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慟哭の時  作者: レクフル
第6章

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閑話  ミーシャの事情 2

ゾラン目線で書いてます。






初めて見たとき、そのあまりに酷い姿に、僕は何も言えずに動けなくなってしまったんだ。



それは情勢調査で各地を巡り、その街や村に合った税収がされているかの確認を、僕が先導しておこなっていた時だった。


これは国からの調査じゃなく、僕のご主人様であるリドディルク様が独自に調べていた事で、僕を含む10人で調査に赴く事になったんだ。


リドディルク様は、いきなりフラリと何処かに行って旅人の様にあちこちを巡っては、その街や村を見て、気になる事や不具合な所等を確認し、各地を治めている者の目が行き届いているか、不正は無いか等を調べたりされていた。


リドディルク様は役職に就かれている訳では無かったが、この国を良くする為に、小さな街や村にも目を向けられていたのだ。


そんな調査で訪れた、とある山間の小さな村にその子はいた。


村長にこの村の現状を聞き、家や畑を見て収益と税収額を確認していた時だった。


小さな女の子が男に胸元を掴まれて、地面に投げられていたんだ。


なぜそんな事をするのかと驚いて、その子の元まで行って抱き起こす。


その子はとても軽かった。

ボロボロの服を着て、見える所全てに生傷があり、ガリガリに痩せていた。

寒い時期だと言うのに靴も履かずに、殴られた様な痕が顔にもあり、片目が腫れあがっていた。


こんな小さな子が、こんな姿でいる事に驚いたのもそうだが、あまりにも酷い状態を見て、何も言えずについ見詰めてしまったんだ。



「ごめ……なさ……い……ごめ……なさ……ごめ……」



何度も僕に頭を下げて、辿々しく言うその子が痛々しくて、思わず抱き締めてしまった。

そうすると、その子は震え出した。


よっぽど酷い目にあってきたのだろう……


すぐに村長に確認する。


それから親の元へ案内して貰う。


親は明らかにこの子の面倒をきちんと見ていない。

食事もロクに与えずに、毎日の様に暴力を振るっている。

それは見てすぐに分かった事だが、親はそれを当然の様に認めない。

この子を雇うと言う名目で、提示してきた金額より多めに金を渡し、この子を引き取る事にした。


勝手に決めてしまった事だが、きっとリドディルク様は許してくれる筈だ。


何がなんだか分かっていない状態だったこの子に、名前を聞いてみる。

しかし、名前は無い、と言った。

この子は名前もつけて貰えなかったんだ……!


だから僕が名前をつけた。


強く勇気があり、高潔である大天使ミカエルの名前を貰い、ミーシャと名付けた。

しかしミーシャは、自分は髪が赤いから悪魔の子だと言う。

そう言われて、この子は謂われもない暴力を受けてきていたのだと、その時に理解した。


急遽予定を変更し、邸に連れて帰る。


ミーシャは常に不安そうにオドオドしていた。

無理もない。

今まで酷い事ばかりされてきたんだから……


使用人達に事情を説明し、まずは風呂に入れてあげる。

洗ってあげたメイドは、身体中にある傷と痣、骨と皮しかない痩せ細った体を見て、涙を流していた。


食事を与えると、お腹が空いている筈なのに、全く手をつけようともしない。

そして、伺う様に周りを見る。

食べていいよ、と伝えると、やっとゆっくり手を動かしてパンを口に運ぶ。

一口食べた瞬間、ミーシャは涙を流した。

その姿に堪らなくなって、頭を撫でようと手を伸ばした時、僕の手から逃れる様に椅子から転げ落ちて、頭を庇って僕に、泣いてごめんなさいと謝る。


その後も、誰かが側に寄ると、ミーシャは怯えて自分の体を庇う。

それにふと気づくと、部屋の隅に膝を抱えてうずくまっている。

側に寄ると、ごめんなさいと言って震える。

特に男が近くを通ると、極端に警戒する。

夜も眠れずに、1、2時間に一度は目を覚まし、周りを見て身の安全を確認する。

この子は今まで、一体どれだけの事をされて来たんだ……!

ミーシャのこんな状態を見る度に、悲痛な思いが胸を埋め尽くす……


数日後、リドディルク様が旅から帰って来られたので、すぐにミーシャの事を伝え、会って頂く事にする。


リドディルク様は人の感情が読めてしまうので、ミーシャがどうやって今まで育って来たのかが分かったのだろう。

しかし、思ったよりも酷い事をされていたのが分かった。

こんなに小さな体で、生きているのも不思議な位に痩せ細ってボロボロな体なのに、そんなミーシャを村の男達は性処理の道具として扱っていたんだ……!



だから男が側に寄ると、あんなに警戒していたのか……


リドディルク様は、そんなミーシャから恐怖の感情を取り除く。

しかし、全てを取り除く前に、口から血を流して倒れそうになってしまった。

すぐに医師を呼んで処置をして貰う。

ミーシャにも、なぜリドディルク様がそうなったのを説明し、今後同じ様な事になったら助ける様に言った。


ミーシャは不思議そうな顔をしながら、ゆっくりと頷いた。


恐怖の感情を取り除いて貰ってから、側に人が近づいても、ミーシャは体を庇う事は無くなった。

しかし男が近づくと、まだ体を硬直させて動けなくなる。

そんなミーシャだが、僕には警戒しない。

だから、ミーシャが不安そうな時は、僕は彼女を抱き締めたんだ。

きっと今まで、人の温もりを知らなかったんだろう。

抱き締めると、いつもミーシャは不思議そうな顔をして僕を見ていたんだ。


それから少しずつ少しずつ……


ミーシャはここでの生活にも慣れてきて、食事も毎日食べられる様になったからか、まだ痩せてはいたけれど体も肉付いてきたし、リドディルク様が会う度に恐怖を取り除いて下さったから、人を怖がる事が少なくなっていった。


言葉も辿々しかったのを、発音から教えていって、どんな事でも口に出して話す様に指導した。

読み書きと計算が出来るように、専門の先生を呼び勉強させた。


メイド見習いとして、出来る事から仕事をさせていくと、少し笑う様にもなってきた。

ミーシャの笑顔を初めて見た時は、僕は不覚にも泣いてしまったんだ。


上手く出来なくても、ミーシャは何をするにも一生懸命取り組んでいた。

少しずつ、笑顔が増えてきて、少しずつ言葉が増えてきて、誰にでも話が出来るまでになっていった。


しかしまだ、邸の外に連れ出そうとすると、恐怖に顔を強張らせる。

一度帝都に連れ出した事があったが、人とすれ違う度に震えて動けなくなっていた。

それからは、この邸から外へ出る事を極端に嫌がった。


それでも、少しずつミーシャは今までの事を克服していった。

ミーシャの本来の性格は、素直で明るく元気な女の子だったんだ。

本来の姿に戻れたのは、リドディルク様の力のお陰が大きく、取り巻く環境も、皆がミーシャを暖かく見守っていたから、そうなっていけたんだろう。


もう僕が抱き締めなくても、全く問題ないくらいにまでに成長していったんだ。

それには少し寂しい気持ちになったけれど、元気になれたミーシャを見てるのが、今の僕が一番安心出来る時なんだ。


ミーシャ


君はとても素敵な女の子になった。


それは僕の誇りでもあるんだよ。


だからこれからもずっと、僕がミーシャの笑顔を守り続ける事を約束する。










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