目覚め
暗闇の中で、俺は一人佇んでいた。
周りには何もない。
何処に行っても何も見えない。
体が寒い。
段々と動けなくなってくる。
でもここにいてはいけない様な気がする。
もがくように歩き出す。
そうすると、一つの小さな光が見えた。
近づくと、そこには小さな女の子がいた。
その子はまた泣いていた。
「アシュリー?何故泣いている?」
「うぅっ!ディルクが!私を助けたせいで!」
「俺の為に泣いてくれてるのか?」
「ディルク!死なないでーっ!」
「俺は死なないよ…」
「私、ディルクに何もっ!してあげられない!うぅーっ!」
「大丈夫だ。大丈夫だよ。アシュリー。」
そう言って、彼女の涙を手で拭う。
「だから、もう泣かないで。」
微笑んで言う。
「私に触ったらダメだよ……」
「どうして?」
「またディルクが倒れちゃうもの…」
「もう大丈夫だよ。」
「本当に?本当にもう大丈夫?」
「あぁ。大丈夫だ。アシュリー。また君に会いに行くよ。」
そう言って、小さなアシュリーをそっと抱き締める。
「ディルク……大好き……」
アシュリーは耳元で囁く様に呟いた。
「俺も大好きだよ。アシュリー。」
そう言うと、アシュリーは笑顔になった。
それからフッと消えていなくなった。
どこに行ったのかと探していると、段々明るくなってきて、光に包まれる様な感覚がした。
「リドディルク様!」
ゆっくりと目を開けて、声のする方へ顔を向ける。
そこにはゾランがいた。
「ゾラン……」
そう言って気付いた。
そうだ!アシュリーはどうなったんだ?!
急いで起き上がろうとしたが、頭がクラクラとして、上手く起き上がれない。
「リドディルク様!まだ起きてはいけません!」
ゾランが俺をベッドに寝かす様に抑え込もうとする。
「アシュリーは?!アシュリーは大丈夫なのか?!」
「大丈夫です!諜報員によると、元気にされているとの事です!」
「そうか……良かった…」
そう聞いて安心して、ベッドに横たわった。
「リドディルク様の方が大変だったんですよ!皆が心配していたんですから!」
「そう怒鳴るな…もう大丈夫だ。」
「まだ大丈夫ではありません!当分は絶対安静ですからね!」
「大袈裟だな…」
「貴方は死にかけていたんですよ!これが大袈裟なもんですか!」
「分かった分かった。言うとおりにするから、少し静かにしてくれないか…」
「リディ様!」
バンッ!って言う大きな音と大きな声を出して、ミーシャがノックもせずに勢いよく入ってきた。
それには一緒にいたコルネールが怒った。
「なんとはしたない!慎みなさい!」
「す、すみません!コルネールさん!」
「コルネール、そう怒るな。」
俺がコルネールにそう言うと
「リディ様ぁー!」
俺の顔を見るなり、泣きながらミーシャがベッドまで走ってやって来た。
「良かったですー!目が覚めてーっ!」
「そう泣くな。もう大丈夫だから。」
「でも絶対安静ですよ!」
「分かっている。」
「リディ様!もう無茶はしないで下さいね!」
「あぁ、分かったよ。」
「本当に分かっていますか?!」
「ゾランはリーザみたいだな。」
「今になって母の気持ちがよく分かります!」
そう言って、怒った風で後ろを向いた。
「リディ様、ゾラン様は凄く心配されてたんですよ?付きっきりで看病されてたんですから。」
「ミーシャ!余計なことは言わなくていい!」
「あ!お医者様を呼んで来ますね!それと、何か食べられるのであればお持ちしますっ!」
「ありがとう、ミーシャ。」
そそくさとミーシャが部屋を出ていった。
その後も皆がやって来てた。
取り繕う様な感情ばかりではなくて、本当に心配していた様な感情も読み取れた。
有り難いな。
俺の周りにはこうやって、どうにかしようとしてくれる人達がいる。
それが仕事であっても、俺を生かそうとしてくれる。
でも、アシュリーの周りには誰もいないんだ。
たった一人の、それも霊体であるレクスしかいない。
いつかレクスも天に還さないといけない日がやって来る。
そうしたら、アシュリーは一人になってしまう。
俺はその時にアシュリーの側にいる事はできるのか。
こんな所で倒れている場合じゃないな……




