勝ったるで!
午前8時30分、緑ヶ丘高校に部活動で朝の練習をしていない学生たちが登校をし始める時間だ。パーカー、シャツ、ミニスカート、サイドテールに束ねている髪も濃淡はあるが水色の米沢 葵も高校に登校してきた。ちなみにここの高校は制服を着るのも良し、私服で学校に来るのも良いので決して葵が不良だからという理由でこんな格好で高校に登校をしている訳ではない。
彼女が校門を抜け、校舎の中に入ろうとすると一際大きな声を出しながら走っている少女が目に入る。
「ああ、馬鹿姉。もう高校最後の試合も終わって女子は引退する時期なのに31人の男子に混じって長距離走を。」
グランドで体操着を着た、ピンク髪の葵に瓜2つの双子の姉である米沢 茜は、大声を出しながら自分の先を走る男子共を抜かす為に必死に走っている。
「だぁぁ、くそー。抜かしてやるからな。」
茜は、必死に手を前に振りながら走っている。元々彼女は格闘漫画好きで、そこからボクシングに入部をしたが、学内での女子の競技人口が少ない為、大きな大会には出られないまま、春の個人戦を終えた。しかし、彼女にとってそれはどうでも良い話なのである。彼女にとって何よりもの楽しい瞬間は自分が全力で相手と競い合っている時間だからだ。なので、他の女子部員が部活に参加しなくなっても必死で朝の練習に参加している。
「茜、お先。」
「お先っす。」
「ちくしょー、また一番ドベを。お前ら抜かしたるからな。」
男子たちは、ゆうゆうに茜を抜かしていく。それを茜は追いかける。
「ああ、馬鹿姉。よくやっている。」
葵は、あの声を聞いてからグランドの方に目をやっている。
「どりゃー。」
茜は、また大きな声で叫ぶ。それを見て葵は失笑する。しかし、この大きな声は大きな声だけでは無かった。茜はもう加速し始めた。初めは、2人に追い付いたが抜かせなかったが、またさらに加速して一気に14人抜きをした。そしてまたどんどん茜は早く走る。7人、そしてさらに4人抜いた。これには、校舎の外から眺めていた葵も驚いた。普段ならせいぜい10人抜かしてゴールをすれば調子が良いといえるのに今日は、急加速により計25人も抜いた。
「ははは、あの化けもん。マジで奴の身体はいったいどうなっているんだ。」
葵は、茜の化け物染みた走りに、自分の双子の姉の身体がいったいどうなっているんだと思った。葵はどちらかというと文学少女で、運動はそこまで得意ではない。しかし、逆に姉である茜は勉強が苦手だが、スポーツは得意である。
「はぁ、はぁ。7位か。」
茜は、あの急加速後誰にも抜かされずに7位でゴールをした。
「馬鹿姉、すっげー。」
葵は、グランドで体操服が汗びたしの身体にへばりついている茜をよくコイツやったなと思いながら見ていた。
すると次の瞬間茜は倒れた。そしてグランド、校舎の外にいた者たちが慌てだした。