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Survival Competition ~ 第一開発班奮闘記 ~   作者: 狩野あかね
mission6 「with the scenery which changes  ~終結~」
21/22

 広範囲にもうもうと上がった土煙が晴れて行くと、横倒しになった第2開発班の機体が目に入った。そのすぐ側に、第1開発班の2号機がうずくまっている。

 イザベルは立ち上がろうとしたが、無理な体勢での挙動を続けたせいか、左膝のフレームが歪んで動かなくなっていた。

 もがくように足を引きずる2号機と、無理やり動かそうとするアームがギシギシときしむだけの第2開発班の機体。どこか冷めたような目で、その様子を見下ろしていたキャンディスが、ゆっくりと立ち上がった。

 それに気付いたアーセンは、観覧席下へと猛然と駆け出した。他の班員たちも後に続く。

「双方、そこまで!」

 風もなく晴れ渡った試技場に、拡声器に乗ったキャンディスの鋭い声が響く。

「圧倒的な火力を搭載した第2開発班の機体に、まともな戦いにもなるまいと思っていたが、思いかげず楽しませてもらった。判定は・・・」

「お待ちください!」

 キャンディスたち判定員のいる観覧席の下へ走り込んだアーセンが、声を張り上げた。

「第2開発班の機体は倒れ、攻撃力を失いました。しかし第1開発班の機体も破損し、戦闘を継続できる状態にありません。これはどちらが勝者でどちらが敗者であると言えるものではないと思います」

「引き分けにしろ、と?」

 不愉快そうに目をすがめたキャンディスの冷ややかな声に、アーセンはびくりと肩をはねさせる。

「それでは一勝一敗一引き分けで、コンペティションの決着がつかない。もう一戦させろとでも言う気か。わずかな延命のために、浅ましいな」

「わずかではありません」

 ごくりとつばを飲み込み、アーセンは決然と顔を上げた。

「私は、判定員のみなさまに、決着をつける必要は無い、と申し上げます」

 キャンディスの近くにいた将校たちがざわめく。

「どういうことかね」

 そのうちのひとりが立ち上がり、一歩前に出てアーセンに尋ねた。襟元の徽章から、テッサにはその人が、第2戦の際にバトルアームの定義について発言した少佐であるとわかった。

「我々第1開発班は、人型をしたバトルアームの可能性を追求してきました。今後もその方針は変わらないでしょう。そして今回、要塞とも見まごう第2開発班の機体と互角の戦いをお見せできたことで、その理念の有効性は証明できたと自負しています。しかしながら、第2開発班の大胆で既存の固定概念を覆す発想は、我が班には無いものです。今回のような要塞型の機体が実戦に投入された場合、その効果は計り知れないでしょう。このふたつはどちらが優位であると決められるものではなく、どちらもをバランスよく作り上げていくことで、軍の発展に貢献していくものであると考えます」

「なるほど」

 少佐の相づちに力を得て、アーセンは話を続けた。

「ふたつの開発班の特性は全く異なるものです。それを無理に片方だけに限定することは軍にとって大いなる損失です。このコンペティションの成果は、我々ふたつの班が、それぞれの特徴を生かした機体を開発しうる能力を有していると確認できたことであるとしていただけないでしょうか」

 キャンディスは無言でアーセンを見下ろしている。そこへ大声で割り込んだのは、第2開発班の班長であるロイド・マクベインだった。

「何を勝手なことを言っている! 僕の機体は負けてなどいない! そちらの機体は崩壊寸前だが、こちらは機体を起こせればまだ戦える。どちらが勝者かは明白だろう!」

「・・・では、どうやって起こす」

 アーセンに食って掛かるロイドの頭上に、感情の無い声が投げられた。腕組みをして冷え冷えとした目を向けるキャンディスに、ロイドは体をこわばらせた。

 ふっ、とキャンディスの口元が冷笑を刻んだ。

「無様に倒れ、その重さに自力で立つことも出来ない機体が、まだ戦える、とは。見通しの甘さは昔から変わらんな」

「く・・・っ」

 歯噛みしたロイドはアーセンから身を離し、体の脇で拳を握りしめた。屈辱に震えるロイドをつまらなさそうにながめ、キャンディスはアーセンへと視線を移した。

「この基地に、ふたつの班を維持するだけの様々なキャパシティが足りないという判断から行ったコンペティションだ。引き分けだからと無かったことに出来ると思うのか?」

 アーセンは周りに集まった班員たちを見回し、その信頼のまなざしに照れくさそうに微笑んだあとキャンディスを見上げ、怯むこと無くきっぱりと告げた。

「恐れながら、その理由には根拠が無いと申し上げます」

「・・・ほう?」

 キャンディスは表情を消してアーセンに続きを促した。

 アーセンは、開発班の敷地や設備は余裕があり、キャパオーバーとは言えないことを説明した。さらに、他の開発部門と比べて、支出の割合が低く抑えられていることも付け加える。

「わたしのところにも開発班の収支について資料が届いている」

 先に発言した少佐が再び口を開いた。その資料は、第2開発班員との食事会で話題に出た「機動連隊所属の少佐」が誰なのかをメイに教えてもらったテッサが届けたものだ。

「基地の予算を圧迫しているとして議題に上がった際に渡されたものとは大きくずれがあったが、信頼できるものかどうか判断がつかず、主計部に問い合わせていた。さきほど答えが届き、それによると新たに届いた資料が正しいとのことだ。前提が崩れた以上、結果も柔軟に対応すべきかと思うが」

 他の将校たちは、困惑した表情で顔を見合わせている。

 くくっ、とキャンディスが嗤った。

「なるほど・・・なるほど。この結末は予想していなかった。私の就任最初の施策が失策に終わるとは」

 くつくつと喉を鳴らし、キャンディスは上機嫌に言った。

「偽の情報を提出した何者かの責任は、あとでじっくり追求するとして。まずは、このコンペティションを閉幕させねばな」

 機体を降りたパイロットたちも含め、全員が固唾をのんでキャンディスの言葉を待った。

「よかろう。2班体制での開発班存続を認めよう」

 どちらの班からも同時に、わっ、と歓声が上がった。

「だが、無駄な支出を許すつもりは無い。現状では規模に不相応な設備を利用しているようだ。班の再編も含め、施設の共有や資材購入の一本化を図ってもらう。・・・貴官らも、異存はないな」

 厳しい声で条件を突きつけたキャンディスが、判定のために呼ばれていた将校たちに目を向ける。少佐は即座に頷いた。他の将校たちも、戸惑いから抜けられないまま、それでも異議を唱えることは無かった。


 こうして、機甲開発班の削減を目的としていたコンペティションは、当初の予定を大きく変更して、2班存続という結末を迎えた。


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