明かされていく真実
翌朝、朝食前にゾランがやって来た。
「遅くなって申し訳ありません。聖女の事ですが……」
「聖女……?」
「……聖女を調べる様に仰ったので、調べておりましたが……」
「聖女の事を?!俺がか?!」
「……リドディルク様?」
「いつ俺がそう言った?!」
「一昨日の事ですが……。」
「一昨日…?それを調べていて、ゾランは昨日いなかったのか?」
「はい、そうです。」
「何故俺は聖女の事を……?」
「リドディルク様が目覚められて、私に聖女の事を聞かれたのは覚えていらっしゃいますか?銀髪の女性に会わなかったかと聞かれました。」
「……銀髪の女性……?」
「……何かおかしい気がします。私も一昨日、リドディルク様に、リドディルク様がしているような対応をしていました。リドディルク様は何故分からないのか、と言う風でした。」
「……どう言う事だ……?」
「何か……忘れている事がある……のかも知れません……」
「……それは俺も感じている……どうも頭にモヤがかかっている様にスッキリしない……」
「昨日、何かありましたか?」
「俺は昨日、一人で帝城へ行って……そこでまた倒れた様で、倒れるといつも使う部屋で気がついた……それ以前の事は覚えていない。」
「お一人で帝城へ…?!もしかして……聖女の事をお調べになろうとされていたのでは?!」
「聖女……銀髪の女性……?」
「……ひとまず、私が調べた事をお伝え致します。今回連れて来られた聖女ですが、銀の髪をしている女性です。そして、その女性は昔、王妃としてこの帝国にいたことが分かっています。」
「なに?!それは本当か?!」
「はい、第9夫人のラリサ王妃です。」
「銀髪の女性が王妃だったのか?!」
「そうです。ベルンバルト皇帝は、このラリサ王妃をいたく気に入っておられた様です。最も愛された王妃だと言われておりました。しかし、皇帝の子を何度も授かったそうですが、産まれる前に亡くなってしまっていた様です。」
「銀髪との子供……」
「その当時は回復魔法が使える事は分かっていなかった様ですね。」
「なぜラリサ王妃はいなくなった?!」
「三度程、お子が流れてしまい……ベルンバルト皇帝も諦めていた頃、念願のお子様が産まれた様です。しかし、その赤子を連れて、ラリサ王妃はこの国から去ったそうです。」
「逃げたのか……?!」
「その様に聞きました。」
「その男の子が俺の弟……?」
「いえ……連れて逃げたのは女の子だったそうです。」
「女?!」
「はい。」
「どう言う事だ?!俺はリーザから、俺の弟が銀髪の女に連れ去られたと聞いている!」
「……この情報は確かなものです。しかし、母が嘘を言うとも思えません……」
今迄の事を踏まえて考えると、俺の母は第10夫人ベアトリーチェ王妃ではなく、第9夫人ラリサ王妃だと言う可能性が高い。
父上は言っていた……
銀髪の女性との子供は出来にくいが、一度成功している…と
一度……?
俺はいつ産まれた?
俺の母はラリサ王妃……?
連れて逃げたのは女の子……?
一度成功している……
俺は……
いや……
俺達は……
双子だったのか……?
では何故リーザは弟と……
リーザが亡くなって…俺は弟を探す旅をした……
銀髪の女性に連れ去られた…男を……
頭がボヤけたままだ。
何かを忘れている。
忘れてはいけない……
絶対に忘れてはいけない……
なのに思い出す事ができない……
銀髪の女性が一緒に逃げたのは女の子……
俺が探すのは男……
女だと連れ戻される……?
ダメだ……答えが出そうで出ない……
「リドディルク様、どうされましたか?」
「ゾラン……何かに阻まれている様な感じがする。俺の記憶に足らない事がありそうだ。」
「それは、一昨日私も自身に感じております。この事に関して関わっていそうな人は……」
「聖女か……」
「ですね。」
「調べられたくないのか……?」
「そんな感じがしますね。」
「記憶を操作する能力…?」
「あまり聞いた事はありませんが……忘却魔法と言うのが存在する、と言うのは聞いた事があります。」
「忘却魔法……」
「高度な忘却魔法の使い手となると、ある一定の記憶や、ある人物のみの記憶を無くす事が出来るそうです。」
「聖女は……自身の記憶を俺から消したのか……」
「そうかも知れません。」
「ゾラン、これまでの事を書面に残せ。そして、聖女には一人で会わない様にしろ。聖女に会った後は、記憶操作がされているかを確認する事を必須とする。」
「畏まりました。」
「聖女の……ラリサ王妃の子がどこにいるのか、情報を集めて欲しい。」
「では直ちに……」
ゾランはすぐにこの場から去った。
聖女……ラリサ王妃は何を隠したい?
なぜ俺から記憶を消した?
なぜ帝国に戻ってきた?
繋がりそうで繋がらない答え……
ラリサ王妃の子……
今 君はどこにいる……?




