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Survival Competition ~ 第一開発班奮闘記 ~   作者: 狩野あかね
mission6 「with the scenery which changes  ~終結~」
20/22

 雲ひとつない空を見上げ、イザベルは大きく深呼吸した。

(ついに、この日が来ました)

 コンペティション第3戦。一勝一敗で迎えた最終戦は、どちらの班からも負けられないという意気込みがうかがえた。

 第2戦の時よりもさらに巨大化した第2開発班の機体は、遠近感を狂わせるほどだ。試技場へ引き出されて来たときには、驚きのあまり動揺せずにはいられなかった。だが、先輩パイロットから背をどやされつつ「的がでかくなったぞ、良かったな」と言われ、ふっと肩の力が抜けた。

 自分の乗る機体を見れば、まぶしい日差しの下、エンジニアたちが取りついて最後の調整を続けている。

「今日はけっこう気温が上がりそうだね。水分の補給は忘れないで」

「ありがとう」

 テッサの差し出したスポーツドリンクのボトルを受け取り、イザベルは微笑んだ。

「気圧は安定しているわ。夕方までは、ほぼ無風が続くはずよ」

「わかった」

 機体の側では、ドナがトバイアスに気象データを手渡していた。そのデータをもとに、補助プログラムの数値を決めて入力していく。ぎりぎりまで修正を重ねたプログラムは、意図していたものとは全く様変わりしてしまったが、イザベルの役に立つものに仕上げることが出来ただろう。

「吹っ切れたようだな。いい顔になっとる」

 その様子を眺め、リバルトは目を細めた。悩みがあるのか、目が暗くなっていくのを気にかけていたが、どうやら自力で抜け出せたらしい。

「そら、おまえさんらも気張っていけ!」

 整備部の若者たちに発破をかけると、力強い声が返ってくる。頼もしさに笑みを浮かべ、リバルトは工具を手に機体へと歩み寄った。

 機体の足下では、エリカが装着された棒状の爆弾の確認をしていた。

「うん、ちゃんと嵌ってる。ひねりを加えると外れるようにしてあるの、本番で上手くいくといいなぁ」

 自分が加工した溝を手でなぞり、ふふふ、と楽しげに笑う。

「班が無くなっちゃうのは嫌だけど、こんな風にいろいろ試してお祭りみたいなの、ちょっと楽しい。もっとずっと、続けられたらいいのに」

「そのために頑張って来たんだろう」

 クレーン操作を終えて降りて来たアキトが、そのひとりごとに返事をした。

「自分たちの仕事と、イザベルを信じればいい」

「うん」

 にこりとしたエリカは、遠くから親方の呼ぶ声がして、そちらへ走り去った。

「ここまで来たな」

 代わりにゆっくりと近づいて来たのは、班長のアーセン・アングレイスだった。

「『変革の日が来た。我々ひとりひとりに福音が示されることを祈ろう』」


 観覧席にジャッジを担当する将校たちとキャンディスが姿を現した。ふたつの班の班員たちは、それぞれ整列して敬礼をする。

「良い戦いを期待している」

 キャンディスの言葉を受けて、班員たちは配置に付いた。

 双方の機体の距離は、およそ600m。第2開発班の機体がミサイルポッドを搭載していることを考えると近すぎるとも言える距離だが、最終的には近づかなくてはならないのだからと、異議を唱えることはしなかった。

 合図の旗が振られ、戦いが始まった。

 視界を埋め尽くすミサイルの雨に、イザベルはひたすら回避に専念する。

「ミサイルからの被弾を防ぐ手段を、もういくつか考えておくべきだったな」

 アーセンは渋い顔で戦況を眺める。その視線の先で、2号機が急加速して前進しつつチャフを発射した。ミサイルが誤誘導されて連続した爆発が起きる。

 一瞬だけ射線が通ったのを逃さず、イザベルがバンカーバスターを撃ち込むと、第2開発班の機体のすぐそばに着弾し、土砂が吹き上がった。破裂した地面が陥没して、機体がぐらりと揺れるが、倒れるまでは行かず踏みとどまる。班員たちの間に落胆のため息がもれた。

