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Survival Competition ~ 第一開発班奮闘記 ~   作者: 狩野あかね
mission4 「It's all said and done ~希求~」
8/22

 メインパイロットの変更に伴い、さっそく新機種の調整が行われた。もともと3機とも設計を共有していたのが幸いし、データのフィードバックをイザベルの搭乗する2号機に集約することで主な変更は事足りた。

「個人認証を書き換えるより、ずっと早いから助かった」

 とは、1号機のプログラムを担当していた電脳調律士チームの言だ。

 バトルアームには盗難防止のための個別認識機構があり、登録されていない人物が乗り込んでも起動しないようになっている。開発中は、場合によっては設定せずに複数のテストパイロットが交代で乗ることもあるが、この班では基本的に専属としてそれぞれにパイロットが登録されていた。もし1号機のみを新機種として組み上げていたら、その認証を一からやり直すことになり、パイロットの変更はここまでスムーズには行かなかっただろう。

 そんな偶然も追い風として、第3戦に向けた試行錯誤は始まった。

「模擬戦への代表出場・・・大役です。でも、こなしてみせなければ」

 調整を終えた機体に乗りこみ、イザベルは緊張して操縦桿を握りしめた。

「照準補正のプログラムを入れたから、試してみて!」

 2号機担当の電脳調律士から声を掛けられ、用意されたライフルを取り上げる。そのまま、想定される距離に置かれたマーカーへと照準を合わせた。

「行きます」

 発射された弾はマーカーへと撃ち込まれ、中に仕込まれていた塗料が炸裂する。

「うーん・・・視界をふさぐには量が足りないか」

 塗料の飛び散り具合を確認したアーセンは、端末に書き込むペンの尻でこめかみを掻いた。

「あの面積に効果がある量ってなると、砲弾が大きくなって、重さと体積で飛距離が落ちちゃうんだよね」

 試作の弾を運んできたエリカが、カートから箱を降ろす。

「いちおう、ちょっと中身の量を増やして作ってみたよ。これがペイント弾。こっちが閃光弾で、あとこれは、とりもち? セメントは相手にぶつけるまでゲル状のまま保つのが難しくてダメだっていうから、代わりに、接着剤みたいな感じで」

「ロケット弾にしてしまうのはどうだ。それなら内容量を増やせる」

 箱を開きながらアキトが提案すると、イザベルが外部スピーカーから声をかけた。

「装填数の問題があります。バトルアームの手では、戦闘中の装填はさすがに難しいかと」

「それもそうか・・・」

 開いた箱から弾を取り出し、アキトは渋い顔になる。手のひらサイズの弾はずっしりと重い。

「それに、ロケット砲はライフルに比べて正確さに欠けます。誘導装置つきならばその点は克服できますが、更に砲弾が大きくなるのは避けられません。装填をせずに済むように複数のランチャーを用意するとしても、実戦を考えると現実的ではないでしょう」

「無数のバズーカを背負って突貫、は、映画ならありそうだがな」

 生真面目なイザベルの反応に、アーセンが何かを思い出すように笑う。

「とりあえず、この新作を試してみよう。何発で視界を防ぐに有効な量になるかデータを取るぞ」

 アーセンの指揮で、検証は続けられた。翌日には、建造部が第2戦の映像を解析して作り上げたダミー機体が設置され、臨場感が増した。

「できればマシンガンの射程外から狙撃したいところですが、相手にミサイルがある以上、その余裕は与えてもらえないでしょう。静止して狙いを付けられるとしたら、おそらく最初の一発だけ・・・」

  シミュレーターでの訓練を反芻し、イザベルはダミー機体を見据えて引き金を引いた。

 イザベルのライフルでの命中率は、この班の他のパイロットに比べると高い。しかし、静止状態からではない射撃では、なかなか的に当てられずにいた。

 他のパイロットから、機体のバランスの取り方のコツなどを教わりながら、様々な方法を試していく。

「銃身の保持がぶれるのが一番の問題ですね。もっと早く思うところで止められるようにならないと」

「少し腕の出力を上げてみるか」

 イザベルが何度も構えながら言い、アキトが電脳調律士と相談して微調整を入れる。すると発射の反動はかなり抑えられるようになったが、照準に時間がかかるのはあまり変わらない。補助プログラムも修正を重ね、あとはどうすればいいのかアイデアが出ずに時間が過ぎて行く。

