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慟哭の時  作者: レクフル
第1章

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追想


「シスターには知られてしまったが……」



そう独り言を言い、体に湯をかけていく。


ここの宿を選んだのは、浴場があったからだ。


浴場は思ったより広めで、10人位体を洗えそうな程ある。


そこに土魔法で風呂釜を作る。


次に水魔法で水を満たし、火魔法で湯にする。


他の宿屋より割高めだが、この宿にして良かったと、湯船に浸かりながら私は思った。

浴場はあっても、浴槽があるのは貴族等が泊まる宿位なもので、浴場も無いような宿が多い。


疲れた体に浸透するかのように、全身に温かさが染み渡ってくる。


母との旅の道中、たまに見つける温泉に、夜中にこっそり2人で入った時の事を思い出す。




ふと、母の事を考える。




私が聖女にならないように、母は私を連れ出して旅に出たのか?


しかし、回復魔法が使える様になったのは、私が10歳になった頃だった。


物心がついた頃から、私は男の子の様に育てられていた。


ある程度の年齢になるまで、自分は本当に男だと思っていたのだ。


男の子の格好をさせていたのは、私が誘拐されない様にだと思っていた。


私は小さな頃から、よく大人の男の人に連れて行かれそうになった。


もし、女の子の姿であれば、より誘拐は頻繁に起こっただろう。


ただ、私と手を繋いで歩き出そうとした瞬間、急に男が逃げて行くこともあった。


私も、男達が何をしようとしているのかがすぐに分かるので、事なきを得るのは容易い事だった。


自分の身は自分で守る。


そうしなければいけないと母から言われずとも、今迄の経験で身に染みて分かった事だった。


そう、誰も私を守ってくれる人はいないのだ。


改めてその答えに行き着く。





湯から上がり、全身を洗う。





なぜ女に生まれたのか。


男であれば、女であることを隠す必要もなくなり、もっと気楽に生きて来れたかも知れない。


しかし、私は女なのだ。


そして、それを隠さなければ、これまで生きて来れなかったかも知れないのだ。




「私は……生きている意味はあるのか……」



軽く笑いながらそう呟く。



虚しさが胸の中を駆け巡る。



さっきまで暖かい気持ちで過ごしていたのに、一人になるとすぐにこんな事を考えてしまう。



せっかく滅多にない思いをしたのだ。



今日はレクス達の事を考えるだけにしよう。



そう思い直して、風呂を出る。


土魔法で作った風呂釜は消しておく。

もちろん、湯も消した。

私が魔法で作った物の痕跡を無くす。


体を布で拭き、置いてあった服を魔法で洗浄する。


汚れ等の類いは全て服や装備から浮き出し、一塊になって消えた。

これは光魔法で浄化するような手順で出来るのだ。


キレイになった服に身を包み、装備をつけて、来た時と同じ状態の姿になる。


外に人の気配を感じるが、結界を解除し、鍵を開けて外に出る。




私が浴場から出ると、宿屋の主人がそこにいて、ビックリするような顔で私を見てきた。

   

合鍵で浴場に入り込もうとしていたみたいだ。

しかし、結界に遮られた様だ。


私がギロリと睨むと、宿屋の主人は慌てて逃げ出した。




いつまでこんな事が続くのか。


私の何がそうさせているのか。


また負のループに陥りそうになる。




いけない、今日は良い日なのだ。





レクス達と、クオーツの事も思い出して寝ることにしよう。




そう考え直して、受付で背中を向けてビクビクしている宿屋の主人に浴場の鍵を返して、2階の部屋に戻る。




明日は別の宿をとろう。








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