「いや、これでいい。初手の成果としちゃ充分だ」

 リバルトは落ち着いた様子で頷いた。撃ち終えたランチャーを投げ捨て、相手の混乱に乗じてさらに接近したイザベルは、ライフルの射程内に敵機を捉えるとすかさず連射した。2種類のスパイクによって機体と保持姿勢が固定された、全く揺るがない銃口から放たれたライフル弾は相手の機体へと吸い込まれるように飛んでいく。

 ぱっ、と赤が散った。

「やったぞ!」

 撃ったうちのいくつかが命中し、塗料が敵機に付着する。反撃のミサイルをかいくぐるように、イザベルは駆け出した。

 さらにチャフをばらまきつつ、それでもなお無数に迫るミサイルを回避しながら、イザベルは隙を見ては射撃を繰り返した。回避行動から足を止めて撃ち、またすぐに走る。その動きに遅滞は見られない。スパイクでの姿勢の固定も無理なく、ライフル弾の命中率は最後の訓練時と同じように安定している。

「良かった。プログラムは上手く動いているみたいだ」

 双眼鏡を手に、イザベルの動きをじっと見つめていたトバイアスは、安堵の息をついた。

 1種類目のペイント弾が、敵機の風防をまだらに染めていく。他の場所にも着弾して機体に赤い花を咲かせ、多数あるミサイルポッドの発射口のうち、いくつかは開かなくなっていた。

「いい感じじゃないか。いつもより動きがいいよ」

 テッサが口元をほころばせると同時に、ライフルから発射される弾が青い色を散らし始めた。2種類目のペイント弾に変わった証だ。イザベルは、視界をふさぐための風防から、掃射を封じるための敵機の可動部へと狙いを変えた。

 そして、ついにマシンガンの射程に入る。

 班員たちが息をのんで見守る中、とうとう被弾して2号機がぐらりと傾いた。右肩から装甲が弾け飛ぶ。誰かの悲鳴があがるが、イザベルは衝撃を受け流すようにして機体を立て直した。

 狙いを定めさせないように複雑な軌道で背後から接近してくるイザベルに、第2開発班の機体は後方のマシンガンを向けようとするが、2種類のペイント弾の混合液によって関節部が強固に貼り付けられて動かなかった。そのマシンガンの担当パイロットが動揺したのか、ミサイルやマシンガンの発射にタイムラグが出来た。

「ちゃんと固まってる! やった! いまだよ、イザベル!」

 エリカが興奮して腕を振り上げる。

 機を逃さず、イザベルは右足のソードラックにライフルの銃身を嵌め込んだ。そのままひねるとストッパーが外れ、切っ先の付いたライフルを手に、敵機の足元へと飛び込む。

「いいぞ・・・!」

 普段はあまり感情を見せないアキトも、さすがに興奮したように声を上げた。

 イザベルは大きくえぐれて脆くなった地面を巧みに走り、爆弾を突き刺すためにいったん腕を引いた。

「あぶない・・・!」

 叫んだのは誰だったか。狙いを定めようと、わずかに速度の落ちたイザベルに、まだ生きていたマシンガンが向けられた。目の前に現れた銃口に、イザベルはとっさに身を投げ出す。コクピットからは外れたものの、先ほどの銃撃で装甲が無くなっていた右肩が銃弾を受け、手にしたライフルごと右腕が落ちた。後方へ飛ばされながら誘爆し、爆風がイザベルの背中を押す。

「まだ・・・まだです!」

 イザベルは叫ぶと、受け身を取って相手の腕をくぐり抜け、残った左手で左足に付けたもう一つの爆弾を引き抜いた。そして、体勢を崩しつつも、槍の穂先のように作られた爆弾を敵機の足元へと突き刺した。

 時限装置のスイッチを押し込み、機体の反対側へと転がり込む。一拍の後、ずん、と突き上げるような振動が来た。敵機を盾にして衝撃から逃れたイザベルは、片膝をついて機体を起こした。

 脆くなった地盤を爆破され、自重を支えきれなくなった第2開発班の機体は、ゆっくりと傾き、そしてついに倒れ伏した。


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