王都へ
目覚めると、既に昼頃だった。
「おはようございます!リディ様!」
「おはよう、ミーシャ。なぜ俺を起こさなかった?」
「ゾラン様が、なるべくリディ様を休ます様にと言われたので。それと、昨日からまたお熱が出ていらっしゃいました。」
気づくと額に濡れたタオルが乗せられてあった。
「大袈裟だな。もう大丈夫だ。」
タオルを取ってミーシャに渡す。
「いつもリディ様はそう仰います!でも、いつも無理をされ過ぎです!」
「そう怒るな、ミーシャ。」
「怒ってる訳じゃないですっ!…心配なんです……」
「そうか。すまないな。ゾランを呼んで貰えるか。」
「分かりました。それから食事とお薬をお持ちしますね!」
ミーシャが出て行った後すぐに、ゾランがやって来た。
「おはようございます。リドディルク様。」
「王都に向かう準備は出来ているか?」
「はい。既に整っています。」
「どの設定で行くつもりだ?」
「グリオルド国の貴族と言う事で。私はその執事です。」
「名前は何と?」
「リドディルク様はディルク様で、ガルディアーノの姓を名乗って下さい。承諾は得ています。」
「ディルク・ガルディアーノ伯爵、と言った所か。」
「私の事は、そのままゾランとお呼び下さい。」
「分かった。」
「…お体は大丈夫ですか?」
「もう大丈夫だ。心配するな。」
「昨日も高熱を出されていました。心配するなと言われても無理です。」
「今日が終わったら、暫くはゆっくりする。それで良いだろう?」
「その言葉をどこまで信じていいのか…」
それからミーシャが持ってきた食事を摂って薬を飲み、入浴してから着替えを済ませた。
「では行こうか、ゾラン。」
「はい。」
空間を歪ませて、王都コブラルの中まで入った。
「そう言えば、アシュリーが怪我をした時、ゾランにアシュリーを託したが、あの場所から後宮までは結構日がかかる。どうやって帰ってきた?」
「そうですよ。置いてきぼりにされましたからね。魔道具を使いました。それで街から街へ即座に移動できたのです。」
「登録してある街同士を繋ぐ、空間移動の魔道具か。よく手に入れられたな。」
「手に入れるのは問題無かったのですが……」
「あぁ、結構高額だからな。それをあの距離分使ったとなると……」
「大損害です。」
「ハハハ、悪かったな!また買ってやるぞ!」
「笑い事では無かったんですからね!」
「ところで、今アシュリーが何処にいるか分かるか?」
「2日程前は王都にいた、と言う情報は得ています。しかし、まだいるのかどうかは不明です。」
「そうか…」
そんな話をしてゾランに案内されながら進むと、馬車が停められてある場所にたどり着いた。
その前に、背が低めで小太りの、一人の男が立っていた。
「はじめまして。私はストリア商会の代表をしております、マルティン・ストリアと申します。」
マルティンは深々とお辞儀をした。
「力を貸して貰えた事に感謝する。俺はリドディルク・アルカデルトだ。今日はよろしく頼む。」
「!ア、アルカデルト、様っ!こ、こちらの方こそ、今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます!」
恐縮した様に、更に深々と頭を下げた。
「しかし、今日はディルク・ガルディアーノ伯爵だ。間違えるなよ?」
「勿論でございます!」
そんなやり取りの挨拶を終え、3人で馬車に乗り込む。
「リドディルク様、少しの間でもお休み下さいね。」
「あぁ、分かった。」
揺られる馬車の中で、目を閉じる。
ゾランの心配している感情と、マルティンの緊張と野心の感情が流れてくる。
石を握りしめたが、今日もまだアシュリーの声は聞こえない……




