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慟哭の時  作者: レクフル
第1章
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イルナミの街

二日後


ようやく街に着いた。

街と言っても、そこまで人口も多そうではなさそうだ。


石を積立てて作られた2メートル程の外壁。

門には誰もいなく、入るのに何も問題はなかった。

ここは比較的治安が良いのだろうか。


広大な砂漠を抜け、その後に半日程林を抜け、ようやくたどり着いた街だが、ここに来るまで砂漠でも林でも動物や魔物には遭遇しなかった。

外敵から守る程の事等、この街の周りには驚異となるものがないと言うことなんだろうか。


そんな事を考えつつ、街を歩く。

街並みは大きな建物はなく、2階建てや3階建ての木で建てられた家や店が殆どだった。


食料や水はもったが、節約していたので空腹だった為、まずは食事をとることにする。


見ると何軒か食事が出来そうな店があった。

兎に角空腹を満たせれば何でも良いので、目についた所に入る。


「風見鶏の店」と言う店に入った。

時間は朝と昼の間なので客は少なく、2人組と1人のみ。


「いらっしゃいませ。何にします?」


若い娘が注文を取りに来た。

娘は私の顔を見ると、一瞬戸惑った様になり、顔を赤らめて急に下を向いてしまった。


「ここのお勧めの物でいい。適当に何か持ってきて欲しい。それとエールを。」


「か、かしこまりました!」


そう言って厨房へと注文を促した。


やっと一息つけたところか。

疲れがどっと出てきた。


砂漠では吹き付ける風を遮る物はなく、フードをしっかり被り砂埃を遮り歩き、夜は座って仮眠をする程度にしかとれなかった。

林の中では眠っている間に襲われないように、木に登り、木を背に座りながら仮眠をとった。

ハッキリ言って、睡眠不足と栄養不足だ。


目の下まで覆った布を取り、フードを脱ぐ。

店の中は暖かく、冷えた手足が少しずつ感覚を取り戻す。


「見ない顔だね。この街は初めてかい?」


1つ席が離れた場所に座っていた2人組の男女のうちの、男が話しかけてきた。


「あぁ、初めてだ。」


「どこから来たの?」


今度は女の方が聞いてきた。

男と年齢はそう変わらない位か。


「色々と旅をしていてね。ここに来る前はアストラと言う街にいた。」


「アストラ?!結構遠いな!そこからだと砂漠を抜けるか山を越えるかだけど、山を越えるのは大変だっただろ?魔物も出るしな。」


「いや、山ではなく砂漠から来た。」


「えぇ!砂漠から?!そりゃあ、砂漠の方が距離的にはここまで早く来れるけど、あそこは周りに何も無さすぎて、野宿もしづらいし馬車も走れないだろ!遠回りになって時間はかかるけど、皆馬車で山を通ってやって来るよ?」


「そうだろうね。でも、急いでたんだ。」


「急いでこの街に来る用事でも?」


「…人を探してるんだ。この街にいるかどうかは分からない。でも、のんびりしていたくなくてね。」


「それでも砂漠から来るなんて……」


女はビックリした顔のまま、じっと私を見つめている。


「ちょっとサリナ!彼がカッコいいからってそんなにじっと見つめたらいけないよ!焼いちゃうだろ!」


「えっ!違うよ!アレク!た、確かにキレイな顔立ちだなって思うけど、だから見てたんじゃなくて、砂漠から来た事に驚いて……」


そう言って女は下を向いた。


「お待ちどう様です。エールにお勧めの料理です……」


チラチラと私を見ながら、店員の娘が頼んだ物を持ってきた。


まずはエールを口にする。

乾いた喉に染み渡る。

生き返った感覚が全身を突き抜ける。

それからこの店お勧めの料理、牛鴨の肉を香草で焼いた物を食べる。


美味しい。


これだけ空腹なら何でも美味しく感じるんだろうけど、それがなくてもこの料理は美味しいだろう。

パンも小麦の良い香りがして、肉とよく合う。

しばらくは手が止まらなかった。


「よく生きて来れたね……」


珍しいモノでも見るように、2人組は私を見つめていた。


全て平らげエールを飲み干し、一息ついた。


落ち着いた私を見て、男が聞いてきた。


「誰を探してるんだい?」


「母親だ。」


「プッ!」


不意に後ろの方の席に座っていた男が吹き出す。


「ハハハ!その年にもなって母親がいないとダメなのか!マザコンヤロー!」


チラリと後ろの男の方に目をやる。


体格がいい、冒険者なのか傭兵なのか、肩当てと胸当てを身につけ、横に大剣を立て掛けた男がひとしきり笑っていた。


私は気にもせず、また顔を戻し横にいる2人組に聞いた。


「髪が銀で腰あたりまである、30才後半の女を見なかったか?」


「んー……ここはあまり知らない人が来ない所だから見かけたらすぐに分かるんだけど、見なかったなぁー?」


「私も見覚えがないわ。」


「そうか……」


「そんなに母親が恋しいのか!

それよりも慰めてくれる女でも見つけりゃあ良いだろうが!

お前くらいの顔なら、女に困ることもないだろうよ!」


後ろの男はまだ笑いながらからかってくる。


私はそんな男を無視して、2人組に


「そうか、ありがとう。」


と言って席を立つ。


お金を払う時店員の娘にも、厨房にいる料理人にも聞いたが、分からず仕舞いだった。


「あ、あの、私、知り合いに聞いてみます!

だから、その、あ、また来て下さい!」


娘が顔を赤らめてそう言った。


「ありがとう。助かるよ。」


そう言って微笑み、店を後にする。



そうだ。


男が言う通り


私は母が恋しいのだ。



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