回復魔法の弊害
その時、俺はちょっと不機嫌だった。
もうそろそろ、俺の気持ちも伝わっているだろうと思っていたのに
「じゃあな、エリアス!遅く帰って来ても良いからっ!遅くなっても何も聞かないからっ!」
と来たもんだ……
俺があれだけあからさまな態度をとっているにも拘わらず、アシュレイには何も伝わっていなかった、と言う事なんだな……
って言うか……
なんでそんなに鈍感なんだよっ!!
普通分かるだろっ!
あれだけ態度に出して、なんだったら、添い遂げようって感じの事も言ったってのにっ!
それでも俺の気持ちが何にも伝わってなかったって事なのかっ!!
「ったく……どんだけ鈍感なんだよ……っ!」
つい言葉に出してしまった……
アシュレイも、少しは俺に心が動いてるのかも知れねぇって思っていたのに。
抱き寄せても文句言わねぇし、たまに抱きついてきてくれるし……
あんな事しちまったのに許してくれたし……
やべっ!!
思い出したら、顔が熱くなってきたっ!
あん時は俺もどうかしていた。
訳が分からなくなって、傍にいたアシュレイを抱き潰したくなって……
あれだけ今まで我慢して……
大切にしなきゃって思っていたアシュレイに、自暴自棄になっていたとは言え、あそこまでしちまうなんて……
でも……
アシュレイは……
すげぇ……綺麗だった
唇が……手が……
その感覚の全てを覚えている
あの時のアシュレイの全てが
愛しくて……忘れらんねぇ……
「エリアスさんっ!」
店の横の壁にもたれ掛かって、腕を組んでそんな事を考えていると、アンナがやって来た。
「え、あぁ、アンナ……」
「あ……私の事……アンナって呼んでくれるんですね……」
「あ、他になんか言った方が良かったか?」
「いえっ!それで良いですっ!」
「そっか。じゃあ行くか。」
「はい!」
そう言ってアンナは俺の腕に腕を絡ませて来た。
アンナを見ると、エヘヘって言って、恥ずかしそうに笑っていた。
可愛い……んだろうな……
こんな事をされて、嫌がる男はいねぇだろうけど……
なんか落ち着かねぇ……
そのままの状態で、アンナと街を歩いていく。
出店の食べ物を一緒に食べたり、くじ引きをしたり、売っている物を見たりして歩いていく。
それから、たまに会うアンナの友達とかに紹介されたりもする。
アンナはよく笑う子だった。
それに、人見知りだと言っていたが、よく色んな事を話す子だった。
俺はアンナの話を聞きながら、そうか、と相槌を打って、作った様に微笑んでいた。
段々人も多くなってきて、かなり混雑してきた。
アンナは俺に寄り添う様にくっついてきて、アンナの胸が俺の腕にあたる位になってきた。
そうなっても、俺は特に何にも感じなかった。
以前なら、ちょっとは嬉しく思ってた事かも知んねぇけど、恥ずかしそうに微笑むアンナを見ても、全く何の感情も湧かなかった。
「ったく……何が、「頑張って!」だよ……」
「え?何ですか?エリアスさん?」
「え?あ、いや、何でもねぇ。」
「エリアスさんって、冒険者なんですよね?ランクって、どうなんですか?」
「え?俺はAランクだけど……?」
「えぇっ!凄いっ!!そんな人がこの街にいるなんてっ!凄いですっ!!」
「いや……そんな凄いとかじゃ……」
「いえ、凄いです!そんな人と一緒にお祭りに来れてるなんて……夢みたいですっ!」
「ハハ……何言って……」
言ってるうちに遠くで、でっけぇ爆発音が鳴り響いた。
「きゃっ!!」
「なんだ?!」
続けて爆発音が鳴り響く。
そのうちの一つが、比較的に近くで鳴った。
「きゃあっっ!」
思わずアンナを庇うと、爆発して砕けた時計塔の欠片が飛んできて、俺の肩に当たった。
「っ痛!!」
「エリアスさん!大丈夫ですか?!」
「……あぁ、大丈夫だ。アンナは無事か?」
「あ、はい、エリアスさんが守ってくれたので……」
「そっか。良かった。」
「ありがとうございます……」
「それにしても……なんだ?何が起こったんだ?」
周りは悲鳴や嘆く様な声が響き出す。
爆発した所から人が逃げ出す様に移動してきて、辺りは騒然としていた。
「アンナ、今日は帰った方が良い。俺はちょっと様子を見てくる。」
「え……でも……エリアスさん、肩が……」
「これくらい、なんて事はねぇ。一人で帰れるか?」
「あ、それは大丈夫です……」
「じゃあ、気をつけて帰れな。」
そう言ってアンナの頭に軽く手をやって、それから爆発音がした場所まで走って行った。
逃げて来る人達に逆らって行くから、なかなか思うように進めねぇ。
しかし、なんでこんな事になったんだ?!
