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恋はみためじゃないよ  作者: 夢遥
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恋はみためじゃないよ

桐斗に婚約者がいると知ってから、桐斗を好きな気持ちを隠したまま、諦めようとしていた矢先、


琉生に桐斗の正体をバレてしまったことで、ばらさない代わりに、琉生と付き合うことになってしまった千都。


でも、桐斗が好きな気持ちは心に残ったままでいた。




「あ~あ、Kiritoには幻滅~!!」


涼香ががっかりしながら、週刊誌を叩いた。



翌日の朝、記事は小さいものの暴力事件として週刊誌に載っていた。



昨日、若菜ちゃんと倉本君がキスしていたことにショックだったことも忘れるくらい、学校中、Kiritoの話でもちきりになっていた。


「こんなこと、Kiritoはしないと思ってたのにーー」


涼香は、ため息混じりに呟く。


「Kiritoにも…………何か事情があってこんなことしたのかも知れないし……」


あたしの口から、意外な言葉が出たと思ったのか、涼香は怪訝そうな顔をさせる。


「千都、Kiritoのこと興味なかったのにどうしたの?何か知ってるみたいな…………」


「や、やだなぁ~、あ、逢ったこともないのに知ってるわけないじゃないーー」


ついついしどろもどろになってしまう。


「ふーーん?」


じっと涼香に見られて、つい目を逸らしたまった。


「ま、いいか。千都が、話してくれるの待ってるから」


「……………………」


ごめん、涼香………。


そっと、目を閉じると涼香の言葉に、すまない気持ちでいっぱいになったその時、クラスの子が慌てて教室に入って来た。


「大変だよーー!この学校にKiritoも通ってるみたい!!」


「あー、知ってる!門の近くで記者がみんなに聞きまくってた」


「俺、聞かれたー」


クラス中、大騒ぎになっていることに、あたしはハラハラしながら倉本君の席をチラッと見たけど、まだ姿が見えないまま結局、倉本君が学校に来ない日が一週間続いた。





記者の人が学校の辺りをうろつかなくなった頃。


「最近、倉本の姿が見えないけどずっと学校来てないのか?」


急に、渡部君が顔を近づけて覗き込んできた。


「ちょっと、そんなにくっつかないでよ!?」


朝、登校中にたまたま渡部君に逢っただけなのに、そんなにくっつかれると困ってしまう。


「いいじゃん、俺達付き合っているんだしさー」



「ーーーーー」



馴れ馴れしく、肩を抱き寄せる渡部君を睨みつけたその先に、見慣れた姿が目に映る。



倉本君……………



久しぶりに見る倉本君は、何だか少し痩せたようにみえた。



あたしのせいで、仕事や学校にも支障がでたことに胸が痛む。



「あ………あの……倉本君……!おはよう……」


思いっ切って声をかけると、倉本君は足を止めて振り向いた。


「……!おはよ………」


倉本君は一瞬、戸惑った顔をしたけど挨拶を返してくれる。


「あの……倉本君に一言、謝りたくて……今回のこと……本当にごめんなさい!」


あたしは、深く頭を下げた。


「別にいいよ……俺が勝手にやったことだから」


「で、でも……謹慎になったって聞いて……あたしのこと助けたりしなければ…………」


「は?どうして、謹慎だったこと知ってるんだよ?」


「学校の近くで記者の人に聞いて……でも、最近は見かけないけど」


「……………………!!」


「だから………心配であたし………」


「………じゃないから………………」


急に、倉本君の表情がみるみる変わっていく。


「え………?」


なんて言ったのか聞き取れず、もう一度耳を傾けた。


「櫻井のせいじゃないから………もう、俺のことはほっといてくれないかーーー」



「…………で、でも、このままじゃ、誤解されたままだし……あたしにできることがあったら、倉本君の力になりたい…………」


「…………櫻井に助けてもらうことなんてないから」


あたしを、冷ややかな目でみる倉本君に涙が出そうになる。


「………っ…………ごめん。あたしってば、バカだよね…倉本君に迷惑かけてるのに、力になりたいだなんて………」


あたしは、きゅっと唇を噛み締めた。


「…………それに、若菜にも助けてもらってる。俺のことより、彼氏のことでも考えてあげた方がいいんじゃないのか?」


「………そ、そうだよね……若菜ちゃんが、力になってくれるに……ごめん」


倉本君と若菜ちゃんとキスしていることを想い出して、急に胸が張り裂けそうになる。


「そうそう、千都ちゃんのこといつも想っている俺としては、少しは俺のことも考えてほしいな~~~~」


