恋はみためじゃないよ
悪い奴らから千都を助ける為に桐斗が顔に怪我をしたことで、クラスのみんなが桐斗がドジそうだから、階段から落ちたんじゃないかと言いたい放題。
桐斗を助ける千都だったけど、みんなから桐斗を好きなんじゃないかと冷やかされる。
鈴香は鈴香で、千都が休みの日にKiritoと一緒にいたのを見たと言われて、どうしていいか分からずにいたけど、琉生に「休みの日は俺といた」と千都は助けられる。
「おはよー!千都ちゃん」
翌日、気が重いまま学校へ行くと、昇降口で上履きに履き変えようとした時、渡部君がいつもと変わらず明るく挨拶をしてきた。
「……………おはよう」
あたしは、渡部君に見向きもしないまま挨拶する。
「どうしたの?元気ないね」
態度に出ていたのか、渡部君は心配そうにあたしの顔を覗き込んだ。
「………………」
「もしかして、倉本が原因?」
「……………!!」
渡部君って、そういう所だけは敏感なんだから。
「その顔は、図星かな」
「…………………」
「あいつには婚約者がいるんだろ?そんな奴はやめて、俺にしなよ」
周りに誰もいないことをいいことに、渡部君があたしの肩をを抱き寄せた。
「ちょっと、やめてよ!」
渡部君の手を振り払おうとしたけど、思ったより力が強くてなかなか振り払えない。
あたしが困り果てていると、ふいに肩を掴む手の力が弱くなった。
「イテテ…………」
渡部君の悲痛の声に振り向くと、いつの間にか倉本君が渡部君の手首を掴んでいた。
「な、何だよ。倉本」
「櫻井………櫻井さんが困ってるように見えたから」
「だからって、邪魔するなよ!」
渡部君は倉本君の手を払い除けた。
その拍子に渡部君の手が、倉本君のメガネにあたり、メガネが勢いよく床に落ちた。
「あー、わりいー」
悪気はなかったのか、渡部君はメガネを拾う。
「とにかく、お前は婚約者がいるんだろ?そっちで仲良くやってろよ。千都ちゃんと俺のことはほっといてほしいなー」
子供に言い聞かせるように言うと、渡部君はメガネを倉本君に差し出そうとしたけど、渡部君は呆然と立ち尽くしていた。
「おおおお前…………!?」
何か凄いものでも見たように、渡部君は口をぱくぱくさせた。
まずい!正体がバレた!?
ハラハラしながら見つめていると、倉本君はパッとメガネを奪い取ると逃げるように去っていった。
「あ……あいつ、Kiritoだったのか………千都ちゃんは知ってたか……?」
「…………………」
呆然としながら呟く、渡部君の言葉が詰まる。
「はは……何だよ、その顔は知ってるって顔だね」
「わ、渡部君。このこと誰にも言わないで欲しいの……じゃないと、倉本君の今までの努力がー」
騒ぎにならないように、素顔を隠していたのにそれも水の泡になってしまう。
「ふーん。そんなにバラしてほしくないなら、一つ条件があるんだけどなー」
少し考えてから、渡部君はパチンと指を鳴らす。
「条件って………?」
「俺の彼女になってくれるなら、秘密にしてあげる」
「なっ………それじゃ、まるで脅迫じゃない……」
あたしは、不満そうに渡部君を睨みつけた。
「君を手に入れる為なら、そう思われても構わないよ」
「どうして………あたしの何処がいいわけ?渡部君なら、女の子が寄ってくるし、選び放題じゃない?」
あたしと付き合った人達からは、可愛げがないなんて言われしまうこともあるのに、渡部君ときたらしつこいくらい告白してくる。
「千都ちゃんの優しい所とか、気配り上手な所とか、あとは……」
「わわわーー、もう分かったから!」
聞いているこっちまでが恥ずかしくなってしまう。
「とにかく俺は、誰でもいいわけじゃないから。脅迫みたいな形でも千都ちゃんだから、彼女になってほしいんだ」
「………………」
渡部君の真っ直ぐな瞳に、ドッキとしてしまう。
「俺と付き合ってくれたら、あいつの秘密は誰にも言わないって約束する」
「…………………………」
渡部君……本気なんだ……。
あたしは、どうしていいか分からず俯いた。
一報、その頃ー。
「ハア~~何やってるんだ俺は………」
桐斗は、誰もいない屋上で大きな溜息をついた。
あいつには正体がバレるし。
櫻井を助けなければ、バレなくてもすんだのにー。
絡まれている櫻井を見たら、身体が勝手に動いて助けてしまった。
あいつと何してようと、俺には関係ないことなのに。
櫻井があいつといるとムカつくんだよなーーー。
空を見上げながらまた、大きな溜息をついた。
渡部君の条件を呑めば、倉本君の秘密をバラされなくてすむ……。
でも、倉本君のことが好きな気持ちで渡部君と付き合っても、そんなの…………。
「こんな条件つけなくても、俺は本気で千都ちゃんと付き合いたい」
あたしが悩んでいると、渡部君が口を開く。
「千都ちゃんが、いくらあいつのこと好きでも、あいつには婚約者がいるんだぜ。だったら尚更、あいつのことは忘れさせて、俺のこと好きにさせるから」
「………………………」
倉本君には若菜ちゃんがいる。
