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慟哭の時  作者: レクフル
第6章

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エリアスの能力


俺の祖父であるダレルと話をして、腕輪の外し方を聞いたが、もう一つの腕輪が必要であることが分かった。


以前ラリサ王妃が話の中で、もう一つ持っていると聞いた事を思い出した俺は、ラリサ王妃に確認しようとしたが、俺はラリサ王妃の記憶を闇魔法で無くしている。


あのラリサ王妃の告白を知らない事になっているし、アシュリーのことを思い出してもいないと思っているだろう。


しかし俺が会って話をしないと、腕輪の事を確認することが出来ない。


それからまた聖女であるラリサ王妃の元へ、俺とゾランとジルドで向かう事にした。


帝城の聖女の部屋へ行き、兵に面会を取り次がせる。

ラリサ王妃は、また窓の外を見ていた。



「あら、リドディルク様、ご機嫌よう。」


「ラリサ王妃……聞きたい事があります。」


「……なぜ私を王妃と……?」


「失礼ですが、調べさせて頂きました。その事から、貴方が俺の母だと言う事にたどり着きました。」


「……!……そうなのですね……では……聞きたい事とは何なのです……?」


「俺の左手首にある、腕輪の事です。」


「それは……」


「ラリサ王妃のご両親が囚われている事を突き止め、面会しました。それで……」


「無事なのっ?!お父さんとお母さんは!!無事だったの?!」



ラリサ王妃は俺の胸元を両手で握り締め、詰め寄る様に問い質す。



「……落ち着いてください。ダレル殿は無事です。キアーラ殿は……病気で亡くなられていました。」


「……そんな……お母さん……が……」



そのまま俺の胸に顔を埋めて肩を震わせる……


声を殺しながら俺の胸で静かに泣いている、ラリサ王妃の心が落ち着くのを待ってから、ゆっくりと話を進めていった。



「……ダレル殿は、既に解放の手続きを済ませてあります。ここに連れて来ることも、俺が許可すれば問題ありません。」


「……ありがとう……リディ……」


「ダレル殿に聞きました。この腕輪は、能力制御の腕輪だと。」


「えぇ……貴方は産まれて直ぐに……左手で人から生気を奪う力が備わっていたので……その腕輪を……」


「外すには対になっている、もう一つの腕輪が必要だと聞きました。」


「え……?」


「お持ちではありませんか?」


「……持っていません……」


「えっ?本当ですか?……お持ちだとばかり思っていたのですが……」


「……持っていたのですが……連れて逃げた子と旅をしていた頃、出会った子に……譲ってしまいました……」


「何故?!そんな事を……?!」


「それには訳があるのです……」



涙を堪えつつ、ラリサ王妃はゆっくりと語り出した。





まだ乳飲み子のアシュリーを連れて旅をしていた頃。


とある村に立ち寄った。


そこは山の麓にある小さな村で、山に向かう人達の宿場や食料調達等の場所として使われる村だった。


そこで、自分より少し年齢が上の、銀髪の女性に出会った。


村の外で銀髪の人に会うのが初めてだった私は、宿屋の女将をしていた彼女に色々聞いてみるとこにした。


彼女はラビエラと名乗った。


ラビエラは気さくで、私の質問にも何でも明るく答えてくれた。

その話で、彼女の祖父母は、昔村を滅ぼされて逃げ出した、銀髪の部族だと言うことが分かった。


村を滅ぼされてから、生き残った数人の銀髪の人達で小さな村を作り、ひっそりと暮らしていたそうだが、生まれる前の事だから襲われた記憶も恐怖を感じる事もなかったラビエラは、外の世界に興味を持ち、時々村を抜け出していたそうだ。