誰の仕業だ?
何の為にこんな事をする?!
やっとの事で、爆発した現場までたどり着いたら、そこには血の跡が所々あるのにも拘わらず、皆無事だった。
それに、壊れたであろう時計塔も、元に戻っていた。
周りにいた人達も、何が起こったのか分からないと言った感じで、不思議そうな顔をしていた。
「アシュレイ……っ!」
これは……アシュレイがやったに違いねぇっ!
こんな人が多い所で、兵達もあちこちにいる中で回復魔法なんか使っちまったらっ……!
前にアシュレイから聞いた事がある。
回復魔法の使い手は、どこの国でも求められる力だから、見つかった時点で強制的に連れて行かれると。
その事に巻き込まれて、レクスが自分を庇って亡くなったと。
だからこの力を外部には漏らせない、と言っていた。
マルティノア教国の教皇も、アシュレイが回復魔法を使った途端、自分のモノにするとか言い出した。
それくらい、希少な力なんだ……
なのに……
これだけの犠牲者が出たのを見て、アシュレイはきっと我慢出来なかったんだ……
「ったく!いつも自分の事より、人の事を考え過ぎなんだよっ!!」
俺は他に爆発した場所まで走って、アシュレイの事を探した。
爆発した場所を巡ると、どこも飛び散った血の跡があるが、怪我をした筈が治ったと言った感じで、不思議そうにしている人達がいるだけだった。
「どこにいんだよっ?!」
走りながらアシュレイを探す。
すると、兵達の後ろ姿が見えた。
近くまで行くと、その中心にアシュレイがいた。
「アシュレイっ!」
俺の声に気づいたアシュレイが俺を探す。
その時、アシュレイの右手を兵が掴んだ。
やめろ!
アシュレイの右手に触るなっ!
「エリアス……っ!」
アシュレイが俺を呼んで、右手を伸ばす。
しかし、その手が何人もの兵達の手で遮られる。
そんなに多くの奴等で触んなっ!
アシュレイが倒れちまうっ!
「アシュレイっ!!」
フラフラしたアシュレイが、膝から崩れ落ちる。
それを兵達が抱える。
触るな!
俺のアシュレイに触んじゃねぇよっ!!
雷魔法で兵達を倒して行く。
急に倒れた兵達に驚いて、周りにいた兵達も走ってやって来る。
手当たり次第に雷魔法で倒していく。
心配すんな、おめぇらは気絶させてるだけだから。
アシュレイの元まで行って、倒れたアシュレイを抱き抱える。
「アシュレイっ!アシュレイっ!!なんでこんな無茶すんだよっ!」
そうした瞬間、後ろから頭を何かで殴られたのか、激痛が走って、俺はその場でアシュレイを抱き締めたまま、倒れてしまった……
アシュレイを気にするあまり、後ろへの注意を怠ってしまった……
これじゃあ冒険者……
失格だな……




