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Survival Competition ~ 第一開発班奮闘記 ~   作者: 狩野あかね
mission5 「got to move on  ~気概~」
11/22


 終業後の建造部地下工房の一角で、エリカ・ロンバルディアはモニターをにらんであれこれと数値をいじっていた。

「お、そこ、ふたつ上げて見ろ」

「これ? ・・・あ!」

 椅子に座って作業するエリカの脇からモニターを覗き込む建造部の親方が指示を出す。言われた通りに数値を変更すると、別の窓に表示された3Dモデルがゆっくりと動いた。

 小さな球体が破裂するようにふくれあがる様子を見て、エリカはぱっと顔をほころばせた。

「わっ、なんかいい感じ?」

「だな。次は上からの圧力の・・・ん?」

 背後でドアの開く音がして、ふたりは振り返った。整備士のカミサワ・アキトが、コンペティション第3戦のパイロットに抜擢されたイザベル・ウォルフォードと共に入ってくるところだった。

「おう、どうした」

「こいつが建造部と話がしたいというから連れて来た」

 アキトは後ろのイザベルを目顔で示した。イザベルが進み出て会釈する。

「作業中に申し訳ありません。ちょっと相談というか、お願いが出来るかどうか聞きたくて・・・」

「何、何?」

 エリカが興味津々と言った様子で立ち上がる。それを抑え、親方が部屋のミーティングスペースへと誘導する。簡素なパイプ椅子とテーブルの置かれたそこに、それぞれが腰を落ち着けると、イザベルは親方をまっすぐに見た。

「ライフル弾の中身の事なのですが、2種類をひとつにまとめるというのは難しいでしょうか」

「ひとつに? 一発で複数の作用を起こさせるという事か?」

「はい」

 班長の言う「引き分けによる両班の存続」を実現させる為には、敵機の攻撃能力を奪うことが必須である。敵機の脅威はミサイルとマシンガンによる掃射能力であり、「射手の目を奪う」「アーム・脚部の故障による射線固定」「発射口を塞ぐ事による不発、暴発」が有効であろうと判断した。そのために、特殊弾はペイント弾ととりもち弾を使用したい。だが、イザベルの現時点での射撃能力では正確な撃ち分けは難しい。

 そこで、とりもちのような粘着効果を付加したペイント弾を作り、敵機のどこに当たったとしても、効果を上げることを狙いたい。

 親方の問いに、イザベルはそう説明した。

「なるほど。塗料に粘度を持たせるのは良い手かもしれないな」

 話を聞いた親方が、さっそく手元で計算を始める。

「私がもっと正確な射撃が出来れば良かったのですが・・・」

「気にするな。少なくともこの班の中では一番の腕前だ」

 イザベルの申し訳なさそうな様子にアキトが首を振る。

「足りないところは俺たちが補助する。戦うのはお前ひとりじゃない」

「そうだよ! 2種類の弾を混ぜちゃうなんて面白そう」

 エリカはワクワクとした表情で身を乗り出した。

「粘度を上げすぎると飛び散らないし、弱いとくっつかないし、配合難しいよね。試作品出来たら持ってくから試射お願い」

「はい、もちろんです。よろしくお願いします」

 イザベルが深く頭を下げたのをきっかけに、全員が立ち上がった。ドアへ向かおうとしたアキトの足が、ふと止まる。

「そういえば、あれはなんだ?」

 その目は、エリカたちが作業していたモニターへ向けられている。そこでは先ほどの3Dモデルがふくらむ様子が繰り返し映し出されていた。

「あ、これ? B班の機体を倒すのに、足下にふくらむものを差し込むのはどうかなぁって思って。居残りで親方に見てもらってたの」

 モニターに駆け寄ったエリカが何事か打ち込むと、長方形の機体が表示され、ふくらんだ球体によって片足を押し上げられて横倒しになる動きを見せた。

「まぁ、持ち上げるにはどのくらいの強度が必要か、とか、サイズは、とか、まだぜんぜん形になってないんだけどね」

「確かに、あの足は弱点になり得る。俺も、バランスを崩させるのはどうかと思っていた。発想は逆で、地面をえぐって踏み外させるような事を考えていたんだが」

「なるほど! その方が簡単かも」

「いえ、あの機体がバランスを失うほど深い穴をあけるのは、少し難しいかもしれません。どちらがいいか、両方とも試してみませんか?」

 ふたりのアイデアに、イザベルが目を輝かせた。

「横倒しにしてしまえば、明確に相手の攻撃力が削がれたとアピールできそうですし、こちらも近づいて攻撃したけれど撃破には至らない、という主張も出来ます」

「引き分けって思ってもらいやすくなるってことだよね」

「はい」

「それなら、感圧型の地雷を設置して足を吹き飛ばした方が早くないか」

 親方のもっともな提案に、エリカは不満げに唇を尖らせた。

「それ、うっかり踏んだら自分も危ないじゃん。でもふくらむだけなら、うちの機体はバランス保てるでしょ?」

「まぁなぁ・・・」

 親方は無精髭の浮いた顎をさすりつつ苦笑いした。

「バランス感覚は人型二足の強みだからな。安定度では劣っても、意外と倒れはしないもんだ」

「だよねー。ね、いろいろ試してみようよ。楽しそう!」

 うんうんと頷いたエリカはイザベルに笑顔を向けた。

「はい。あ、小さい爆破で地面に穴をあけて、その中に仕込むというのはどうでしょう。その場合は遠隔で、ふくらむタイミングを操作しないといけませんが」

「出来ると思うけど、向こうの移動の軌道を予測して配置するのが難しそうかな?」

「そうですね・・・ですが、直接相手の足の下に正確に滑り込ませられるか、あまり自信が無くて・・・」

 イザベルは少し落ち込んだ様子を見せる。

「班長が、ミサイルの打ち合いで決着したのではダメだと言っていましたし、接近戦をこなさないといけないと思うのですが、私は先輩たちに比べたらまだまだで・・・」

 エリカは困った顔になって親方とアキトを見上げた。ふたりも顔を見合わせる。

「・・・指名されたのは実力があると認められているからだろう」

「そうだな。慎重なのは大事だが、後ろ向きになってもいいことは無いぞ」

 アキトの言葉に親方が続けた。

「さっき、こいつらも言っただろ。足りないところは周りが補う。それが仲間ってもんだ」

「きゃっ」

 親方に乱暴に髪をかき混ぜられたイザベルが小さく悲鳴を上げる。

「おっと、すまん。つい、こいつみたいな扱いしちまった」

 その手をエリカの頭に乗せてぐらぐらと揺さぶると、エリカは抗議の声を上げた。

「ひどい、親方! あたし、なんにもしてないのに!」

「ははは、すまんすまん」

 ふたりの気安いやり取りに、ようやくイザベルも表情を緩め、乱されて落ちて来ていた前髪を払った。

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