その時に一人の男性と知り合い、駆け落ちするように、この村に来たと話していた。


その彼女には、1歳にも満たない子供がいた。

名前はエリアスと言った。

父親に似て髪も瞳も黒い、やんちゃそうな可愛い男の子だった。


その子を産むまで、ラビエラも何度も子が流れたそうだ。

その理由を知らなかった彼女に教えると、妙に納得した顔をして、自分の子にも不思議な能力がある、と話し出した。


エリアスの能力は、左手で人に触れると、触れた人から光を奪い、右手で人に触れると、触れた人を操る事が出来るそうだ。


その事が分かってから、子供を外に出す事も、誰にも触れさせる事も出来なくなって、ラビエラはとても悩んでいた。


自分の家族には触れても問題ないが、宿泊客が触れて失明した事があったと、泣きそうな顔で話をしていた。


動き回る迄に成長した我が子を、このまま外にも出さずに閉じ込めておくことに、彼女は心を痛めていたのだ。


気になって、私はエリアスの右手に触れてみた。

しかし、私には何も変化がなかった。

銀髪の血を持つ者には、異能の力は効かない様だった。


エリアスの右手に触れられたアシュリーも、楽しそうに笑っていた。

アシュリーにも、異能が効かなかったのだ。


楽しそうにしている我が子を見て、ラビエラは涙を浮かべた。


私は持っていたもう一つの能力制御の腕輪の事を、ラビエラに話そうか悩んでいた。

アシュリーにも使える様に、リドディルクに着けた腕輪と同じく、もう一つの腕輪にも青い石を埋め込んであったのだが、これを着けるのが、果たして良い事なのか悪い事なのか……なかなか自分では判断できなかったのだ。


それから2、3日その村で泊まり、旅に出ることにした。


泊まっている間エリアスは、アシュリーを気に入ってずっと離れなかった。

今まで、家族しか側にいなかったからか、同じ赤子だからか分からないが、嬉しそうにずっと一緒にいたのだ。


村を出る時、宿屋の前で、ラビエラはエリアスを抱いて、最後のお別れをしようとした。


それが分かったのか、エリアスが大声で泣き出す。


困ったラビエラがあやすが、それは一向に収まらず、更に酷く泣き叫ぶ。


困った顔をしたラビエラが、目で行くように訴えたので、仕方なく立ち去ろうと少し歩いた時に、後ろから爆発するような音がした。


ビックリして振り返ると、ラビエラが爆発したように燃えていたのだ。


ラビエラの手を離れたエリアスが、四つ這いで嬉しそうに、私達の元へやって来ようとしていた。


爆発の音に気づいた宿屋の主人や、近くにいて見ていた者達が、驚愕の表情を浮かべて叫ぶ。


火だるまになったラビエラは、既に息絶えていた。


すぐに原因は我が子だと分かった宿屋の主人は逆上し、エリアスをつかまえて、殺そうと首を締めた。


私はそれを何とか必死にとめて、エリアスを抱えて連れ去った。

爆発させたのを見た人もいたあの場所には、もうエリアスは帰ることは出来なかっただろう。


流れる涙を拭う事も出来ず、アシュリーとエリアスを抱き、村を出て必死に走った。

暫く走って、それから落ち着いて、ひとまず別の街に行こうと歩き出した。


エリアスはまだ歩けなかったので、私がアシュリーと二人抱えて歩くのだが、それにはやはり体力が持たなくて、フラフラになりながらも、なんとか街までたどり着いた。


そこは、マルティノア教国の、エルニカと言う街だった。


この国には初めて来たが、宗教国ならこの子に良くしてくれるだろうと、申し訳ない気持ちを圧し殺して、眠っているエリアスの左手に腕輪をつけて、名前はエリアスだと書き置きをし、孤児院と思われる建物の場所の前にそっと置いた。


私は後ろ髪を引かれる思いにかられつつ、それ以外にどうする事も思い付かずに、その場を後にする事しか出来なかったのだ……






思い出したのか、母親であるキアーラの死を悲しんでいるのか、ラリサ王妃の目からは涙が止めどなく溢れていた。


ラリサ王妃に、ダレルと会わせる事を約束し、それから部屋を後にした。



しかし……



エリアスと言う名前には聞き覚えがある。


アシュリーと共に旅をしている男が、確かそんな名前では無かったか?


と言う事は、彼は異能と呼ばれる力を持っていて、俺と同じ様に能力を制御されている、と言うことなんだろうか……


なぜ、またアシュリーと再会する事になったんだ……


異能の力が呼び寄せるとでも言うのか……?!


いや、まだ彼がそうだと決まった訳じゃない。

その可能性も踏まえて、調べないといけないな……


不思議な巡り合わせに納得出来る事はなく、それでもまた、俺はただアシュリーの事だけを考えていた。




あれから何度も石は光る……



しかし、光っている間に、俺は石を握り返す事が出来なかった。



我慢していても、無性に逢いたくなってしまう……



そんな時に、俺も石を握り締めた。



でもやっぱり、今はアシュリーと話すことが出来なくて、すぐに石から手を離す……



アシュリー



君を想う気持ちは、今も変わらないままなんだ……



それだけは信じて欲しいんだ……








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