしているとダミアが来て、お客様にお茶をお持ちする様に言ってきた。



「ミーシャ、僕が持って行くよ。」


「良いよ、昨日からダミアに頼りっぱなしだし、休んだ分今日はちゃんとしたいの。」


「でも……」


「大丈夫!今日は失敗しないよ!ありがとね、ダミア!」



応接室へお茶とお茶請けを持って行く。

ノックをして、入るように促されてから入室する。



「昨日は本当に楽しかった様で、アンジェリカは帰って来てから、ひとしきりゾラン君の事を話しておりまして……もっと好きになった、と何度も私に言っております。どうか……ゾラン君とアンジェリカの縁談を進める方向でお願い出来ないものでしょうか……?」


「それは当人同士の問題だからな。俺が強制的にどうにかさせる訳にはいかないだろう?」


「そ、それは勿論ですっ!その、リドディルク様にはゾラン君に口添えをお願いして頂きたく……」


「ゾランは貴族ではないぞ?それでも問題ないのか?」


「はい。アンジェリカはそれでも良いと、そんな事は関係ないと言っております!」


「そうか。しかし、ジスカール子爵は上昇志向が強いと思っていたが、そんな事はないのだな。」


「え……何でしょうか……それは…?」


「ゾランに俺は、その仕事ぶりから爵位を与えようと思っていたのだがな。そんなモノは必要ないと突っぱねられた。ゾランは欲のない男だ。仕事は確実にこなすが、出世欲はない。そんなのが婿で良いのか?」


「え、えぇ……大丈夫です……」


「なるほどな。分かった。ではゾランに聞いておく。」


「あ、はい……よろしくお願い致します……」



お茶をお出しするのに、一通りの話を聞いてしまった……


ジスカール子爵はアンジェリカ様とゾラン様の縁談を纏める為に来られたんだ……


ゾラン様を気に入らない人なんている筈がない。


あんなに優しくて素敵で、仕事も出来てリディ様の信頼も厚くて……


きっと、ゾラン様の事を知ったら、誰だって好きになってしまう。


ゾラン様は……アンジェリカ様とご結婚されるんだろうか……

そうなったら、アンジェリカ様は子爵だから、ゾラン様はお婿に行かれるのだろうか…?

だとしたら、もう帝城を出て行かれるかも知れない……

ゾラン様が何方かとご結婚されるのは仕方ないとして……

でも、会えなくなるのは嫌だ……



「ミーシャ?」


「ダミア……」


「やっぱりそうなっちゃったんだな……」


「どうなったって言うのよ……」


「そんな落ち込んだ顔して……だから僕が代わりに行くって言ったのに……」


「だって……ダミア……」


「今日は頑張ろうって思ったんだろ?良いよ、無理しなくて。泣きたいなら泣けば良いよ。僕の胸を貸すからさ。」


「泣かないもんっ!泣かないっ!けどっ……!」


「あー、もうっ!」



ダミアが私を抱き寄せた。

その胸に顔をうずめて、独り言の様に「大丈夫だもん……泣かないもんっ」って言いながら、ダミアの胸元を濡らしたら、頭を撫でて慰めてくれていたダミアに、「あ!鼻水拭くなよっ!」とか言われて、「鼻水じゃないし!」とか言い合って、なんとか気持ちが落ち着きかけたところで……


そんな所をゾラン様が見ていた。


思わずすぐに離れたけれど、驚いた顔をして私達を見ていたから、ゾラン様はきっと誤解された筈だ!


違う、ダミアは本当に友達で、良き仕事仲間で、なんかお兄ちゃんみたいな感じがする人で、だからダミアとの仲を勘違いしないで欲しい!


すぐに言われた通りにお茶を用意して、ゾラン様の元へ行って、さっきの事をきちんと話そうとしたけれど、ゾラン様は誤解したままで、ダミアは結婚相手には良いと言ってきた。


そうじゃないのに……!


私は誰とも結婚なんて出来ないのに……!


こんな子供を産むことが出来ない身体で……


色んな男達に良いように扱われて……


こんな汚れた私が……


結婚なんて出来る訳がないのに……!



「しませんっ!私は誰とも結婚なんてしませんっ!そんな事できませんっ!ゾラン様なんてっ!嫌いですっ!!」



思わず言ってしまった……



嫌いだなんて思ったことは一度もないのに……



言ってしまった言葉と、本当の気持ちがチグハグすぎて、自分でもどうすれば良いか分からずに、ゾラン様の元から走り去って行った。




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