渡部君は、隣にいることをアピールするかのように、あたしの肩をぎゅっと抱き寄せる。


「ちょっ………」


渡部君を突き放そうとしたけど、あたしの力ではどうにもできない。


「せいぜい、2人でイチャついていろよ。先に行くから」


倉本君はムッとさせながら、あたし達から目を逸らす。


「べ、別に……イチャついてなんかいないから!!」


あたしの言葉に耳を傾けもせずに、倉本君はさっさと昇降口の方へ歩いて行った。



「何よ………人の気も知らないで」


切なげに、倉本君の後ろ姿を見つめた。


「もう、あいつのことはほっとけよ。婚約者もいるんだしさ」


「……………………………」


渡部君に言われなくても、そんなのわかってる。


でも、好きな人の力になりたいのに、あたしにはどうすることもできないのかな……。






でも、その日から倉本君に話しかけようとしても、必要以上のことは会話をしなくなった。


「はあーーー」


渡部君と一緒に帰ることになって学校を出てからすぐ、思わず溜息をついたあたしの手を渡部君はぎゅっと握る。


「千都ちゃんーー。あいつのことでも考えてる?」


「そ、そういうわけじゃ………」


「何だか、妬けちゃうなー。俺といるのに、他の男のこと考えているなんて」


「………だ、だから、違うって言っーーー」


感情的になりながら言い返そうとした時たった。



「君、ちょっといいかな?」


後ろから、急に声をかけられてあたしと渡部君が振り向くと、この間、声をかけてきた記者が立っていた。


「あ~~、やっぱりそうだ~!」



「誰……?」


渡部君は内緒話するように、あたしの耳元でヒソヒソと訊ねてきた。


「この人は、Kiritoのこと探ってた記者だよ……」


「あー、この人かーー」


納得した顔で、渡部君は相槌を打つ。



「やだな~!探ってたなんて、人聞き悪いなーー。ちょっと、Kiritoの情報を訊いていただけなんだけど。この前、彼女が何か知っているような感じだったから」


篠崎さんは、キラっと目を光らせながらあたしに目をやる。



「…………………!!」


この人、あたしが倉本君と関わりがあるって見抜いてる!!


一瞬、戸惑いを隠せないでいた。


「おじさん、Kiritoのこと探ってても俺達は何も知らないから………行こう!千都ちゃん」


助け舟を出すように、渡部君はあたしを促した。


「あー、ちょっと、待ってよ!彼女と話したいんだけど」


逃がさないと言わんばかりに、篠崎さんはあたし達の間に入って来た。



どうしよう、しっつこい!!


渡部君も苛立った様子で、篠崎さんを睨みつけた。



その時だった。


いつの間にか、あたし達の前に独りの男子が立ち塞がった。


「これ以上、しつこくすると警察呼ぶぞ!」


1番聴きたかった声が、あたしの耳に響いた。


「倉本君………」


こんな時に、助けてくれるなんて思ってもいなかった。


倉本君はあたしの腕を掴むと、その場を走り出そうとした。


「あっ、君!ちょっと、待ってくれないかな!?」


篠崎さんは、鋭い視線で倉本君に注目した。


「走るぞーー!!」


あたしの腕を掴んだまま、倉本君は急いで走り出す。



はあはあ…………


何処まで走っただろう………。


ほとんど人気がない所まで来ると、倉本君は足を止めた。



あたしが、腕を掴まれたまま今の状況に戸惑っていると、


「あ………悪い」


倉本君は、慌ててあたしから手を離した。



なんとなく避けられているような気がしてたのに、急にこんなことするなんて、どういうつもりなのかな……………。


それに、倉本君を見る篠崎さんの視線がどうしても気になる。


正体がバレてなければいいけど……………。


もやもやした気持ちで、一息ついた。



「あ、ありがとう………助けてくれて……でも、渡部君置いてきちゃったね。大丈夫かなーー?」


倉本君の正体バラしてなければいいけど。


「……………そんなにあいつのことが心配か……」


ボソッと独り言のように呟く倉本君の言葉に、聞き取れずあたしは思わず振り向いた。


「え?」


「いや、何でもない。それより、明日から違う道で帰ったほうがいいよ」


「うん。でも………」


遠回りすると今の道より、倍も時間がかかってしまう。



そんなことを考えていると、


「何だよ。アイツに訊かないとわからないとか?」


不機嫌そうに倉本君は、あたしの顔を覗き込む。


「な、何言ってるの?渡部君は別に………」


「別に…………?」


「………う、ううん。何でもない」


倉本君の機嫌の悪さに、あたしは言葉が詰まらせる。



何で、そんなに怒ってるの……………?



