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ガシャガシャと金属的な音を立てながら、50cm四方の立方体がハンガーのフロアを移動している。近づいて来て足下で止まったそれを、第1開発班の班長であるアーセン・アングレイスは判断に困ったような目で見下ろした。
「これは?」
「自律式の小型支援機ってところか」
もう1台を引き連れてやって来たベテラン整備士のリバルト・リズカミルは、ひとかかえほどある立方体を持ち上げて説明を始めた。
「自動走行機能を付けたポッドに固定弾倉の砲撃ユニットを取り付けてあり、プログラムで目標に接近、攻撃する。それだけじゃないぞ、弾切れ後も足下でウロチョロして気をそらすこともできるし、物理的に動きの邪魔にもなる。背が低いから向こうからは狙いをつけづらいし、かといって無視すれば攻撃してくる。やっかいな障害としてイザベルの補助に使えると思うんだが、どうだ?」
普段は浮ついたところの無いリバルトには珍しい、どこか楽しげな口調だった。
「予算は気にせんでもいい。ジャンクパーツで充分だからな。お上品な純正パーツばかりいじってる若手にも、いい刺激になると思うぞ」
生き生きとしているリバルトとは裏腹に、アーセンは難しい顔をしていた。
「これを採用するのは、リスクが大きいと私は思う」
「リスク?」
リバルトは怪訝そうに手を止めた。
「このコンペは、バトルアーム開発の技術を競うものだ。開発されたバトルアームの機体性能を測る模擬戦で、機体に依存しない武装を使用するのは、ルール違反と取られかねないだろう」
「・・・考え過ぎじゃないか?」
「出来るだけ口実を与えたくないんだ」
懐疑的なリバルトに、アーセンは暗い表情を崩さない。
「長官は、うちの班を潰したいらしい。マクベイン少尉が甥だというなら、身内に利益を与えたいということなのかもしれないが・・・理由はどうあれ、うちの班の内部を混乱させて、自滅を誘おうとしたのは事実だろう。クレストくんが話してくれたことでそれが明るみとなり失敗に終わったことは、長官にも伝わった・・・となれば、目的のために次はどうすると思う?」
「直属の人間でも送り込んで、作業棟を襲うか・・・いや」
予想を口にして、リバルトを首を振る。
「そんな足の付きやすい手は打たんな。・・・なるほど、それでルール違反か」
思い当たった様子のリバルトにアーセンも頷く。
「模擬戦の内容に難癖をつけてくる可能性は高いと私は見ている。だから、付け入る隙をなるべく与えたくないんだ」
「支援機は認められんか?」
リバルトは残念そうに腕の中のポッドを見た。
「バトルアームが操作しているなら押し通せるかもしれないが、自律式なんだろう? バトルアーム同士の力比べに他者の力を借りた、と言われるんじゃないかと、な。かといって、遠隔操作にするとウォルフォードくんの負担が大きくなりすぎる」
「ううむ・・・」
アーセンの懸念は一蹴できるものではなく、リバルトは唸った。第1戦は戦術も含めてのタイムトライアルだった、機体性能だけではない、と主張したとしても、あれは主催から提示されたレギュレーションであり、一対一の戦いである第3戦では判定基準が異なると言われればそれまでだ。
ひとしきり唸ってから顔を上げたリバルトは、苦笑を浮かべていた。
「前線を離れて勘が鈍ったか。・・・おまえさんは逆に、ずいぶん班長らしくなったな」
「そうか?」
アーセンはきょとんとして目をしばたかせた。リバルトは抱えていたポッドを静かに床におろした。
「バトルアームを作っていれば満足、といった風で、こんな分析やら推測やらをすることは無かっただろう。先日の会計調査もそうだが、頼もしくなったと思うぞ」
「はは・・・」
照れたアーセンは意味も無く眼鏡のふちを触った。
「今までは班をどう運営しようとか、どんな問題が起きているかとか、あまり気にしていなかったのは確かだな。設計するのが楽しくて、それが実体になるのが嬉しくて・・・それだけだった。自分のことしか考えていなかったんだなと気付いて、ようやく班長としての自覚が出て来た気がするよ。まぁ、班が無くなる瀬戸際になって気付いても遅いんだがな」
「瀬戸際だが、終わっちゃいないぞ」
リバルトはアーセンの肩を小突いた。
「圧倒的不利の状況下で、引き分けを狙えなんて高等テクニックを求めたくせに、弱気になってどうする」
「あ、いや、諦めた訳じゃないさ、もちろん」
アーセンは手にした端末を掲げてみせた。
「脚部のスパイクの設計を少し変えようかと思ってる。攻撃力増加だけでなく機体を固定するのにも使うなら、複数で分散した方が良いかもしれない。図面が引けたらシミュレーションに掛けるから、見てもらってもいいか?」
「今から足回りの再設計だと?」
あきれたようなリバルトに、アーセンは「はは」と小さく笑う。
「そう言うな。導入はシミュレーション次第だから」
「やれやれ。かまわんよ。突貫工事も前線じゃ良くあることだ。極限状態で作業するのも、いい経験になる」
肩をすくめるリバルトに、真顔になったアーセンの視線が刺さった。
「ん? どうした?」
「いや・・・」
少し言いよどんで目をそらしたアーセンは、やがて意を決したようにリバルトに向き直った。
「納期的な厳しさはうちにもあるが、リバルトの言う極限状態は、この班では起きないだろう。パーツも基本的に新品を使用している。リバルトの持つ整備技術の応用テクニックは、十全に生かせているとは言いがたい・・・もっと適した部隊があるんじゃないか?」
「・・・自分は、この班には不要ということか?」
「ちがう、そうじゃない」
鋭い目になるリバルトに、アーセンはゆっくり首を横に振った。
「整備の腕も、整備士たちをまとめるリーダーシップも、認めているし頼りにしている。・・・が、きみ自身が、ここでの役割に納得していないように見える時があるんだ」
思わぬ指摘に、リバルトは目を見開いた。その驚きを見て、アーセンは慌てたように手を振った。
「すまん、変なことを言ったな。忘れてくれ」
困ったように笑い、アーセンはきびすを返した。
「じゃあ、スパイクユニットの再設計がすんだら声をかけるよ」
そう言ってアーセンは去っていく。
ここでの役割に納得していないのではないか。
そんな自覚はまったく無かったリバルトは、深く考え込んだ。




