変身
朝の光で目が覚めた。
昨日、ディルクの夢を見た。
何故か私が小さくなっていて、泣きじゃくっているのを、ディルクが慰めてくれていた様な夢だった。
石を握ってみたが、ディルクの声は聞こえなかった。
夢では、もう大丈夫って言っていたのに。
支度を済ませて食堂へ行く。
日に日にやつれていく、おかみの姿が痛ましい。
その姿を見て、気合いを入れなければ!と、気持ちを奮い立たせる。
朝食が済んだらギルドに向かう。
この流れは、王都に来て日課の様になっていた。
ギルドに行くと、既にエリアスは来ていた。
彼はいつもここにある酒場で朝食を摂っている様だった。
「よう、アシュレイ!いよいよだな!」
「あぁ、エリアス。必ず成功させないとな。」
エリアスのテーブルへ行き、そこでまた確認するように打合せをする。
「今日は俺達は恋人同士になるからよ、そのつもりで行動してくれな。」
「あ、あぁ、そうだな…しかし、そのつもりで行動とは…どうすれば……?」
「と、とりあえずよぉ、俺と、その、ずっとくっついとく、とか?」
「えっ?!そんな必要はあるのか?!」
「恋人同士に見える様にするには必要なんじゃねぇ、かな?」
「お前、アッシュに変なことするつもりだろ!」
「うっせぇ!ボウズ!これは仕方のねぇ事なんだよ!」
「この作戦を成功させる為に必要なら…分かった。」
「アッシュ!騙されんなよ!」
「俺は騙してねぇよ!」
「エリアスさん、朝から元気ですね!」
そう声をかけて来たのは、買取りカウンターの受付をしている娘だった。
名前はコレットと言った。
今日の計画を知っている、数少ないギルド職員だ。
「アシュレイさん、今日は女の子として行動しないといけません。その様に立ち居振舞いをする練習をしますよ。私が指導します。」
「え、あ、はい…」
言われるがまま、彼女の後に着いていく。
エリアスとレクスはそれをなにも言わずに、ただ見送っていた。
「今から私の家に行きます。そこで練習をして、ドレスもそこで着替えましょう。」
ニッコリと彼女は微笑んだ。
彼女は実は没落貴族で、自宅は一般的な家ではなく、大きな屋敷だった。
そこでひたすら、立ち居振舞いを叩き込まれる。
そうして練習を重ねて行った。
昼過ぎになり、やっとコレットの指導が終わった。
女の子って大変なんだな…とつくづく思い知った時間だった……
闇オークションは夕方から開催される。
会場へは馬車に乗って向かう。
ギルドから出て行くと怪しまれるので、コレットの家で用意をし、向かう事になったのだ。
業者を装い潜入する者達は、私の事は知らせなかったそうだ。
女の姿で潜入するなら、知らない方が良いだろうと、エリアスの気遣いだった。
私は誰が味方なのかは、全員の顔を確認しているので分かっている。
時間が近づくにつれ、段々緊張してきた。
それからコレットが髪を結って、化粧を施してくれ、ドレスに着替えた。
「キレイ……」
コレットは息をのんで呟いた。
「お、可笑しくないか?」
生まれて初めてのこんな格好は、恥ずかしさ以外のナニモノでもなかった。
「可笑しくなんかないです!お化粧はあまりする必要がなかったから少しだけにしましたが、こんなにキレイになるなんて……!ドレスも、アシュレイさんの髪の色に合った青みがかった白が凄くお似合いです!」
「あまり見ないで欲しい……」
「あ、喋り方は変えて下さいねっ!」
怒られた。
「青い首飾り、素敵ですね!もうひとつのピンクの石のは外しましょう。そのドレスには合わないです。」
「これを外すのか?」
「言葉遣い。」
「は、外すの…?」
「えぇ、そうです。」
「わ、分かりました…」
仕方なくディルクから貰った首飾りを外す。
彼がつけてくれたのに……
「アシュレイさんのお荷物や着替えはちゃんと預かっておきますから、安心してください!」
「はい……」
「もうエリアスさんも用意が済んで、一階のリビングで待たれているそうですよ。」
「あ、待たせてしまってたのか、急がなくては……」
「言葉遣い。」
「いそ、がなきゃ。」
「はい。よろしい。」
コレットと2人で一階へ向かう。
かかとの高い靴で歩くのが凄く難しいっ!
ゆっくり転ばない様に、慎重に歩いていく。
早く慣れないと、戦闘の時上手く動けないな。
因みに、スカートの下、太股にナイフを忍ばせている。
魔法で対処出来るとは思うが、一応持っておいた方が良いだろうと言う事だった。
一階のリビングではレクスと、高級そうな衣装に着替えたエリアスが、また喧嘩みたいに言い争っていた。
あれはあれで仲が良いんだろうな。
「待たせて悪かっ…あ、お待たせしました。」
コレットの目を気にしつつ、辿々しく言うと、エリアスとレクスが立ち上がってこちらを見た。
そのまま何も言わずに固まっていた。
やはり何か可笑しかったんだろうか…




