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慟哭の時  作者: レクフル
第5章

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アデルの思い


アデルの元へ2人でやって来ると、シスターがアデルの涙を拭いていた。


「アシュレイさん、大丈夫ですか?突然倒れられて……」


「すみません、シスター。迷惑をかけました。」


「いえ、迷惑だなんてそんな……」


「3人にしてもらって良いですか?」


「えぇ。何か食べられそうな物を用意してきますね。」


そう言うとシスターは部屋から出ていった。


私はそっとアデルに近づいて、まず光魔法で浄化させて、身体中の汚れを取り除いた。


それから、回復魔法で、全身を淡い光で覆い尽くした。


暫くしてその光が消えて、アデルの頬に赤みがさした。


アデルは金の髪がよく似合う、とても美しい女性だった。



「え……なに……?」


この現状に驚いて、アデルが体を起こそうとして


「っ!ウソ……」


自分の手を目の前にかざして見て、それから体を起こし、自分の脚を確認する。


アデルは涙を流して


「私の腕が…脚が……ある………っ」


「アデル……」


「エリアス……!」


エリアスがアデルを優しく抱き締めた。


アデルはエリアスの胸で、泣き崩れていた。


私はそっと、部屋から出ていった……




キッチンで、シスターが食事の用意をしていた。


「シスター、手伝いましょうか?」


「あ、アシュレイさん、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。」


「そうですか……なにか足らない物等ありますか?」


「そうですね…食器類が足らなくて……人数がいきなり多くなったものですから……。」


「分かりました。」


外に出て、土魔法で皿やコップ等を幾つも作り出し、それを高温の火魔法で焼き、それから風魔法に少しずつ氷魔法を加えていき、ゆっくり冷やして、食器類を完成させた。


それを持ってシスターに渡す。


「えぇっ!どこでこれを?!こんなにすぐに?!」


「魔法で作り出しました。他には何か必要ですか?」


「凄いですね……他には……椅子と、テーブルが少し小さいです。」


「分かりました。」


シスターの前なので、詠唱して土魔法でテーブルと椅子を作り出した。


「凄い!こんなに簡単に魔法でテーブルと椅子を作り出せるなんて!」


「あと必要な物とかは……」


「今の所は大丈夫です!ありがとうございます!」



それからシスターと一緒に食事の用意をして、子供達を呼んだ。


マーニ達が、やって来た子供達を外で行水させて洗ってあげていた様で、呼ばれると体を拭きながら戻ってきた。


マーニが皆に、帰ってきたら手を洗うんだよ、と言ってから、それから皆で椅子に座ってお祈りをし、食事が始まった。

この少しの間で打ち解けたのか、皆嬉しそうに、喋りながら食事を進めていた。


ここに連れて来て良かった。


シスターの懐の大きさに感謝しなければ。


シスターが、アデルの分の食事をトレーに乗せていたので、それを持ってアデルの元へ行った。


ノックをして、返事を待ってから中へ入る。


アデルは落ち着いた様で、ベッドで体を起こしていた。


その側で、エリアスはアデルの手を握っていた。


「エリアス、アデルの食事を持ってきた。食べられそうかな?」


ベッドの脇にあるテーブルに、食事が乗ったトレーを置く。


「ありがとな、アシュレイ。アデル、食べれるか?」


「うん…ありがとう……エリアス……それから……アシュレイさん?私を治療して下さって、ありがとうございます……」


「いえ……」


アデルを見たら、またアデルの記憶が襲って来そうになって、自分の体が震えて来た。


「アシュレイ?」


「あ、何でもないっ!ちょっとシスターを手伝ってくるっ!」


それからすぐに部屋を出て、さっき寝かされていた部屋へ入り、一人その場でしゃがみこんだ。



この恐怖に耐えてきたのはアデルだ。


自分に起こった事ではない。


自分に何かされた訳ではない。


なのに、怖くて体が震えて止まらない!


こんな事を、ずっとアデルは耐えてきたのか?!


彼女の恐怖に飲まれそうになる。



「アシュレイ?」


エリアスが私を探してやって来た様だった。


その場に座り込んでいる私に驚いて


「大丈夫か?また怖くなったのか?」


「エリアス……だい、じょう……ぶ…」


「アシュレイ、ゆっくり息をしろ、過呼吸になっている!」


エリアスが私の口を手で覆う。


なるべく息をし過ぎない様に、少しずつ呼吸を整えると、かなり落ち着いてきた。


エリアスが私を抱き抱えて、ベッドまで連れて行った。


「ごめん、エリアス、もう大丈夫だから……」


「俺……アシュレイの右手の事、なめてたかも知んねぇ……」


「普段はここまでは…それに、手袋をしているから、これでも素手で触るよりはマシなんだ……」


「それでいつも手袋してたのか……」


「エリアス、私は大丈夫だから、アデルの側にいてあげて?彼女はずっと酷い目にあってきてて、それを一人で耐えてきたんだ……」


「けど……」


「私も少しここで休ませて貰う。だから……」


「分かった。でも、何かあったらすぐ呼べよ?」


「うん…分かった……」



エリアスが去って、私は一人で考えていた。


こんな事を平気な顔をして……いや、笑いながら出来るあの国の教徒達……


あの街自体も普通の感覚ではない。


その国によって奴隷制度があるのは、仕方がない事なのかもしれないけれど、逃亡したからと言って戒めにあんなことが出来るなんて……


しかもそれを笑いながら見世物にして、その姿を平気で見に来る客がいて……


考えれば考えるほど、異常なあの国には嫌悪感しか持てない。



暫くそんな事を考えていたら



「アデル!!」



エリアスの叫ぶような声が聞こえてきた。


何かあったのかと、急いでアデルの元へと向かう。


部屋へ入ると、エリアスが倒れたアデルを抱き抱えていた。


見ると、アデルの胸には短剣が刺さっていた。



「アデル!何故だ?!アデルっ!!」


「エリアスっ!これは?!どうなっている?!」


「アシュレイっ!アデルがっ!自分でっ……!」


「………っ!」


急いでアデルの元まで行って、回復魔法をかけた。


しかし、アデルは目を覚まさない。


「……っ!なんでっ……!?」


何度も何度も、回復魔法をアデルに施すが、アデルは目を覚ます事はなかった……


「アデルっ!なんでだよっ!やっとっ!やっと自由になれたのにっ……!!」


エリアスはずっとアデルを抱き締めながら、アデルの意識を取り戻そうとしていた。



回復魔法が効かない……



それは……アデルはもう息絶えている……と言うことだった……



レクスのことを思い出す……



何度も何度も、回復魔法をかけても、レクスが目覚めなかったあの時……



また自分の無力さを思い知らされる……



「何事ですか?!」


シスターと子供達が部屋へ入ろうとしたのをとめて、シスター達には暫くこの部屋に入らない様に言うと、ゆっくり頷いてキッチンへと戻ってくれた。



それから暫く………



エリアスはアデルを離す事が出来ずに、ずっと名前を呼び続けていた。



私はそれを、ただ側で見ている事しか出来なかった。



アデルは幸せそうな顔をして眠っている様だった。



部屋の中には、エリアスの悲痛な声だけが響いていた……













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