別れの予感
エリアスが私の手首を掴んだまま、ギルドの裏手にある公園までやって来た。
そこには木があって、レクスはその木の枝に座って待っていた。
「エリアス?!どう言う事なんだ?!」
「そのまんまだよ。俺はアンタと一緒に旅に出る事に決めた。」
「なんでそんな事……っ!」
「アンタを一人に出来るかよ。」
「私はレクスと一緒に……」
言ってる途中で、レクスを見た。
レクスは泣きそうに笑っていた。
その表情を見て、エリアスを見る。
「俺、ボウズに全部話したからな。」
「エリアス!何でそんな事っ!」
「じゃあこのままで良いのかよ!」
「……っ!」
「アンタだって分かってんだろ?このままじゃダメだって。ボウズも分かってんだよ。」
「レクスっ!」
レクスは枝から降りてきて、私の側までやって来た。
「アッシュ…。俺……、俺……。」
「レクス、レクスは森にいれば大丈夫なんだろ?もう森から離れないから。そうしたら、ずっと一緒にいれる!」
「アッシュ……」
「イルナミの街に帰っても良い!あそこは森も近いし、孤児院の皆もいる!うん、そうしよう、レクス!」
「アシュレイ……」
「ずっと一緒だって言った!レクス、ずっと一緒にって……っ!」
知らずに涙が出ていた。
「アッシュ…ごめん……」
「なんで謝るの?!レクス?」
「や、やっぱりさ、ここにいてるの、疲れるからさ、ずっとは無理だったな!」
「……っ!」
「今度のさ、満月の時が良いって言うんだ、エリアスがさ!」
「レクス……」
「俺、ちょっと用事あるからっ!」
レクスがフッと消えてどこかに行った。
涙が出てどうしようも無くて、ただそこに佇んでいた。
「アシュレイ……」
エリアスが私を抱き締める。
でもそれを両手で突っぱねた。
エリアスの元から、思わず走り出す。
「アシュレイっ!」
それから、レクスを探して王都を歩いた。
あっちへこっちへ、レクスの姿を求めてただ歩く。
分かってるんだ。
レクスは天に還してあげた方が良い。
この世にとどまっていたら、レクスは悪霊になってしまうかも知れない。
それはレクスの為にならない。
心優しいまま、天に還してあげなければ……
エリアスが言い出さなければ、このままズルズルしていた筈だ。
エリアスは、私とレクスの事を思って、一番言いにくい事を言ってくれたんだ。
分かってる……
分かってるんだ……
王都中を探し回り、気づくと空には星が出ていた。
宿屋に戻り、部屋に入る。
レクスはまだ帰って来ていなかった。
外套を脱ぎ、革手袋を外し、肩当てと胸当てと、頭のベルトと腰のベルトも外して、ベッドに横たわる。
レクスは帰って来てくれるのかな……
そんな不安が胸を襲う。
不意にピンクの石が光だした。
すぐに握ってディルクを想う。
『アシュリー?』
「ディルクっ!目が覚めた?!大丈夫?!もう痛くない?!」
『ハハ・・・もう大丈夫だよ。』
「本当に?」
『本当だ……アシュリー、レクスはどうした?』
「レクスが…いなくなってしまう……」
『どう言う事か、話してくれるか?』
それから今までの経緯をディルクに話した。
「ディルク……」
『うん?』
「会いたい……」
『俺もだ。』
私は紫の石の指輪を握り締めて、ディルクの事を想った。
視界が歪んでいって、それから暗闇に包まれて、新しい歪みが現れてから、それが形を成していく。
そこはディルクの部屋だった。