 そんな中、焦りが出てきたイザベルが操縦を誤り足を滑らせた。そのままでも姿勢制御プログラムによって倒れることは無いが、全てをプログラム任せにするパイロットはほぼいない。イザベルも自身の操縦で態勢を立て直そうとして、その動きの中で偶然、脚部のスパイクを発動するスイッチを押した。

 ガウン!と大きな音がして、飛び出した杭によって機体が固定される。イザベルはコクピット内で、したたかにシートに身体を打ち付けた。

 だが、その痛みにも気付かずにしばし呆然としてから、イザベルは勢いよくハーネスを外してコクピットのハッチを開けた。

「すみません、このスパイク、腕にも取り付けられませんか・・・!」

 するりと機体から降りたイザベルが、首をかしげるアーセンたちに意図を説明する。

 話を聞いたアーセンは、すぐに設計図に修正を加えた。3号機から取り外されたスパイクのユニットボックスが、解体の後に新たな設計で組み直され、2号機の腕部へと嵌め込まれた。

 徹夜の作業が終わり、改良された機体にイザベルが乗り込む。班員たちが固唾をのんで見守る中、イザベルはライフルを取り上げた。

 まずダミーの機体へ1射、着弾を確認しつつ回避行動を入れてから2射目へ。ステップを踏んだ機体が滑らかに銃身を持ち上げ的へと向ける。照準が的を捉えた瞬間、足元と二の腕からスパイクが飛び出した。

 腕部に付けられたスパイクは太くて短めで、胴部に新たに取り付けられた、窪みのある装甲に受け止められている。銃の構えに合わせ、左右で位置が異なっていた。

 がっちりと動きを止めたライフルの銃口はまっすぐ的を向き、間髪を入れず銃声が轟いた。発射された砲弾は、的を掠って塗料を散らす。

 わっ、と歓声が上がった。

 装填された弾を打ちつくし、イザベルは機体を降りた。

「慣れれば、もう少し照準と固定のタイミングを合わせられると思います。補助プログラムの調整をお願いできますか」

「ああ、もちろん。スパイクは最後の一撃用としての設計になっているから、繰り返し使うための仕様変更も必要だろう。だが、これで接近戦に持ち込む筋道が見えてきたな」

 回収された標的のダミー機体を見ながら、アーセンは嬉しそうに言った。ペイント弾は上部の風防を中心に着弾している。当った数は半数ほどだが、その精度はまだ上げられるだろう。

「あとは、有効打を入れる方法だな。・・・こちらの方が難問だが」

 アーセンが眉間にしわを寄せて悩む表情になる。その周りで班員たちが揃ってダミー機体を見上げる中、アキトがぼそりと呟いた。

「この形、ひっくり返してやりたくなるな・・・」

「!」

 するとアーセンが勢いよく振り向いた。驚いたアキトが身を引くのにも構わず、アーセンは同じ勢いでダミー機体に向き直り、上から下まで忙しなく眺めた。

「確かに、この構造だと体勢を崩したら立て直せないからな。縦長だから裏返すのは難しそうだが、倒すというのはいい手かもしれない」

「でも、重いよ?」

「そこがな・・・」

 単純ながら最大の難問をエリカが容赦なく指摘し、アーセンは肩を落とす。

 外観と、演武時の動きからの推測で、機体の重量は平均的なバトルアームのほぼ3.5倍と試算されている。また、形状的に安定度も高いため、持ち上げるのも倒すのも至難の技だろう。

「だが、全く移動をしないという選択をしていない以上、どこかで重量を抑える必要はあるはずだ。四方の装甲には違いが見られないとなると、腹部が手薄である可能性は高い。倒せればそこを攻撃できる・・・」

 アーセンはダミー機体に手を当てつつ、考えを口にした。

「そもそも、あの機体なら横倒しになった時点で無力化したと判定される可能性もある。あからさまな弱点には向こうも対策をするだろうし、簡単にはいかないだろうが、検討する価値はあるかもしれない」

 周りに集まった班員たちを、ぐるりと見回したアーセンが問いかける。

「この方向を少し探ってみようと思うが、どうだ」

 期待に輝くいくつもの目がアーセンを見返した。

「よし、頼むぞ!」

 アーセンの一声に、班員たちは明るい表情で口々に意見を交わしながら、持ち場へと散って行った。


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