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Survival Competition ~ 第一開発班奮闘記 ~   作者: 狩野あかね
mission5 「got to move on  ~気概~」
12/22


 新しいペイント弾が出来上がるまで、イザベルは訓練をシミュレーター主体に切り替えた。基礎的な射撃や格闘の訓練に加え、第2開発班の機体を分析したデータを使用した模擬戦闘を繰り返し行う。そうして、最低限の休憩以外は、ひたすら訓練を続けた。

「やあ、お疲れ」

 その日、トレーニングを1サイクル終えて筐体から出て来たイザベルを出迎えたのは、電脳調律士のトバイアス・ラウキンだった。

「お疲れさまです」

 イザベルは挨拶を返すと、脇に備え付けられたモニターに戦績データを呼び出してチェックを始めた。

「機体制御プログラムの調子はどう?」

「問題ないと思います」

 淡々と答えながら、イザベルは次のサイクルのセッティングをする。そんなイザベルの顔を覗き込むようにして、トバイアスは囁いた。

「機体の反応速度、上げたくない?」

「どういうことですか」

 手を止め、イザベルはトバイアスに向き直った。

「機体制御系、反応速度と精度の向上のための、基本ソフトの大胆なカスタマイズをしたらどうかと思うんだ。具体的には、基本制御系の汎用性という観点は無視して、パイロット個人の特性、もっと言うとパイロットと機体との組合せ毎の特性をフィードバックし、当該能力の最大発揮を追求するんだ。機体に素早く正確な動作をさせるにこしたことない。でしょ? で、それはどういう効果があるかって言うと・・・」

「ちょ、ちょっと待ってください」

 とうとうと説明するトバイアスを、イザベルが遮って止めた。トバイアスは、何か?と言いたげに首を傾げる。

「パイロットと機体の組み合わせの特性をフィードバックって、今と何が違うんですか?」

「えーと、つまり、今は軍用機ってことである程度規格が決まっているのを、枠を取っ払って完全な個人専用機にしようってこと。基本のオペレーションシステムから組み直して、パイロットの考えを汲み取った機体が自らの最大限の能力で動くようにする、って感じかな」

「・・・」

 眉を寄せたままのイザベルに、トバイアスは頭をかいた。

「まだ難しい? そうだな・・・今は、少し余裕を持って作られた服を、あちこちつまんでパイロットの体に合わせてつくろってる感じだけど、それをきっちり採寸して縫い直すんだ。そうすると、動いたときに突っ張ったり、だぶついて邪魔だったりするのが無くなるでしょ? 服の方も、たとえばどこかがボタンじゃなくてフックで留めてあるっていうのが特徴だった場合、それが動きの妨げにならないようにデザインするってわけ」

「・・・何となく、わかるような気はします」

「そう? 良かった。キミの癖を拾う精度を上げて、本来は機体が担わないレベルまで完全にトレースさせる。理想は補助プログラム無しでダイレクトに機体を操ることで、イメージとしては医療用の義肢が近いかな。そうすれば、自分の体と同じように動かせるようになるはずなんだ・・・理論上は」

「それが本当ならすごいことですが、どうして今まで採用されていないのですか?」

「パイロットへの負担が大きすぎることと、画一性を要求される軍用機には向いてないから、かな」

 少し気まずげにトバイアスは目をそらした。

「自分の体じゃない物を反射だけで動かすとなれば、神経系統にかなりの負荷がかかるのは間違いないし、操作に慣れるのも、たぶんすごく時間がかかると思う。すぐに戦場で戦える兵士を求める軍には、歓迎されないだろうね」

「では、なぜ今その提案を?」

「コンペに負けたくないからだよ。当たり前でしょ」

 不思議そうなイザベルに、トバイアスは険しい目になった。

「このシステムはずっと考えてたんだ。軍に採用はされなくても、コンペ対策としてならあり得る。班の助けになることなんだ」

「だからといって、独断で、そこまで大掛かりなシステム変更をしてしまうのは良くないよ」

 突然割って入った声に、トバイアスはびくりとして振り返った。イザベルも驚いて顔を向けると、そこには事務のテッサ・フーパーが制服姿で立っていた。

「テッサ・・・」

「すまない、ふたりとも。立ち聞きするつもりじゃなかったんだが、届け物に来たら聞こえてしまってね。はい、イザベル。エリカから預かって来た新しいペイント弾のデータだよ」

「ありがとうございます」

 イザベルにメモリチップを渡して、テッサはトバイアスの方を向いた。

「基礎システムの変更なら、少なくとも設計部とプログラム部には話を通すべきだろう」

「・・・もう話した」

 トバイアスは諦めたようにため息をついて顔を背けた。

「でも、許可できないって」

「理由は?」

「習熟の時間が足りないから挙動が安定しないって。それに、使用はパイロットの任意で、集中力が一定値を下回ったら既存システムに自動に切り替わるようにするって言ったんだけど、戦闘中にそれを使い分けられるようになるにも時間がかかるだろうって」

「妥当だね。コンペまではあと10日もない」

 テッサは大きく頷いた。

「上のその判断を無視してパイロットに直談判というのは、あまり褒められたことじゃないんじゃないか」

「それは・・・」

「キミはコンペのためと言うけれど、本当かな? 班のことを思っての行動には、私には見えないよ」

「・・・っ」

 テッサの指摘に、トバイアスは顔をしかめた。確かに、他の班員たちほど班の存続に興味が無いのは事実だ。もちろんコンペは勝てたほうがいいとは思っているが、この提案は、どちらかと言えば自分の力を試したいという気持ちの方が大きい。

「別にいいじゃん。役に立つかもしれないんだし・・・」

「そうですね」

 不満げに呟くトバイアスに、それまで何事か考え込んでいたイザベルが答えた。

「あの機体に対抗できる可能性がわずかでも上がるのなら、私は挑戦してみたいです。ですが、機体のシステムをいきなり変えるのは難しいでしょう。まずシミュレーターに導入するのはどうでしょうか」

「え・・・」

「もちろん、許可は取って、だよ」

 驚くトバイアスに、テッサはウインクをしてみせる。

「気が急く気持ちはわからなくもないが、キミひとりで成し遂げるものではないだろう?」

「私もひとりでは戦えません。たくさんの人の支えあってこそです。この数週間でさらに痛感しました。どうか貴方の力も貸してください」

 イザベルが右手を差し出す。テッサは戸惑うトバイアスの手を強引に取り、そこに重ねた。

「そつが無いように見えて、実は意外と不器用なんだな、キミは」

 くすくすと笑われ、トバイアスは目元を染めて手を振り払った。

「ほっといてよ」

 そしてそのまま部屋を出て行く。

「話、もう一度してくる」

「私も行きます」

「そうだね、お供しよう」

 こちらを見ようとせず立ち去ろうとするトバイアスを、ふたりは足取り軽く追いかけた。

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