そう思うと、胸の奥がツキンと痛む。
あたしは、少し考えてから小さく頷いた。
「分かった。渡部君と付き合うよ………その代わり、絶対に秘密は守ってね。約束だからね!?」
「約束する!やった~~~~~!!」
よっぽど嬉しかったのか、渡部君はあたしに抱きついた。
「ちょ、ちょっとー!!」
あたしは、慌てて渡部君の身体を押しのけて教室に向かって歩き出した。
「あー、待ってよ。千都ちゃーん!!」
渡部君は急いで、追いかけて来るとあたしの横に並んだ。
教室の前まで来ると、渡部君も一緒に入ろうとした。
「渡部君は、クラス違うでしょーー」
「いいじゃん。まだ、始まるまで時間があるし…」
あたし達が教室の入り口で、話していると女の子達が渡部君に集まってきた。
「琉生ー。珍しいね?櫻井さんといるなんて。たまには、あたし達とも一緒にいようよー」
甘えた声で、女の子達が渡部君の腕を組もうとした。
「彼女と一緒にいてあげたいから、お前らとはいられないわー」
そう言うと、渡部君はあたしの肩を優しく抱き寄せた。
「え、えええ ~~~~~~~!!」
周りにいた人達も、驚いた顔であたし達に注目する。
「え、だって、櫻井さんに告白して断られたんじゃ……」
「そうだよ!それなのに、どうしていきなり彼女なわけ!?」
女の子達が、次々と文句を言っていると、
「邪魔」
いつの間にか、倉本君があたし達の後ろに立っていた。
突然のことにみんなはさっと、教室の入口を開けた。
「ちょっと、今の倉本君だよね?」
「態度がでかくなかった?」
女の子達が呆気にとられてるのも構わず、倉本君は教室に入ると、さっさと自分の席に行ってしまった。
「…………………」
絶対、あたし達の会話聞かれたよね?
あたしと渡部君が付き合うこと知って、倉本君はどう思っただろう。
あたしは何となく気になって、教室の中に入ると倉本君の席の方へ歩き出そうとした。
「千都ちゃん!今日の帰り一緒に帰ろう。迎えに来るから」
渡部君があたしに向かって、笑顔で言うと教室へ戻って行った。
きっと、あたしと渡部君が付き合ってるって噂は学校中に広まって、女の子達が黙ってないかも知れない。
あたしは、小さな溜息をつくとチラッと倉本君に目をやったけど、何事もなかったように本を読んでいる。
そうだよね……あたしが、誰と付き合おうと倉本君には関係ない。
でも…………、
あたしは、倉本君の前へ立った。
「あ、あの倉本君……さっきは、助けてくれてありがとう」
「…………別に大した事はしてないし。でも、あいつと付き合うんだったら助けなくてもよかったかもな」
あたしには目もくれず、本に目をやりながら倉本君は冷たい言葉を察した。
「べ、別に好きで付き合う訳じゃ………」
倉本君の為に付き合うことになったなんて言ったら、余計なことをするなって言うかもしれない。
「何だよ?好きでもない奴と付き合うのか!?」
倉本君は、イライラしながら本を閉じた。
「ーーーー!!」
始めて見る倉本君の態度に、あたしは肩をびくつかせる。
「悪い……本読みたいから、独りにさせてくれないかな」
「ご、ごめん」
一言、謝るとあたしはとぼとぼと自分の席の方へ歩いて行く。
「……………」
倉本君、怒ってたーーー。
好きでもないのに、付き合うって言ったから?
倉本君には関係ないことなのに、どうして怒ってるの?
もしかして、嫉妬してくれてるの?
訳が分からず、あたしの頭の中は混乱するばかりだ。
「千都ちゃーん。迎えに来たよ~~!」
放課後、渡部君がさっそく教室に顔を出した。
「千都、琉生君と帰れるなんていいなーー」
あたしの隣で、鈴香が羨ましそうな顔をさせた。
「あのね……あたし、一緒に帰るって言ってないんだけど」
「でも、せっかく迎えに来てくれたんだし、あたしは独りで帰るね~」
「あ、ちょっと、鈴香!」
あたしは困った顔で助けを求めようとしたけど、手をひらひらさせながら鈴香は教室を出て行ってしまった。
「じゃあ、帰ろうか!」
馴れ馴れしく渡部君は、あたしの肩に手を回した。
「………………」
こんな所、倉本君に見られたら嫌だなーー。
チラッと倉本君を見たけど、帰りの用意が終わると興味なさそうにあたし達の横をとおり抜けて教室を出て行こうとした。
「く、倉本君ーー!」
あたしは思わず呼び止める。
「…………何?」
あたしの呼び止めに、倉本君は足を止めた。
「えっ……と、あの……………」
倉本君の冷たい視線に、なんて言っていいかわからず口ごもる。
「………急いでるんだ。用がないなら、行くから」
「えっ…あ…………」
何か怒ってる?
そう言えば今日1日、目を合わせてくれない。
寂しさが混み上がって泣きそうになるけど、ぐっと堪えた。
「まあ、そう言わずに途中まで倉本も一緒に帰らない?」
何を思ったのか、渡部君はニヤニヤしながら倉本君の肩をぽんと叩いた。
「……………………」
な、何……考えてるの?
あたしは、不安な気持ちのまま2人の間に挟まれて帰ることになるのだった。