「………………ま、いいかー。そんなこと……とにかく、いつもの道は通るなよ」


怒ってるのかと思えば、優しい言葉に変わる。


「どうして………?どうして、そんなに気にかけてくれるの………?」


「別に………そういう訳じゃ……」


「今日だって、あたしが話しかけようとしたって必要以上のことは話しないし……何だか避けられてるような気がしてたのに」


倉本君から目を逸らすと、キュッと唇を噛み締めた。



「………なれなれしく話するのも彼氏に悪いから」


「そんなことない!あたしは、もっと倉本君といろんな話したいの。それに、もっと一緒にいたいと思ってるのに………」


「櫻井ーー?」


驚いた顔で目を丸くする倉本君にハッとして、あたしは言った後に慌てて口を押さえた。


「あ、あたし……何、言ってるんだろ……倉本君は若菜ちゃんと婚約してるのに、一緒にいたいだなんて……ごめん、もう帰る」


急に気まずくなって、倉本君から離れようとした時、倉本君に腕を掴まれて引き寄せられた。


「ーーーーーーー!!」


あたしは、何が起こったのかわからず呆然としてしまった。


「あ、あの、倉本君……………?」


「帰るなよ………」


「……………………!!」


「若菜は親が決めた婚約者なだけで、俺の意思はない」



「な、何、言ってるの? この前、若菜ちゃんとキスしてたくせに………」


確かにあの時、この目でハッキリ目撃した。


「なっ!何でそんなこと知ってるをだよーーー?」


倉本君は驚いて、あたしの顔を覗き込む。


「た、たまたま通りかかって…………………」


とっさに、嘘をつく。


「……………あれは、若菜が勝手にしたことだから」


「勝手にって……そんな簡単にキスされちゃうんだ?」


胸の痛みを押さえながら、ムッとさせた。


「何、怒ってるんだよー。自分だって、俺に簡単にキスされたくせに」


「ーーー!あれは、正体がバレるとマズいからって、無理矢理キスして脅迫したんじゃない!?」


「脅迫しただなんて、人聞き悪いなーー。あの時は、それしか思いつかなかっただけだから」


「……………………………」


あの時は、凄くムカついたけど……今は恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。



「俺、本当は………………」


倉本君はあたしの肩を掴むと、真剣な瞳で何か言おうとした。



「あっ!桐斗くーん。やっと、見つけた!」


突然の声に、倉本君はあたしから身体を離した。


「若菜……………」


振り向くと、若菜ちゃんが倉本君に逢えたのがよっぽど嬉しかったのか、倉本君の腕に絡みついた。


「うちに行ったら、まだ帰ってきてないって桐斗のお母さんに言われたから、捜しにきちゃったーー」


「何か用事か?」


「今日の予定していた仕事の時間、変更になったよ」


上目遣いで、倉本君を見る若菜ちゃんは可愛く思えて何だかコンプレックスを感じてしまう。



親が決めた婚約者で自分の意思はないとか、倉本君は言っていたけど、若菜ちゃんは本当に倉本君のことが好きなんだ。



「わざわざ、捜しに来なくてもメールでもよかったのに」


倉本君は、小さな溜息をつく。


「え~、だって桐斗君に逢いたかったんだもん。それに、スタジオに行くまでに時間ないし」


仕事ができるってことは、謹慎が解けたってことだよね?



あたしは、ほっと胸を撫で下ろす。



「………………わかった。何時に変更になったのか帰りながら訊くよ」


仕方ないと言う顔をすると、倉本君はあたしの方を振り向いた。


「櫻井、送ってあげられなくて悪い………………」


「う、ううん。もともと、送ってもらう約束してないし」


あたしが小さく首を振ると、若菜ちゃんはニヤリと唇の端を上げる。


「ほら、千都ちゃんもこう言ってるし、早く帰ろう~!」


倉本君の腕に自分の腕を絡ませながら、若菜ちゃんは急かした。


「…………………わかたっから、そんなに引っ張るなよ。じゃ、櫻井……また明日な」


「う、うん………」


倉本君と若菜ちゃんはあたしに背を向けると、2人で並んで歩き出した。



自分の意思はないとか言ってたけど、倉本君だって満更でもなさそうだ。


だったら、どうして抱き締めたのよ………………?


さっき、倉本君に抱き締められた感覚が、まだ身体に残っている。


ツキンと痛む胸の奥を必死に押さえながら、2人の姿を見つめた。








千都と別れてから、桐斗はさっき千都を抱き締めたことを思い出していた。



はぁー、あの時は櫻井のこと帰したくなくて、つい抱き締めちゃったけど、俺は何やってるんだ~~!?



「桐斗君?どうしたの、顔が赤いよ?熱があるんじゃないの?」


若菜が、心配そうに俺の顔を覗き込むと、額に手を伸ばしてきた。


「だ、大丈夫だから!それより、仕事のことだけど、何時に変更になったのかな?」


恥ずかしさで、赤くなった顔を隠したくて、思わず、若菜の手を払い除けてしまった。


「桐斗君………」


若菜は驚いて戸惑った顔をしたけど、すぐに笑顔を向けた。


「ごめ~ん!時間変更じゃなくて、今日の仕事はなくなったんだった」


「…………………若菜、まさか俺に嘘ついたんじゃ……」


謹慎が解けてから、最初は仕事がこなかったけど、最近になってやっと少しずつ増えてきたと思ったのに、週刊誌の記事がまだ影響しているのかも知れない。



「や、やだな~。まさか、桐斗君に嘘つくわけないじゃない!ちょっと、勘違いしていただけだし」


「……………………」


「と、言うことで、時間空いちゃったしー。桐斗君、帰りに何処か寄ってこうよ!」


また、若菜が強引に腕に絡みついてきた。


「俺……帰る」


ボソッと呟くと、若菜の手からすり抜ける。


「あ~、待ってよ!桐斗君」


若菜のことは無視して、先に歩き出した。




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