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慟哭の時  作者: レクフル
第5章

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一時の安らぎ


アデルを見送って、エリアスと2人で暫く星を眺めながら話をして、それからエリアスがもう少しここにいる、と言ったので、一人先に孤児院まで戻って来た。


孤児院の部屋を借りる事が出来たので、今日はそこで泊まらせて貰うことにした。


外套や肩当て、胸当て等を外して、体を浄化して寝る準備をして……


ベッドに横になって、一人思いに耽る……


アデルの記憶に占領されない様に、心を強く持つ様に思いながらも、ふとした瞬間に頭にアデルが見た映像が流れて来る。


男が笑いながら……私を……襲う……


怖くなって、助けを求める様に首飾りの石を握り締め、ディルクの事を思う。



怖い……



助けて……



ディルク……



そう思っていたら、無意識に空間を歪ませていた様で、目の前が暗くなり、違う景色が見えだした。


ここは……前にも来たことがある……


ディルクの部屋……


自分でも、そうしようと思って来た訳でもなかったので驚いたけど、目の前にいたディルクは、もっと驚いた顔をしていた。



「ごめん…ディルク……いきなり……」


「……君は……何故いきなり……どうやって…?」


「ディルク?」


「君は……誰だ?」


「……え……?」


「どうやって此処まで来た?」


「ディルク……私が……分からない……?」


「なぜ俺をディルクと……?」


「私を……忘れて……しまった……?」



涙が一つ一つ……勝手に溢れて来た……


なんで?


前に触れた時は私の事は忘れなかった。


でも今は忘れてる……?


なんで……?


悲しくて……


すぐに帰ろうと後ろを向いて、空間を作り出そうとして



「待ってくれ!」



ディルクが私の手首を掴んだ。



「触らないでっ!」



すぐにディルクの手を振り払う。



「あ……すまない……」


「違っ……!」



涙が知らずに溢れて来る……



「君から恐怖の感情が読み取れる……何か酷く恐ろしく感じる事でもあったのか…?」



泣き声にならないように手で口を覆い、左右に首を振る。


ディルクが私の頬に触れようと手を伸ばす。


その手から逃れる様に後退る。



「ダメっ!私に触ったらっ!またディルクが倒れてしまう……っ!」


「君は……そんな事まで知っているのか……?」


ディルクがゆっくりと私に近づく……


「君の……暖かい感情が流れてくる……」


「私を……忘れないって……言った……」


「俺が……?」


「忘れても……必ずまた思い出すって……」


「…………君は………」



ディルクがそっと私に触れる……


それからゆっくり……包み込む様に私を抱き締める……



「アシュリー……?」


「……私が分かる……?」


「アシュリー……だ……俺の……アシュリー……」


「ディルク……」



ディルクが私の口を塞ぐ様に口づけをする。


それから私を見つめて……


また確認する様に唇を重ねる……


その時、扉がノックされた。


驚いて、すぐにディルクから離れる。



「大丈夫だ。結界を張った。誰もこの部屋には入れない。」



ディルクが私を抱え上げ、ベッドまで連れて行く。



「ディルク……」



優しくベッドに寝かされると、それからまたディルクが唇を重ねて来る……

前より凄く強引に荒々しく……!



「ん……っ!ま、待って……っ!ディルクっ!」


「アシュリー……?」


「あ、いつ、息をすれば良いのか分からなくって……っ!」


「ハハ……そうか、すまない、アシュリー。」



それからまたディルクが私を求める様に、熱く口づける……



「ディルクっ!待ってっ…!」


「どうした…?アシュリー?」



アデルの記憶が重なる……


私は怖くて震えていた……



「この……恐怖の感情はどうした?」


「私は触った人の過去を知ることが出来て……酷い扱いを受けていた人の過去を見てしまったから……」


「この恐怖は……凄まじいな……」


「ディルクが取り除こうとしたら、また倒れちゃうかも知れないっ!」


「俺なら大丈夫だ。この恐怖を抱えて生きていく方が辛い筈だ。それに……俺を怖いと思われては何も出来ないしな。」



ディルクが私の頬を触ると、少しずつアデルの恐怖の記憶が薄れて行った……



「うっ……っ!」


「ディルクっ!」


「……大丈夫だ……アシュリーの感じた恐怖に比べれば……大したことはない……」



私の上に倒れ込む様に、ディルクが覆い被さる……



「ディルク……ありがとう……」


「ハハ……これで忘れた負い目が……少し無くなったかな……」


「私の事……どうして思い出せたの……?」


「アシュリーの……優しくて暖かい感情が思い出させてくれた……」


「なんで忘れてたの……?」


「……分からない……すまない……」


「もしかしたら……私のせいかも知れない……」


「そうなのか?」


「でも……思い出してくれた……」


「このアシュリーの暖かい感情は……やっぱり忘れられないな……」


「……ディルク……大好き……」


「俺も大好きだ……アシュリー……」



ディルクが私を強く抱き締める。



「もう、何があろうと絶対に忘れない……アシュリー…離したくない……何処にも行かせたくない……俺だけのものにしたい……ずっとそばにいて欲しい……」


「ディルク……?」


「愛してる……アシュリー……」


「私も……ディルク……愛してる……」


「つ……っ!」


「ディルクっ!体が痛い?!大丈夫?!」


「あぁ……大丈夫だ……また……アシュリーがいるのに……何も出来ないとは……」


「何か…したかったの?」


「アシュリーを…俺のものにしたかった……」


「ディルク……」



優しい口づけが降ってくる……


ディルクの腕の中に収まるように横になる。



「……ディルクの心臓の音が聞こえる……すごく心地良い……」


「そんなことを聞くと……俺は抑えられなくなるぞ?」


「ダメだから……凄く体が痛い筈……凄い恐怖を取り除いたから……」


「ハハ……ダメだな……俺は……」


「もう無理はしないで……」


「あぁ……分かった……」



それからまた、ディルクが私を抱き寄せる……



「このまま……俺のそばにいてくれないか……?」


「ディルク……それは……」


「……やっぱり無理か……?」


「まだ……やらなきゃいけない事がある……」


「そうか……母親を探しているんだったな……」


「それもあるけど……」


「じゃあ、いつか俺と一緒になってくれるか?」


「え?」


「俺は……アシュリーしか考えられない……」


「でも……ディルクは貴族で……」


「関係ない……他には何もいらない……俺はアシュリーだけが欲しい……」


「ディルク……」


「俺と一緒になるのは嫌か?」


「ううん……嫌じゃない……けど……」


「そうだな……ずっとこの国にアシュリーをとどめてしまう訳にはいかないな……俺が自由になったら……」


「自由になれるの…?」


「必ずそうなる。そう出来るように、俺がしていく。だから……それまで待っていてくれないか……」


「うん……待ってる……」


「でも……」


「え?」


「やっぱり離したくないな……」



そうしてまた、苦しい位に私を抱き締める……



「離れていても、俺はいつもアシュリーを想っている。それを忘れないで欲しい。」


「私も……ディルクを想っている……だから……もう私を忘れないで……?」



それから何度も口づけをして……



寄り添う様に2人で眠る……



遠い昔に…同じ様にして眠った事があるような……



そんな気がした……









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