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ゼフィルス、結婚は嫌よ  作者: 多谷昇太
第一章 チェリッシュ
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ティファニーでお待ちを

あるエッセーで「わたしは結婚しない。男に家庭に社会に(女とはかくあるべしと決めつける社会に)縛られ、決めつけられたくはない。わたしは100%、自分自身を生き抜く。生き抜いてみせる。これだけのことをこうしてエッセーで云ったからには、それだけの‘覚悟’がある。わ、た、し、は、結婚しない!」というちょっと眉に唾つけて見なければ信じられないほどの、すさまじい覚悟を述べた方がおられました。ご自分の写真付きでしたが、その写真を拝見してなおびっくり。髪の毛を長く伸ばした(お世辞ではなく)超美人だったからです。年令は28くらいだったかと記憶していますが定かではありません。1990年前後のことでした。これに感心のあまり書こうと思い立ったのがこの拙著「ぜフィルス、結婚は嫌よ」でした。ゼフィルスとは彼の巨匠手治虫先生の作品「ゼフィルス」から名をお借りしたのです。御作品では(男への)復讐の女神ゼフィルスということでしたが。とにかく、この端倪すべかざる女性をエッセーで知って思い立った作品です。先に一度ラジオシナリオにしてNHKの公募に応募したのですが力たらずに入選しませんでした。今回20年近くを経てあらためて小説にしてみようと思い立った次第です。主人公の名前は惑香、エッセーの主のようにできるだけ美しいイメージを出そうとして考えた名前です。作中にも記しましたが「みずからの美しさにと惑う」ほどの美貌の主ということです。その美しさは単に外形のみならず…なのでしょうか?どうぞ作品内でご確認ください。手前味噌ですがラストは(たぶん)感動的だと思いますのでぜひどうぞ。

『あそこ、あそこの階段から上って来たのよ、あいつ』アイスコーヒーをストローでかきまぜながら惑香が心中でモノローグする。『10年後のきょう、わたしの前にあらわれて、その場で結婚を申し込むんだって…きざなこと云っちゃってさ…ふふふ、なによ、きょうがその10年目じゃない…あなたはいったいどこにいるのよ』と云って階段の上り口や店内を見まわすが目当ての人はいないようだ。『まったく!あなたが10年後のプロポーズを約束した場所がここだったから、またここに来てあげたのにさ。時間まで合わせて…』惑香が云うその場所とは青山、246沿いにあるサンドイッチやベーカリーの味の良さで有名な老舗の喫茶店である。その二階のフロアーに惑香はいる。時間はティータイムには絶好の午後3時。またジューンブライド、結婚話に最適な6月の下旬だった。赤い枠のはまった腰ほどの高さのプラスチック板で各座席が適度に仕切られた店内は、とてもシックでくつろげる雰囲気があり、いかにも高級ベーカリー喫茶の雰囲気をかもし出している。ナオユニバースのノースリーブブラウスの裾を、スタイルデリーにはめずらしい黄色のスカートの中に入れて、ウェストあたりに適度なたるみを持たせている。自然な茶色い髪を手巻きで下に団子状にまとめ、白いうなじをあらわにして、そこに後れ毛をひとすじたらしていた。耳もとにはピンクのふさの付いたパールのイヤリングだ。惑香のファッションは実に印象的で、洗練されて居、垢抜けていた。レースのパンプスのハイヒールをさりげなく合わせた姿はそのままファッションショーの一流モデルとして通用しそうだ。色白の肌に黄色と白というこのいでたちは、健康的ではあるがなまめかしくもある。また34才のレディであれば些か若過ぎもする。いやがうえにも男の好色の視線を誘うことを惑香は理解しているのだろうか。ひょっとして、その待つ人を魅了するため?…なのか、さだかではない。店内にはマドンナのチェリッシュがBGMとして流れている。それを軽く口ずさみながら惑香の心中でのモノローグは続く。

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